北海道大学 大学院 環境科学院

環境科学の座標軸を提示する

プレスリリース

グリーンランド北西部で野外廃棄物焼却時のPM2.5を観測~北極域で「誰一人取り残さない」大気環境把握への貢献に期待~(地球圏科学専攻 安成哲平准教授)

2024-04-22

Hokkaido University issued a press release regarding the research conducted by the research group including Assoc. Prof. Teppei Yasunari (Divisions of Earth System Science).

URL: https://rmets.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/asl.1231

Detail (Japanese): https://www.hokudai.ac.jp/news/2024/03/pm25-1.html

海洋の渦状循環が温かい海水を湧昇させ棚氷を融かす~世界の脅威となっている南極棚氷の融解に新仮説~(地球圏科学専攻 中山佳洋助教)

2024-04-22

Hokkaido University issued a press release regarding the research conducted by the research group including Assoc. Prof.Yoshihiro Nakayama(Divisions of Earth System Science ).

URL: https://www.nature.com/articles/s41467-024-47084-z

Detail (Japanese): https://www.hokudai.ac.jp/news/2024/04/post-1426.html

気象衛星ひまわりの超高頻度観測により台風の目の変化を検出~台風の強度推定と予報の向上への貢献に期待~

2023-06-15

ポイント

  • 気象衛星ひまわりの特別観測により、台風の目の中の風速の高頻度・高密度な検出に初めて成功。
  • 台風の目の中で風速を加速する新しいメカニズムを発見。
  • 開発した手法の活用により、台風強度の診断のさらなる向上と、台風予測の向上につながると期待。
ひまわり8号による2020年の台風10号の中心付近の可視画像の例。背景の白黒画像。白飛びしないように暗めに彩色。青系色の等高線は凡その雲頂高度(km)。等高線が混んでいるところの内側が目の中。

概要

本学院地球圏科学専攻大気海洋物理学気候力学コースの堀之内武教授(地球環境科学研究院)と気象庁気象研究所台風・災害気象研究部第一研究室などからなる研究グループは、気象衛星「ひまわり8号」を用い、30秒という非常に短い間隔で行われた特別観測をもとに、台風の目の中の風速の分布を高頻度・高密度に検出することに初めて成功しました。

同グループは、猛烈な勢力に発達したあと沖縄地方を襲い九州に接近して被害を引き起こした2020年の台風第10号(Haishen)の盛期を対象とする研究を実施し、目の中心付近の回転の速さが短時間に大きく変化したこと、その要因が、これまで見過ごされていた新しいメカニズムによることなどを明らかにしました。台風の予報は、防災上きわめて重要ですが、台風強度の予報は難しいことが知られています。その理由の一つは台風の実況把握が難しいことです。台風はその一生のほとんどを海上で過ごすため、主な観測手段は人工衛星になります。より良い実況把握と予報には、衛星観測とその利用法の向上が求められます。この研究で開発された手法は、今後、台風の変動過程に関する科学的な理解のさらなる増進に貢献し、台風の強度や構造の診断の向上につながること、それが台風の予測の向上につながることが期待されます。

なお、本研究成果は、2023年1月16日(月)の、Monthly Weather Review誌にオンライン掲載されました。

論文名:Stationary and Transient Asymmetric Features in Tropical Cyclone Eye with Wavenumber-1 Instability: Case Study for Typhoon Haishen (2020) with Atmospheric Motion Vectors from 30-Second Imaging(台風の目の中の定常及び非定常構造と波数1不安定:30秒撮像による大気追跡風を用いた台風Haishen(2020)のケーススタディ)
URL:https://doi.org/10.1175/MWR-D-22-0179.1

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グリーンランドの氷河で流出河川の流量を水音で測定~安価で信頼性の高い流量測定方法を提案~

2023-06-15

ポイント

  • 氷河から流出する融け水の量を音響センサのシグナルで測定することが可能。
  • 特に50~375 Hzの音の大きさが河川流量の指標となる。
  • 安価で設置も容易な音響センサが氷河融解や河川のモニタリングに活躍。
グリーンランド北西部カナック氷河の融け水。この水が流れる音を音響センサで測定した。

概要

本学院 地球圏科学専攻 雪氷・寒冷圏科学コース のエヴゲニ・ポドリスキ准教授(北極域研究センター)、博士前期課程の今津拓郎氏、杉山慎教授(低温科学研究所)らの研究グループは、グリーンランドの氷河から流出する河川で音響センサを使った測定を行い、河川の流量を音の大きさによって精度良く測定できることを明らかにしました。

夏のグリーンランドでは、氷河の融け水が川となって流れ出します。この河川の脇にセンサを設置して水音を測定したところ、音響シグナルの大きさと河川流量に極めて高い相関関係が判明しました。通常、河川の流量を知るために、高価な装置を激しい水流の中に設置し、冷たい水の中で人力による測定が行われます。本研究で提案する手法を使えば、安価で小さな装置を陸上に設置するだけで、長期間にわたって精度の良い流量観測が可能です。そのような利点を活かして、音響センサを多数の氷河に展開して長期間の測定を行えば、氷や雪の融解が進む北極域の研究で大きな武器となります。また観測地では氷河の融解や大雨によって洪水災害が発生しており、そのメカニズムの理解や、災害対策への応用も期待されます。

