全海洋の深層に広がる南極底層水の起源水形成機構を発見
2022-10-22本学院地球圏科学専攻の大島慶一郎教授(低温科学研究所)、国立極地研究所の伊藤優人研究員らの研究グループは、南極地域観測隊によるケープダンレー沖での観測から、海中で大量に海氷が生成されるメカニズムを発見し、それによって南極底層水の起源水となる重い水が作られることを明らかにしました。
世界で一番重い海水は南極海で作られ、南極底層水として沈み込み、海洋の大循環が駆動されます。研究グループは10年ほど前に、南極底層水の生成域として、それまで知られていた3ヶ所に加え、新たに南極・昭和基地の東方1,200kmのケープダンレー沖が南極底層水生成域であることを発見しました。しかし、なぜここで底層水が生成されるのかはよくわかっていませんでした。
本研究では、底層水起源水が生成されると推定される沿岸ポリニヤ内において、通年の連続観測を行い、海中100m深近くまで海氷(フラジルアイス)が生成される、極めて効率的な海氷生成メカニズムの存在を発見しました。さらに衛星観測から、このケープダンレー沖が全南極で最もこのメカニズムが働く海域であることも明らかにしました。大量に海氷が生成されると塩分の大半が氷からはき出されることで低温・高塩の重い水が作られ、この海域が底層水を形成する海域となるわけです。
海洋大循環の起点となる南極底層水の形成過程の一つを明らかにした本研究は、気候変動の理解や予測にも繋がります。また、フラジルアイスが海中深くまで達すると、生物生産を誘起する物質を海底から取り込むことができ、海氷を介する物質循環や生物生産の理解にも繋がる研究と言えます。
本研究は科学研究費補助金・基盤研究S(課題番号20221001; 20H05707)等の助成を受け、現場観測は南極地域観測の公開利用研究として実施されました。なお、本研究成果は、日本時間2022年10月21日(金)公開のScience Advances誌にFOCUS論文としてオンライン掲載されました。
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