北海道大学 大学院 環境科学院

環境科学の座標軸を提示する

ワオキツネザルのメスを惹き付けるオスの匂い―霊長類のフェロモン様物質の同定に初めて成功―

2020-04-20

多くの動物において,配偶者選択や同性間の縄張りあらそいなど,種の繁殖のために必須な行動には,体臭を介した嗅覚コミュニケーションが重要な役割を果たしています。今回,本学院生物圏科学専攻の早川卓志助教は,東京大学,京都大学霊長類研究所,進化生物学研究所,日本モンキーセンターなどの研究者らとともに,特徴的な嗅覚コミュニケーションを行うワオキツネザルに注目し,ヒトを含む霊長類で初めて,異性を惹き付けるフェロモン様効果のある匂い物質の同定に成功しました。

ワオキツネザルのオスは,手首の内側にある臭腺(前腕腺)を自身の長い尻尾にこすりつけてその尻尾を大きくゆらし,メスへのアピールや他オス個体への威嚇を行います。行動観察により,メス個体が,繁殖期のオスの前腕腺分泌液の匂いをより長く,より注意深く嗅ぐ一方で,非繁殖期の分泌液にはあまり興味を示さないことを明らかにしました。次に,分泌液の成分分析を行い,繁殖期の分泌液中には,体内の男性ホルモン(テストステロン)の増加に伴い,フローラル・フルーティー様の香りを持つ三種類の長鎖アルデヒド群が増加していることを見出しました。さらに,これらの成分のみを染み込ませた綿球に対しては,繁殖期のメスのみが興味を示し,非繁殖期のメスは興味を示さないことが分かりました。すなわち,今回同定されたオスの繁殖期を特徴づける匂い成分が,メスを誘引するフェロモン様の匂いシグナルとして機能していることがわかりました。

本成果は,未だ謎の多い霊長類の嗅覚コミュニケーションの実態を物質レベルで裏付ける最初の知見であると同時に,野生での絶滅が危惧されるワオキツネザルの繁殖管理や保全に役立つと考えられます。

 

本研究成果は,学術誌「Current Biology」に2020年4⽉16日付でオンライン公開されました。

 

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。

ワオキツネザルのメスを惹き付けるオスの匂い―霊長類のフェロモン様物質の同定に初めて成功―(PDF)

  • 所在地・連絡先

    〒060-0810
    札幌市北区北10条西5丁目
    北海道大学大学院環境科学院/ 地球環境科学研究院
    【問い合わせ先・相談先】
  • 月別アーカイブ

  • カテゴリー別アーカイブ

北海道大学 大学院 環境科学院 / 地球環境科学研究院