通常の河川の流量は、冷たい水流の中で大変な労力をかけて行う。本研究では、このようにして
測定した流量を、音響センサで記録したシグナルと比較した。(プレスリリース図2より)

本研究成果は、2023年4月26日(水)公開のGeophysical Research Letters誌にオンライン掲載されました。

論文名:Acoustic Sensing of Glacial Discharge in Greenland(グリーンランドの氷河から流出する河川の流量を音響シグナルによって測定)
URL:https://doi.org/10.1029/2023GL103235

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冬型の気圧配置の日は急速に温暖化している ~オホーツク海の海氷減少が西高東低の気圧配置における北海道の温暖化を強めていることを解明~

2023-06-12

ポイント

  • 冬型の気圧配置の日に限定すると、北海道は冬季平均の 3 倍以上の速さで昇温していることを発見。
  • オホーツク海の海氷減少が冬型の気圧配置の日に北海道へ流入する寒気を加熱していたことを解明。
  • 地球温暖化による大雨や大雪の変化を評価する、新たな手法の開発に繋がることへ期待。
冬型の気圧配置の日における北海道の昇温メカニズム

概要

本研究院の田村健太博士研究員、佐藤友徳准教授(環境起学専攻人間・生態システムコース、地球環境科学研究院)の研究グループは、機械学習を用いて過去44年分の日々の気象データを解析し、気温や大気中に含まれる水蒸気量の長期的な変化の傾向を気圧配置毎に分けて評価することに成功しました。これにより、北海道周辺における長期的な気温の上昇は、いわゆる西高東低の冬型の気圧配置の場合には、冬季平均の3倍以上のペースで進行していることが分かりました。

従来から知られているように、冬型の気圧配置では、ユーラシア大陸やオホーツク海からの寒気の流入により、日本海側の地域を中心に厳しい寒さや大雪となることがあります。本研究では、日本に流入する寒気の起源が気圧配置毎に異なることに着目し、日本周辺における気温や水蒸気量の経年変化を気圧配置毎に解析しました。オホーツク海を起源とする寒気が日本に流入するような気圧配置の日に着目して調べたところ、北海道周辺の気温の上昇率は、冬季平均の上昇率に比べて3倍以上大きく、同時に大気中の水蒸気量も増加していることが分かりました。水蒸気量の増加は降水量の増加に繋がりうることから、本成果は、大雪などの顕著現象に対する地球温暖化の影響を正確に見積もる、新たな手法の開発に繋がることが期待されます。

なお、本研究成果は、2023年6月6日(火)公開のGeophysical Research Letters誌に掲載されました。

論文名:Localized Strong Warming and Humidification over Winter Japan Tied to Sea Ice Retreat(海氷の後退による冬季日本の局所的な強い温暖化と湿潤化)
URL:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2023GL103522

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温暖化環境下において東南極氷床が融解し得ることを発見 ~海面が将来大幅に上昇するリスクへの警鐘~

2023-06-12

本学院地球圏科学専攻生物地球化学コースの飯塚睦氏(博士後期課程)、関宰准教授(低温科学研究所)、入野智久准教授(地球環境科学研究院)、山本正伸教授(地球環境科学研究院)、富山大学の堀川恵司教授、国立極地研究所菅沼悠介准教授、産業技術総合研究所の板木拓也研究グループ長、高知大学の池原実教授、ロンドン大学のデビット・J・ウィルソン博士、インペリアルカレッジのティナ・ファンデフリアート教授らの研究グループは、東南極沖の海底堆積物コアの解析から、地球表層が温暖化していた最終間氷期(13-11.5万年前)において、東南極の一部の氷床が後退し、当時の海面上昇に大きく寄与したことを解明しました。

近年の温暖化で、西南極氷床の融解は加速しており、今後これが数メートル規模の海面上昇につながる可能性があります。一方、東南極氷床は西南極氷床に比べて、温暖化に対して安定的だと考えられていました。しかし、近年になり東南極氷床の一部で融解が観測され始めたため、今後の温暖化により、東南極氷床の著しい融解が起きるかどうかに注目が集まっています。

そこで、本研究では、過去の温暖な時代(最終間氷期)の東南極氷床の変動を復元し、将来の温暖化で東南極氷床が縮小する可能性があるのかを検証しました。その結果、13-11.5万年前の最終間氷期に、東南極氷床の著しい縮小が2回発生していたことが明らかになりました。これらの氷床の縮小は、海面を約0.8m上昇させるほどの規模であったと見積もられました。よって、地球温暖化が持続した場合、西南極氷床だけでなく東南極氷床の一部も融解し、より大きな海面上昇が引き起こされる可能性があることが示されました。

本研究成果は、2023年4月18日(火)公開のNature Communications誌に以下のように掲載されています。

論文名:Multiple episodes of ice loss from the Wilkes Subglacial Basin during the Last Interglacial(最終間氷期におけるウィルクス海盆からの複数の氷床縮小エピソード)

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なぜ温暖な森林は生産量が大きいのか?

