人間・生態システムコース

二十世紀後半の自然科学の大きな貢献の一つは、長期的時間スケールで顕在化し、広域的空間スケールで影響を及ぼす環境問題の存在を明らかにしたことにある。今では明確な自然科学的事実として認識される様々な環境問題は、これらの貢献の結果見いだされてきたものである。二十世紀後半の四半世紀は、それらの環境問題を引き起こす自然科学的機構を同定し、もたらされる時空間的結果を定量的に予測することに費やされてきた。二十一世紀はそれらの問題の長期的対策を科学的根拠をもとにして確立することが重要な課題となると予想される。その対策の一つとして,上記の環境問題を引き起こす物理・化学的過程の知見をもとにして、それが自然生態系を核となす人間・生物共生系にどのような影響を与えるか、どのような施策が有効であるかを評価同定する一連の研究が必要とされる。
そこで、このコースは、多様な構造を持つ人間・生態システムの修復と制御を可能にするために、そのシステムの構造と機構の調査研究を行うことを目的として創設されている。その目的のために、このコースでは二通りのアプローチによって研究を遂行する。一つは、野外での生態調査、観測、データ解析を組み合わせて地域の環境問題を包括的に取り扱う自然共生的アプローチ であり、もう一つは、地形・地質学的な調査研究をもとにした環境地理学的アプローチである。したがって、このコースでは、それぞれのアプローチに関する、あるいは統合されたアプローチの専門知識および問題発見・解析能力を備えた人材群を育成する。

Contents

2つのアプローチ

自然共生的アプローチ

自然共生的アプローチのフロー

生態系とその発達に関与する水循環は、地球温暖化などの気候変動に代表される自然あるいは人為のいずれかに起因した様々な攪乱を受けた上で成立している。そのため、温暖化の蓋に例えられる高緯度や高標高にある寒冷地域や、流域環境を映す鏡といわれる世界中の河川で、著しい環境劣化が起こっている。さらに、北海道のように独特な気象・地形と、それに起因した湿原や火山を有する特有の景観が発達している地域では、これらの景観も大きく変貌しつつある。したがって、これらの多様な諸事象間の因果関係とその動態を解明するためには、さまざまな時間・空間スケールに対する研究の切り口を武器として有することが必要となる。さらに、野外調査・観測とそれによって得られたデータの解析とモデル化までの一連の過程を理解することが望ましい。そこで、現象解明の基礎となる自然科学研究を背景に、人間活動をも考慮した劣化抑制と生態系や水などの循環の健全化を導く保全修復につながる研究教育を、気象-生物-地形間の相互作用に関連する未知の現象の発見と解明を含めて行う。
キーワード:地域気候・気象、永久凍土、環境保全管理、野外調査解析予測


環境地理学的アプローチ

ヒマラヤの高山景観調査の様子

主として環境地理学的アプローチをとる院生は、課程修了時には、環境地理学的な視点の高度な専門知識に基づいて、北方圏地域や途上国を中心とした環境問題の解決や,自然環境の保護・保全に取り組めるようになることを目指す。そのために、地域生態系が地形・地質学的な基礎の下に進化してきたことを理解し、生態系サービスを持続的な形で享受できる地域社会を構築する方策を学ぶ。
ヒマラヤやカラコルムなどの高山や極地、パミールや環オホーツク圏をはじめとする国境をまたいだ地域、北海道における山地から海岸地域までの連環など、幅広い地域と環境問題が研究対象である。途上国、北海道、持続的開発、地域社会、越境環境保全、陸海連環、氷河湖決壊、土地利用・土地被覆変化、エコツーリズム、ジオツーリズム、国立公園管理、保護地域(protected areas)、地生態学、GIS、リモートセンシングといったキーワードに興味のある学生を歓迎する。
キーワード:持続的開発、越境環境保全、陸域環境構造発達


コース担当教員

露崎 史朗、渡邉 悌二、石川 守、豊田 和弘、佐藤 友徳、根岸 淳二郎、早川 裕一、先崎 理之、白岩 孝行