環境起学専攻

環境科学の開拓を目指す

2023年度沼口賞受賞者および受賞理由

2024-03-08

2023年度沼口賞

氏名: 清水 孟彦
題目: 長期的な生息地変化と生物多様性トレンドの統合:日本の沿岸性水鳥の事例(Integration of long-term habitat changes and biodiversity trends: an example from coastal waterbirds in Japan)

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【選考理由】

 社会経済の発展と生物多様性保全の両立は、今日の至上命題の一つである。長期モニタリングデータを用いて、生物の分布とその駆動要因の時空間変化を調べることは、この課題解決に向けた最も基礎的かつ重要なアプローチであり、これまで多くの研究が取り組んできた。しかしながら、これらの研究は、対象生物の主要な生息環境にのみ焦点を当てており、その周辺の多様な環境の影響を考慮してこなかった。

 そこで清水君は、急速に消失している沿岸湿地と沿岸性水鳥を対象に、全国157サイトで過去25年に取得された水鳥の長期モニタリングデータと、高解像度の衛星画像に基づく環境分類解析を組み合わせ、水鳥の種数・個体数が、沿岸湿地とその周辺の生息環境の面積にどのように応答するのか調べた。その結果、水鳥の種数・個体数は、季節を問わず湿地面積が大きいほど多く、特定の季節(春期)の水鳥個体数は、沿岸湿地周囲の陸域の生息環境が大きいほど多いことを示した。また、水鳥の種数・個体数の年変化率と湿地・周辺生息地の変化面積の間には有意な関係は見られず、水鳥群集の時系列変化パターンはこれらの要因だけでは説明できないことも示した。これらにより、水鳥群集と湿地・周辺環境の関係の理解にはさらなる研究が必要だが、その保全には沿岸湿地の外側の生息環境の役割にも焦点を当てる必要があることを示した。以上の成果は、水鳥保全における従来の知見を大きく前進させるものであり、水鳥の保全上必要な空間範囲や生息環境面積の数値目標の設定にも寄与する。また、多くの共同研究者を巻き込みながら主体的に研究を遂行し、水鳥の広域・長期データと詳細な衛星画像解析を従来よりも高い解像度・精度で組み合わせて解析した点も高く評価できる。

 以上の理由から、本論文は環境起学専攻の理念と目的に合致し、受賞に相応しいと認められた。

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