北海道大学 大学院 環境科学院

環境科学の座標軸を提示する

北極の海氷融解の早期化が夏の植物プランクトンを増殖

2023-01-25

本学院地球圏科学専攻の的場澄人助教、飯塚芳徳准教授ら(いずれも低温科学研究所)の研究グループは、グリーンランドで採取されたアイスコア中の化学成分の分析を行い、2002 年以降、夏に海洋プランクトンの増殖によって海洋から大気へ放出される硫黄化合物(メタンスルホン酸)の濃度が、それ以前と比べて 3〜6 倍増加していることを検出し、海氷の融解時期が早期化したことがその要因であることを示しました。

大気中に浮遊する不純物(エアロゾル)の組成や濃度は、それを採取・分析する必要がありますが、長期間のデータは非常に少なく、特に北極域では殆どありません。氷床には、大気中のエアロゾルを含む雪が連続的に降り積もっています。氷床を表面から深部に向かって円柱状にくり抜いて採取されるアイスコアに含まれる化学成分は、大気中のエアロゾルの連続的な変化を反映し、長期間のエアロゾルの変化を復元することができます。

アイスコア中の夏のメタンスルホン酸濃度は、2002 年から増加し始めました。それと連動してグリーンランド東部沖の海氷が融解する時期が約 1 ヶ月早くなり、夏に植物プランクトンの増殖が見られることが、人工衛星データとの比較から分かりました。温暖化が引き起こす海氷融解の早期化は、海洋表層の成層化、海水中に届く太陽光の増加、海氷に付着している藻類(アイスアルジー)の再配布などを生じ、植物プラントンの増殖を促進するプロセスが提案されていましたが、本結果は、夏の海洋プランクトンの増殖による海洋から大気への硫黄化合物の放出量が実際に増加している観測的証拠を初めて示しました。

大気中の硫黄化合物は雲の形成に重要であり、地球の気温をコントロールする放射収支に大きく影響します。本研究の成果は、地球温暖化のメカニズムを理解する上で重要なプロセスを示すもので、将来予測の精度向上に寄与することが期待されます。

なお本研究成果は、2022 年 12 月 26 日(月)公開の Communications Earth & Environment 誌に掲載されました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
北極の海氷融解の早期化が夏の植物プランクトンを増殖~夏に海洋プランクトンが大気へ放出するエアロゾルの増加をアイスコアから検出~(PDF)

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