水田は周辺地域の気温の上昇を緩和しているが、その効果は大気CO2の増加により低下する
2021-03-15日本をはじめ、アジア各国の典型的な景観の一部として親しまれる水田には、水田や周辺地域の気温上昇を緩和させる効果があることが知られています。一般に、盛んに蒸散している植物は気化冷却)により植物体温が低くなることから、特に晴天の日中に周辺の気温上昇を抑えますが、大気中のCO2濃度が上昇すると、植物体の気孔の開き具合(気孔開度)が小さくなるため、蒸散が減ることで、植物による気温上昇を抑制する効果が低下します。このため「水田の気象緩和効果」は将来的に低下するのではないかと懸念されています。そこで、農研機構と本学院地球圏科学専攻の渡辺力教授(低温科学研究所)らの研究グループは,水稲の気孔応答による温度の変化と上空の大気層との相互作用を考慮した、大気–水田生態系結合モデルを開発し、関東付近の市街地を含む水田が広がる地域を対象にシミュレーションをおこないました。その結果、現在の夏季の典型的な晴天日における水田の日中の最高気温は、対象とした地域の市街地と比べて2℃ほど低くなることが示されました。しかし、大気CO2濃度が倍増した条件では、水稲の蒸散が減って気温上昇抑制効果が減り、水田の気温は0.2~0.7℃(平均で0.44℃)ほど現在よりも上昇することがわかりました。市街地では水田の気温上昇の影響を受けて平均で 0.07℃上昇しますが、市街地のうち水田地帯に隣接するような場所では最大で0.3℃ほど気温が上昇すると推定されました。
これらの結果より、将来、大気中のCO2濃度が上昇すると、「水田の気象緩和効果」が低下し、水田およびその周辺地域の日中の最高気温が上昇することが分かりました。また温暖化による気温上昇と相まって、水田では夏季の高温によるお米の品質低下や不稔などの障害リスクが増加する可能性が懸念されます。
本成果は、国際科学誌 Boundary-Layer Meteorology に掲載されました(オンライン版2021年3月5日)。
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