環境起学専攻

環境科学の開拓を目指す

2022年度沼口賞受賞者および受賞理由

2023-03-23

2022年度沼口賞

氏名: 森岡 丈博
題目: チベット高気圧と太平洋高気圧の二段階構造が日本における熱中症患者数に与える影響(Influence of the two-tired structure of Tibetan and Pacific high pressure systems on the number of heat stroke patients in Japan)
 【修士論文の要旨】

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【選考理由】
 近年の全球的な気温上昇を背景として,世界各地で記録的な高温が観測されている.このような顕著な高温は,生態系を含む自然環境だけでなく,干ばつによる農作物の生育不良や人体への健康影響など人間社会においても大きな脅威となりつつある.とりわけ,高齢化など社会的な状況が変化しつつある日本においては,夏の暑熱環境と熱中症リスクの関係性の評価は気候変動に適応するための重要課題の一つである.

 夏季の日本付近の天候には対流圏下層にみられる太平洋高気圧が支配的な役割を果たすことが知られているが,近年の熱波の事例では対流圏上層のチベット高気圧の存在も認められており,これらの高気圧の二段階構造が顕著な高温を理解する上での鍵となっている.しかし,このような高気圧の二段階構造と熱中症リスクとの関係は不明であった.そこで森岡君は,機械学習の手法の一つである自己組織化マップを対流圏下層・上層の日々の天気図に適用し,太平洋高気圧とチベット高気圧の出現日を特定し,これを都道府県別の日々の熱中症患者数と比較することで,高気圧の鉛直構造による熱中症リスクの違いを調べた.その結果,同じ地上気温の条件で比較しても,二段階構造が確認された日の方が太平洋高気圧のみの日に比べて熱中症患者数が多いことが分かった.この要因として,二段階構造の条件下では地表付近の比湿や日射量が高いことにより熱中症リスクが上昇する傾向にあるためと考えられる.修士論文研究では,上記の解析に加えて気象庁による全球数値予報データを解析し,近年の2事例について二段階構造の発現が約1週間前から予報できることを指摘した.つまり,高気圧の鉛直構造に着目することで,地上気温を指標とする場合よりも先行して高温の予兆をとらえることができる可能性が示された.このことは,熱中症リスクの予測を高精度化するうえでも有用な知見である.以上のように,森岡君の研究は膨大な気象データを機械学習により効果的に整理・集約するとともに,これを行政が提供するデータと関連付けることで気候変動対策としての価値を創出できることを示した好例と言える.さらに,本研究の一連の解析手法は様々な分野へも適用可能であり,行政や産業界のデジタルトランスフォーメーション推進が環境問題の解決につながることを示唆している.

 以上の理由から,本論文は環境起学専攻の理念と目的に合致し、受賞に相応しいと認められた.

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