2023-03-15

本研究院の甲山隆司名誉教授は、東京大学大学院農学生命学研究科・生圏システム学専攻の甲山哲生助教をはじめとするワーゲニンゲン大学・群馬大学など内外の共同研究者と共に、インドネシアやマレーシアの熱帯林から台湾や沖縄の亜熱帯林、そして鹿児島の暖温帯林から北海道の亜寒帯林に至る 60 の森林の継続調査のデータを用いた解析から、より温暖な森林ほど、相対的な(炭素量当たりの)年間炭素生産量が高い低木性樹種の比率が高くなることによって、同じ樹木炭素量を持つ森林の炭素生産量がより高くなることを明らかにしました。

従来の研究では、気温と樹木種多様性、そして森林生産の間の相関関係を示すに留まっていましたが、樹木種レベルの生産に注目した本研究では、これらの間の結びつきをはじめて機能的に解明しました。自然林の持続的管理では、炭素量が大きく、生産量も大きい高木種の保全が強調されてきましたが、本研究によって、低木種を含む樹木種多様性の保全が森林生産量の維持にとって重要であることが明らかにされました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
なぜ温暖な森林は生産量が大きいのか? ――樹木群集の炭素量分布が森林の生産量に貢献する――(PDF)

寄生虫に感染した魚は釣られなくなる?

2023-03-03

本学院生物圏科学専攻博士後期課程 2 年の長谷川稜太氏と同生物圏科学専攻の小泉逸郎准教授(地球環境科学研究院)は、口に寄生する甲殻類(サルミンコーラ)が、宿主である淡水魚イワナの釣られやすさに影響することを明らかにしました。特に、イワナの肥満度(コンディション)に応じて、寄生された時の釣られやすさが変化することを発見しました。

魚釣りは世界中で広く行われている経済・レジャー活動です。釣り人はより大きく、美しく、美味しい魚が釣れると満足度が高まります。一方、釣った魚の体表や口の中、あるいはお腹の中から寄生虫が出てくることがまれにあり、このような寄生虫は釣り人の満足度を低下させます。しかし、寄生虫に感染された魚が釣られやすくなるかどうかは、これまで全く注目されてきませんでした。一般に、寄生虫は宿主から栄養を奪うため、宿主の活動性が低下し感染魚は釣られづらくなると予測できます。特に本研究の対象種は口腔内に寄生するため、宿主魚類の採餌の邪魔になるとも考えられます。

そこで研究チームは、サルミンコーラに寄生されたイワナが実際に釣られづらくなるかどうかを調べました。調査の結果、寄生されたイワナの釣られやすさは魚のコンディションによって異なり、痩せている感染イワナは釣られづらくなり、逆に太っている感染イワナは釣られやすくなることが明らかとなりました。前者は餌を追う体力がなく活動性が低下するため、釣られなくなったと考えられます。一方、後者は寄生虫の感染により消費するエネルギーを補償するために積極的に餌を食べるようになった可能性があります。本研究の成果は、寄生と魚の釣られやすさの関係を科学的に示しただけでなく、寄生虫が釣り人の満足度や釣魚の食料消費にも影響しうることを示唆しています。

なお、本研究成果は、2023 年 2 月 21 日(火)公開の The Science of Nature 誌にオンライン掲載されました

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
寄生虫に感染した魚は釣られなくなる?~渓流河川のイワナで検証~(PDF)

縁辺海から北太平洋に輸送される栄養素

2023-03-03

本学院地球圏科学専攻の山下洋平准教授(地球環境科学研究院)、西岡 純教授(低温科学研究所)は、オホーツク海とベーリング海の陸棚堆積物に由来する鉄分の主な形態が、中層水循環に伴い北太平洋へと長距離輸送される間に変化することを解明しました。

鉄分は海洋の光合成生物に必須な栄養素ですが、海水に溶けにくい性質を持ちます。北太平洋の亜寒帯域は鉄分が不足し、光合成生物の増殖が抑制されることが知られていますが、オホーツク海の堆積物から長距離輸送される鉄分がその抑制を緩和させていることが分かってきました。一方、海水に溶けにくい鉄分が、どのように輸送されているのかは不明で、その将来変化の予測は困難でした。

そこで研究グループは、極東ロシア海洋気象学研究所との国際共同観測などを実施して、オホーツク海とベーリング海、北太平洋の広範な海域における鉄分の濃度と鉄分を溶かす機能を有する腐植物質の濃度の分布を世界で初めて同時に観測し、両者の比較から鉄分の形態を評価しました。その結果、堆積物から海水へと移行した直後の鉄分は、粒子状やコロイド状が主な形態であるのに対し、中層水循環により長距離輸送され、亜熱帯循環域やアラスカ循環域に到達した鉄分は腐植物質との相互作用により溶けた状態であることが明らかになりました。

オホーツク海の堆積物から海水へと供給される鉄分の量は、オホーツク海の海氷生成と関係がある事が考えられています。オホーツク海の海氷生成量が減少すると、堆積物から海水へ供給される鉄分の量や形態が変化することが考えられるため、本研究成果は北太平洋への鉄分供給の将来変化を予測する上で重要な知見となります。

なお、本研究成果は、2023 年 2 月 22 日(水)公開の Journal of Geophysical ResearchBiogeosciences 誌にオンライン掲載されました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
縁辺海から北太平洋に輸送される栄養素~中層水による輸送中に鉄分の主な形態が変化する事を発見~(PDF)

