北方領土におけるエゾシカの生息状況が明らかに~ここ数年で国後島に定着か?~
2020-04-20本学院生物圏科学専攻の大舘智志助教(低温科学研究所)と国後島のクリリスキー自然保護区事務所のアレクサンドル・キスレイコ所長らの研究グループは,1986年から2019年までの33年間を対象に国後島と歯舞群島を中心とする北方領土におけるエゾシカの生息情報を解析しました。
従来,エゾシカの分布地は北海道本島とされ,国後島や歯舞群島からは江戸時代から終戦まで明確なエゾシカの生息記録がありませんでした。終戦後1970年〜80年代前半までは,ごく稀に単独の個体が一時的に発見されることはありましたが,恒常的な生息は確認されていませんでした。
国後島にあるクリリスキー自然保護区事務所では1986年半ば以降,北方領土におけるエゾシカの情報を収集・蓄積してきました。それらを取りまとめた結果,エゾシカの遺骸は3年に1回ほどの頻度で,国後島と歯舞群島の水晶島(1 回のみ)で発見されていることがわかりました。そして2017年からは毎年,国後島において,直接観察や糞,足跡が確認されています。2019年には2頭が同時に目撃されました。このことから国後島において少なくとも数頭のエゾシカが定着していると思われますが,今のところ島内での繁殖は確認されていません。また,エゾシカは冬期に流氷の上を歩くか,夏期に海峡を泳いで渡ったと考えられていますが,詳しい分散経路はわかっていません。
北方領土には貴重な植物が生育しています。一方,対岸の知床半島ではエゾシカが急増したことにより植生が破壊されています。仮にエゾシカが国後島で今後も定着して増殖した場合,知床半島のように植生の破壊が懸念されます。世界的にも貴重な自然環境を有している北方領土の自然を保全するためには,政治的思惑を超えたエゾシカのモニタリングと実態調査が望まれます。
なお,本研究成果は,2020年4月17日(金)公開のMammal Studyにオンライン掲載されました。
詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。