植物の胚乳から三倍体と六倍体を同時に作る技術を開発
2021-01-15本学院生物圏科学専攻博士後期課程2年の中野有紗氏,星野洋一郎教授(北方生物圏フィールド科学センター),千葉大学環境健康フィールド科学センターの三位正洋名誉教授の研究グループは,植物の胚乳を培養することで,二倍体の植物から三倍体と六倍体を同時に作出する技術を考案しました。
植物の倍数性レベルが上がると花や果実,葉のサイズが大きくなるなどの利点があります。倍数体を作出してその利点を品種改良に利用する方法は,倍数性育種として知られています。これまで,三倍体や六倍体を作出するためには,コルヒチンによる倍加と交配を行う必要があり,多くの時間と手間が必要でした。本研究では,胚乳が三倍性を示すことに着目し,ヒガンバナ科のマユハケオモト(ハエマンサス:Haemanthus albiflos)を材料に,胚乳培養とコルヒチン処理を組み合わせることで,交配を経ずに三倍体と六倍体を同時に作出する手法を考案しました。
未熟な種子を滅菌して,胚乳と胚を分離して摘出し,組織培養を行いました。胚乳はカルス形成を経て,植物成長調節物質を添加しない培地に移すことで植物体が再生されることがわかりました。この再生した植物は,染色体観察とフローサイトメトリーによるDNA量の測定によって三倍体であることを確認しました。次に,胚乳由来カルスにコルヒチンを処理することで六倍体を誘導しました。興味深いことに,胚乳由来カルスは胚形成能をもち,不定胚経由で植物体になっていました。
植物の胚乳は,種子の中の大部分を占め,胚に養分を供給する役割を担っています。イネやトウモロコシでは,可食部分が胚乳です。多くの植物では,重複受精により二倍体植物の胚乳は三倍性となります。しかし,胚乳は胚に養分を供給する役割を終えると退化してしまい,植物にはなりません。
近年,胚乳を組織培養することによって,二倍体の植物の胚乳から三倍体ができることがわかってきましたが,本研究では,マユハケオモトの胚乳が高い植物体再生能を保持することを明らかにするとともに,コルヒチン処理と組み合わせることで三倍体と六倍体を同時に作出する培養系を確立し,胚乳培養の応用可能性を示しています。
なお,本研究成果は,2020年11月27日(金)公開のPlant Cell, Tissue and Organ Culture誌にオンライン掲載されました。
詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。