高緯度と熱帯からの遠隔影響がオホーツク海氷の年々変動を引き起こす

2023-02-27

オホーツク海は北半球で最も南まで海氷(流氷)が到達する海域です。冬季から春先にかけ、世界自然遺産・知床をはじめとした北海道の沿岸には流氷が接岸しますが、オホーツク海の海氷は年によって多い年と少ない年があります。その変動理由の解明は、地球温暖化の進行に伴う海氷の減少傾向を理解する上でも、流氷観光など社会経済活動への影響を考える上でも、重要な研究課題です。

本学院地球圏科学専攻の三寺史夫教授(低温科学研究所)は、筑波大学生命環境系の植田宏昭教授と共同で、シベリア高気圧、アリューシャン低気圧、太平洋などで構成される「環オホーツク気候システム」の観点から、長期の観測データ(全球大気データや人工衛星データ)に基づき、オホーツク海全域の海氷の発生量が年ごとに変動するメカニズムを解析しました。

その結果、海氷が平年よりも多い年は、アリューシャン低気圧が北太平洋の全域で強まっていることが分かりました。これに伴い、シベリアからの北西風(寒気流)がオホーツク海上で強まり、寒気の蓄積量も多くなっていました。一方、熱帯域との関係に注目すると、海氷が多い年はエルニーニョ的な海水温分布になっており、アリューシャン低気圧の強化とも連動していることが確認されました。これに対し、海氷が少ない年の熱帯域では、ラニーニャ的な海水温分布になっていました。

さらに、海氷が多い年は、海氷の面積が増え始めてから数カ月後に、アリューシャン低気圧が強まることが分かりました。アリューシャン低気圧の強化は、ユーラシア大陸からの寒気の流入を促進します。このため、寒気蓄積→海氷増加→アリューシャン低気圧の強化という連鎖的な季節進行は、海氷の維持につながる正のフィードバック関係にあることが示唆されます。

本研究が示した「環オホーツク気候システム」の観点から海氷の変動機構のメカニズム解明をさらに進めることで、季節予報の精度向上や温暖化予測の理解が深まることが期待されます。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
高緯度と熱帯からの遠隔影響がオホーツク海氷の年々変動を引き起こす~「環オホーツク気候システム」の端緒を開く~(PDF)

深海温泉を源とする微生物に分解されない有機物

2023-02-14

本学院地球圏科学専攻の山下洋平准教授(地球環境科学研究院)と、同地球圏科学専攻博士前期課程(研究当時)の森雄太郎氏は、東京大学大気海洋研究所の小川浩史教授と共同で、東太平洋海膨における深海熱水域から熱成炭素である溶存黒色炭素が供給されていることを明らかにしました。

森林火災や化石燃料燃焼に伴い、不完全燃焼産物である煤や炭などの熱成炭素が生成されます。熱成炭素の多くは、環境微生物による分解を受けにくく、土壌や海洋に蓄積されやすいため、地球表層の炭素循環から二酸化炭素を隔離する機能を持つと考えられています。熱成炭素の一部は、水と共に移動可能な形態である溶存黒色炭素に変質し、河川や大気を経由して海洋へと輸送されることが知られています。海洋中では、溶存黒色炭素は太陽光により分解もしくは沈降粒子に吸着され、除去されます。しかし、海洋への溶存黒色炭素の年間の供給量はその除去量よりも小さく、海洋には溶存黒色炭素のミッシングソース(未知の供給源)がある事が指摘されていました。そこで研究グループは、学術研究船白鳳丸により東太平洋を中心とした観測を行い、高温かつ高圧である深海熱水域で生成された溶存黒色炭素が深海に供給されていることを世界で初めて明らかにしました。

海洋に存在する難分解な溶存有機物の総量は大気中の二酸化炭素の総量に匹敵しますが、その起源や生成メカニズムはよく分かっておらず、炭素循環におけるブラックボックスとされています。本研究成果は、難分解な溶存有機物である溶存黒色炭素が深海熱水域から供給されている事を明示しており、炭素循環における溶存有機物の役割を理解する上でも貴重な知見となります。

なお、本研究成果は 2023 年 2 月 11 日(土)公開の Science Advances 誌にオンライン掲載されました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
深海温泉を源とする微生物に分解されない有機物~深海熱水から溶存黒色炭素が供給されていることを発見~(PDF)

放流しても⿂は増えない

2023-02-09

本学院環境起学専攻の先崎理之助教(地球環境科学研究院)は、ノースカロライナ⼤学グリーンズボロ校の照井 慧助教、北海道⽴総合研究機構の⼘部浩⼀研究主幹、国⽴極地研究所(当時)の⻄沢⽂吾⽒と共同で、⿂のふ化放流は多くの場合で放流対象種を増やす効果はなく、その種を含む⽣物群集を減らすことを明らかにしました。

飼育下で繁殖させた在来種を野外に放す試みは、野外個体群の増強を⽬的として様々な動植物で⾏われています。特に、漁業対象種のふ化放流は、国内外に広く普及しています。⼀⽅、こうした放流では⾃然界には⽣じえない規模の⼤量の稚⿂を放つため、⽣態系のバランスを損ね、放流対象種を含む⿂類群集全体に⻑期的な悪影響を及ぼす可能性があることが懸念されています。

