【プレスリリース】植物が過剰な栄養の取り込みを防ぐ仕組みを解明
2018-06-05本学院生物圏科学専攻の三輪京子准教授(地球環境科学研究院)と博士後期課程の相原いづみさんらの研究グループは、シロイヌナズナのホウ素輸送体タンパク質である BOR1の発現が、今までに見つかっていたタンパク質「分解」による制御に加えて、タンパク質を「合成」する翻訳の段階でも環境に応じて制御されることを明らかにしました。
植物は必須栄養素であるホウ素を土壌から吸収しますが、ホウ素は多すぎると害になるため、ホウ素を取り込む量を厳密に制御する必要があります。BOR1はホウ素が少ない環境で積極的にホウ素を体内に取り込むための輸送体タンパク質です。ホウ素が十分存在する環境では BOR1はタンパク質分解を受けて量が減少することがわかっていました。本研究ではこのタンパク質分解制御に加えて、タンパク質を合成するステップである翻訳の段階においても BOR1が制御されることを示し、その機構を解明しました。輸送体の発現量の調節機構において、翻訳における制御の例は今までほとんど示されていませんでした。
また、BOR1の翻訳の制御は、分解による制御よりもホウ素濃度が高い環境で引き起こされることが明らかになりました。これは、BOR1が明らかに必要でない環境で、BOR1タンパク質を作っては壊すという制御よりも、そもそもの合成を抑制しようとする働きであると考えられます。さらに、翻訳と分解の二つの制御を失った植物体を利用して、これら二つの制御が過剰なホウ素の取り込みを防ぎ、植物の高濃度ホウ素環境への適応に貢献することを実証しました。
本研究は、植物が幅広い無機栄養環境に適応するために緻密な応答機構を獲得してきたことを示す一例となります。また今回の知見は、無機栄養の輸送の調整を通じた、栄養が少ないやせた土地や栄養が過剰に存在する不良な土壌環境にも耐える作物品種の開発への貢献が期待されます。
なお、本研究成果は、米国東部時間 2018年5月4日(金)にPlant Physiology誌にオンライン掲載されました。
詳細については、以下のプレスリリースをご覧ください。
植物が過剰な栄養の取り込みを防ぐ仕組みを解明〜環境に応答して栄養輸送体の量を多段階で微調節〜(PDF)