そこで研究チームは、シミュレーションによる理論分析と全道の保護⽔⾯河川における過去 21 年の⿂類群集データによる実証分析を⾏い、放流が河川の⿂類群集に与える影響を検証しました。実証分析で対象とした保護⽔⾯河川には、放流が⾏われていない河川とサクラマスの放流が様々な規模で⾏われている河川が含まれます。これらの分析の結果、放流は種内・種間競争の激化を促すことで、放流対象種の⾃然繁殖を抑制し、さらに他種を排除する作⽤を持つため、⻑期的に⿂類群集全体の種数や密度を低下させることが明らかになりました。本研究結果は、持続可能な⿂類の資源管理や⽣物多様性保全に対する放流の効果は限定的であり、⽣息環境の復元などの別の抜本的対策が求められることを⽰しています。

なお、本研究成果は、2023 年 2 ⽉ 7 ⽇(⽔)公開の Proceedings of the National Academy ofSciences 誌に掲載されました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
放流しても⿂は増えない 〜放流は河川の⿂類群集に⻑期的な悪影響をもたらすことを解明〜(PDF)

世界自然遺産・奄美群島の多様性は足元から!全維管束植物のモニタリング起点データを提供

2023-02-06

2021 年にユネスコ世界自然遺産に登録された奄美群島は、その植物相の豊かさや特異性でもよく知られています。今後、世界自然遺産を効果的に管理するためには、植物相の特徴を定量的に評価し、その多様性に影響する要因を明らかにすることが必要です。国立環境研究所、鹿児島大学、北海道大学、琉球大学、九州オープンユニバーシティの研究グループは、奄美群島、沖縄島北部、南九州における計 16 地点の全維管束植物を対象とした植物群落の比較から、奄美群島の植物相の特徴を明らかにしました。本学院からは、生物圏科学専攻の相場慎一郎教授(地球環境科学研究院)が参加しています。具体的には、奄美群島の植物相は、周辺地域と比べると常緑広葉樹やシダ植物が豊富で、熱帯・亜熱帯で多様化している分類群が多くみられるという特徴を持っていました。加えて、草本層は絶滅危惧種・固有種の割合が高く、地域の種多様性を特徴づけるものでした。また、奄美群島の植物相は地史的な要因に加え、気温などの環境要因にも規定されていることが明らかになりました。

本研究は、奄美群島の植物多様性を、草本層を含めて定量的に評価した初めての研究です。そして、今後の世界自然遺産モニタリングの起点データを提供しています。本成果は、2023 年 1 月 11 日付で Wiley から刊行される生態学分野の学術誌『Ecological Research』に掲載されました。また、得られたデータは 2022 年 7 月 19 日付『Ecological Research』に掲載され、公開されています

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
世界自然遺産・奄美群島の多様性は足元から!全維管束植物のモニタリング起点データを提供(PDF)

未確認のアズマモグラの生息地を発見

2023-02-03

本研究院の鈴木 仁名誉教授らの研究グループ、並びに元大阪市立大学の原田正史氏、島根自然保護協会の野津 大氏は、島根県隠岐の島町で 2 匹のアズマモグラの捕獲に成功しました。

アズマモグラは地下性のモグラ科哺乳類で、日本列島にのみ生息する固有種です。青森県を北限に、主に東日本に広く生息していますが、かつては日本全国に生息していたとされています。現在、アズマモグラが西日本に生息していない原因は、今から 100 万年以上前、日本列島が朝鮮半島と陸続きであった時代に大陸から移入してきた近縁種であるコウベモグラが西日本に生息地を広げ、アズマモグラを東方に追いやったからではないかと推測されています。現在に至るまで両種は競合関係にあり、その生息域の境界は変化し続けています。通常アズマモグラに比べて体の大きなコウベモグラは優位ですが、土壌の質や地形によってはコウベモグラの侵攻を免れた地域もあり、中国地方や四国、紀伊半島などがアズマモグラの生息する飛び地として西日本に残っています。

2021 年 11 月、島根県隠岐諸島で行われた小型哺乳類の採集調査で体の小さい 2 匹のモグラが捕獲されました。詳細な観察の結果、2 匹はこれまで隠岐諸島に生息が確認されていなかったアズマモグラであると判明しました。本報告はモグラがどのように日本に広まって現在の生息地に収まったかを知るうえで重要な知見となります。また、アズマモグラの生息する未発見の飛び地がまだ存在する可能性も示唆しています。

なお、本研究成果は、日本時間 2023 年 1 月 31 日(火)公開の「哺乳類科学」誌に掲載されました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
未確認のアズマモグラの生息地を発見~西日本に新たな飛び地があることが判明~(PDF)

絶海の岩礁ベヨネース列岩から新種のウオノエ科甲殻類を発見

2023-01-30

本研究院客員教員の川西亮太准教授(北海道大学大学院地球環境科学研究院特任助教(当時)、同大総合博物館資料部研究員)(北海道教育大学釧路校(現在))、北海道大学大学力強化推進本部の佐藤崇 URA(京都大学総合博物館、農学研究科研究員(当時))、近畿大学農学部の宮崎佑介准教授(白梅学園短期大学准教授(当時))の研究グループは、伊豆諸島ベヨネース列岩および八丈島で採集されたダツ科の魚類(ヒメダツ)のエラから未知のウオノエ類を発見し、新種 Mothocya kaorui(標準和名リュウノロクブンギ)として記載しました。

ウオノエ科はダイオウグソクムシやダンゴムシなどと同じく等脚目に属する甲殻類ですが、魚の口やエラ、体表などに寄生して暮らしており、「かわいい」寄生虫としても人気があります。今回発見されたリュウノロクブンギは、「六分儀」の由来ともなった黒色で三角状の腹尾節や、節が融合した小触角など、ウオノエ科全体を見渡しても非常にユニークな形態的特徴を持っていました。一方で、リュウノロクブンギのミトコンドリア DNA を調べた結果、釣り人に馴染み深いサヨリのエラに寄生するサヨリヤドリムシと同じエラヌシ属Mothocya に属することがわかりました。どのような進化の歴史を経て、リュウノロクブンギが誕生したのかはまだ明らかではありませんが、大陸から遠く離れた離島環境が独自の形態を生み出したのかもしれません。

今回の発見は、過去に採集されて博物館に収蔵されていた魚類標本が起点となりました。宿主の自然史標本は、その寄生生物の多様性を解明する上でも貴重な資料であり、後世に引き継いでいくことが日本の生物多様性を解明していく上でも重要であると考えられます。

本研究成果は、日本時間 2023 年 1 月 25 日(水)に Systematic Parasitology 誌(寄生虫分類学の国際誌)にてオンライン公開されました

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
絶海の岩礁ベヨネース列岩から新種のウオノエ科甲殻類を発見〜龍のような宿主で暮らす「六分儀」〜(PDF)

未知の海域である西部ベーリング海と東カムチャツカ海流上流のプランクトン生態系構造の制御要因を解明

2023-01-26

本大学院地球圏科学専攻の西岡 純教授(低温科学研究所)、鈴木光次教授(地球環境科学研究院)、香港科学技術大学のカイリン リュウ研究員及びホンビン リュウ教授らの研究グループは、親潮域上流の東カムチャツカ海流域から西部ベーリング海の栄養物質循環及びプランクトン生態系の構造と制御機構を、極東ロシア海洋気象学研究所との国際共同観測から世界で初めて明らかにしました。

これまで、日本の水産資源の多くを支える北太平洋亜寒帯域は、オホーツク海の影響を強く受けていることが知られていました。これに加え、北太平洋亜寒帯域の水塊形成は、東カムチャツカ海流とさらに上流に位置する西部ベーリング海の影響を受けていますが、これらの海域は観測データの圧倒的不足のため、栄養物質循環とプランクトン生態系の構造や制御機構は不明のままでした。

本研究では、東カムチャツカ海流とその上流に位置する西部ベーリング海及びアナディル湾の観測を実施し、これら未知の海域の栄養物質循環と、植物プランクトンの成長速度と微小動物プランクトンの捕食速度の空間パターンを明らかにしました。プランクトン生態系構造のデータを解析した結果、カムチャツカ半島沖から西部ベーリング海の植物プランクトンの増殖は、海洋循環で供給される窒素や河川などを通じて供給される鉄分などの栄養物質の利用可能性と、水温の影響を受ける微小動物プランクトンの捕食の有無によって決定されることを見出しました。これらの知見から、東カムチャツカ海流と西部ベーリング海を含む北太平洋亜寒帯域では、海洋温暖化に対するプランクトンの増殖応答が海水中の栄養条件の違いにより異なることが予想されました。

なお、本研究成果は、2023 年 1 月 16 日(月)公開の Limnology and Oceanography 誌にオンライン掲載されました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
未知の海域である西部ベーリング海と東カムチャツカ海流上流のプランクトン生態系構造の制御要因を解明~気候変動に伴う北太平洋プランクトン生態系変化の将来予測に貢献~(PDF)

北極の海氷融解の早期化が夏の植物プランクトンを増殖

2023-01-25

本学院地球圏科学専攻の的場澄人助教、飯塚芳徳准教授ら(いずれも低温科学研究所)の研究グループは、グリーンランドで採取されたアイスコア中の化学成分の分析を行い、2002 年以降、夏に海洋プランクトンの増殖によって海洋から大気へ放出される硫黄化合物(メタンスルホン酸)の濃度が、それ以前と比べて 3〜6 倍増加していることを検出し、海氷の融解時期が早期化したことがその要因であることを示しました。

大気中に浮遊する不純物(エアロゾル)の組成や濃度は、それを採取・分析する必要がありますが、長期間のデータは非常に少なく、特に北極域では殆どありません。氷床には、大気中のエアロゾルを含む雪が連続的に降り積もっています。氷床を表面から深部に向かって円柱状にくり抜いて採取されるアイスコアに含まれる化学成分は、大気中のエアロゾルの連続的な変化を反映し、長期間のエアロゾルの変化を復元することができます。

アイスコア中の夏のメタンスルホン酸濃度は、2002 年から増加し始めました。それと連動してグリーンランド東部沖の海氷が融解する時期が約 1 ヶ月早くなり、夏に植物プランクトンの増殖が見られることが、人工衛星データとの比較から分かりました。温暖化が引き起こす海氷融解の早期化は、海洋表層の成層化、海水中に届く太陽光の増加、海氷に付着している藻類(アイスアルジー)の再配布などを生じ、植物プラントンの増殖を促進するプロセスが提案されていましたが、本結果は、夏の海洋プランクトンの増殖による海洋から大気への硫黄化合物の放出量が実際に増加している観測的証拠を初めて示しました。

大気中の硫黄化合物は雲の形成に重要であり、地球の気温をコントロールする放射収支に大きく影響します。本研究の成果は、地球温暖化のメカニズムを理解する上で重要なプロセスを示すもので、将来予測の精度向上に寄与することが期待されます。

なお本研究成果は、2022 年 12 月 26 日(月)公開の Communications Earth & Environment 誌に掲載されました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
北極の海氷融解の早期化が夏の植物プランクトンを増殖~夏に海洋プランクトンが大気へ放出するエアロゾルの増加をアイスコアから検出~(PDF)

イワナゲノムの違いで地形進化を解明

2023-01-05

本学院生物圏科学専攻の小泉逸郎准教授(地球環境科学研究院)、摂南大学(学長:荻田喜代一)農学部の増田太郎准教授、京都大学大学院農学研究科の下野嘉子准教授、岐阜県水産研究所の岸大弼専門研究員の共同研究グループは、ゲノム網羅的(ゲノムワイド)な多型解析により、本州の河川源流に棲息するイワナ亜種の判別と分布境界の決定に成功しました。各亜種の生息域は分水嶺を挟んで隣接しており、分布境界では地形変化による亜種間の分布拡大のせめぎ合いが起こっていることを示しました。本研究は、在来生物種の分布から地形形成史を検証する手段を提案します。

悠久の時の流れを象徴する川の流路は時代とともに大きく変化してきました。特に、動的な地質を持つ日本列島の河川源流付近では、地形の浸食で河川の流域のある一部分を隣接する河川が奪う「河川争奪」と呼ばれる地理的事象により、河川の逆流など流路再編が頻繁に繰り返されて現在に至ります。今回、河川争奪の指標生物として、本州では河川源流部にのみ棲息するイワナに着目し、イワナゲノムの個体間の違いを詳細に調べました。その結果、本州のイワナを、日本海型(ニッコウイワナ)、太平洋型(ヤマトイワナ)、琵琶湖型という遺伝的に異なる3グループに分類することに成功しました。

このように、本研究で採用した調査手法により、魚類在来個体群の自然分布から地形形成史を紐解くことができる可能性が示されました。

なお、本研究の成果は、生物地理学に関する英国の学術誌「Journal of Biogeography」に掲載されました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
イワナゲノムの違いで地形進化を解明 日本海型・太平洋型・琵琶湖型に3分類 「河川争奪」で分布に変化(PDF)

昭和電工と日本製鉄、6 つの国立大学と連携し、 工場排出ガスに含まれる低濃度 CO2の分離回収技術開発を本格始動 低コストで省エネルギー型の CO2分離回収技術の早期社会実装により カーボンニュートラル社会への貢献を目指す

2022-12-22

昭和電工株式会社(社長:髙橋秀仁 以下、昭和電工)と日本製鉄株式会社(社長:橋本英二 以下、日本製鉄)、および6つの国立大学(大分大学、大阪大学、京都大学、千葉大学、名古屋大学、北海道大学)が共同して進める事業(以下、本事業)が、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、「NEDO」)の「グリーンイノベーション基金事業」に採択され、10月より技術開発を本格始動しました。本学院からは、環境起学専攻の野呂真一郎教授(地球環境科学研究院)が参加しています。本事業は、両社および大学が持つ技術を使って、低圧・低濃度(大気圧・CO2濃度10%以下)の排出ガスから効率的にCO2を分離・回収するもので、1トンあたり2,000円台という画期的な低コスト実現をターゲットに、2030年代後半の社会実装を目標にしています。さらに昭和電工は、回収したCO2を化学品の原料として再利用し販売するまでのビジネスモデルの構築を目指します。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
昭和電工と日本製鉄、6 つの国立大学と連携し、 工場排出ガスに含まれる低濃度 CO2の分離回収技術開発を本格始動 低コストで省エネルギー型の CO2分離回収技術の早期社会実装により カーボンニュートラル社会への貢献を目指す(PDF)

オホーツク海南部冬期の海氷体積量の年々変動を解明

2022-12-09

本学院地球圏科学専攻の豊田威信助教、西岡 純教授、三寺史夫教授(いずれも低温科学研究所)、同大学北方生物圏フィールド科学センターの野村大樹准教授らの研究グループは、オホーツク海南部(北緯46度以南)の海氷域の海氷面積・氷厚・海氷体積量の年々変動の特性を解明しました。

オホーツク海南部は、沿岸結氷を除けば世界で最も低緯度に位置する海氷域として知られ、その海氷域の概況は主に防災の観点から、航空機や衛星で以前より観測が行われてきました。しかし、その面積や氷厚の経年変動はこれまで統計的に十分には解析されてきませんでした。特に、氷厚の長期間に渡る体系的な観測がなかったため、海氷体積量の経年変動は全く知られていませんでした。

本研究は現場で得られた氷厚などのデータを衛星データと組み合わせて解析を行い、オホーツク海南部海域の海氷面積は、その北部・中部とは顕著に異なる変動特性を持つこと、海氷体積量の年々変動は大きく熱力学的な結氷条件よりも力学的な氷盤の積み重なりが重要であること、顕著な氷盤の積み重なりは現在多くの気候モデルで用いられている海氷レオロジーの理論でおおよそ説明が可能なことが分かりました。これらの結果は他の季節海氷域の数値モデル化にも適用可能と考えられます。

なお、本研究成果は、2022年12月2日(金)公開のJournal of Geophysical Research: Oceans誌に掲載されました。

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オホーツク海南部冬期の海氷体積量の年々変動を解明~気候変動に伴うオホーツク海海氷の変動予測への貢献に期待~(PDF)

マイクロプラスチックに含まれる添加剤が食物連鎖を通して魚類の組織に移行することを世界で初めて実証

2022-12-09

本学院生物圏科学専攻修士課程(研究当時)の長谷川貴章氏と同生物圏科学専攻の仲岡雅裕教授(北方生物圏フィールド科学センター)、東京農工大学の高田秀重教授、水川薫子助教、ヨー ビーギョク研究員を中心とした研究グループは、魚類がマイクロプラスチックの摂取を通じて、プラスチック製品に含まれる添加剤を筋肉や肝臓などの体組織に取り込み蓄積することを、世界で初めて実証しました。

添加剤は、プラスチックが細分化されると周辺環境に溶出しやすくなります。魚類はマイクロプラスチックを海水中及び餌生物から取り込むため、その2つの経路を介して添加剤が体組織に移行・蓄積する可能性が指摘されていました。そこで、肉食性魚類シモフリカジカとその餌生物であるイサザアミ類を用いて、魚類のマイクロプラスチック摂取による添加剤の組織への移行について、両経路の相対的重要性を検証しました。

その結果、添加剤入りマイクロプラスチックを含む海水中で魚を飼育した場合及びマイクロプラスチックを含む餌生物を魚に摂食させた場合に、魚の筋肉や肝臓に添加剤が蓄積することが示されました。両経路の相対的重要性は添加剤の種類や組織により異なっており、それには化学物質の特性が関連していることが示唆されました。

マイクロプラスチックを通じて魚類の体内組織に蓄積した添加剤は、食物連鎖を通じて人間を含む高次消費者の体内に濃縮され、さまざまな悪影響を与える可能性があります。それらの影響を解明するための研究のさらなる進展が期待されます。
本研究成果は、2022 年 11 月 18 日(金)公開の Marine Pollution Bulletin 誌に掲載されました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
マイクロプラスチックに含まれる添加剤が食物連鎖を通して魚類の組織に移行することを世界で初めて実証~餌生物の摂食によるプラスチック添加剤の垂直輸送の重要性を解明~(PDF)

夜空で密会するシギとハト

2022-12-08

本学院生物圏科学専攻の先崎理之助教(地球環境科学研究院)、森林総合研究所の青木大輔研究員、北海道大学大学院農学院博士後期課程の北沢宗大氏、日本渡り鳥保全・研究グループの原 星一氏と共同で、これまで夜間に単独で渡ると考えられていたヤマシギのうち一定数が、日中の生息環境や生態が異なるアオバトなどの他種とペアになって渡ることを発見しました。

毎年、おびただしい数の鳥類が、遠く離れた繁殖地と越冬地の間を行き来する渡りを行います。タカの仲間や大型の水鳥などの一部を除き、多くの鳥類は、天敵からの捕食リスクが低く、気象条件が飛翔に適している夜間に単独で渡ることが知られています。しかし、夜空を渡る鳥類を識別することは難しく、夜間に渡る鳥類にどのような種間関係があるのかについては解明されてきませんでした。

こうした中で研究チームは、北日本の二カ所(室蘭鳥類観測所・津軽鳥類観測所)で、デジタル機器を用いた地上観察から夜空を渡る鳥類を識別する手法を確立し、ヤマシギと他種が 2羽で一定の距離を保ちながら渡るという未知の現象を目撃しました。そこで、2021年10~11月に上記二カ所において、どのくらいのヤマシギが他種と一緒に渡るのかを調べたところ、観察された48羽のヤマシギのうち、約17%(8羽)が他種とペアになって渡っていました。ペア種の内訳は、アオバト(5羽)、キジバト(1羽)、オオコノハズク(1羽)、ツグミ属鳥類の 1種(1羽)でした。ヤマシギは暗闇の中から単独で渡る他種のパートナーを見つけだして一緒に渡ることで、捕食者をいち早く見つけたり、目的地への飛翔距離を短縮したり、飛翔エネルギーを節約したりしている可能性があります。

なお、本研究成果は、2022 年12月1日(木)公開の Ecology 誌に掲載されました

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夜空で密会するシギとハト~鳥類の夜間渡りにおける驚きの種間関係を発見~(PDF)

温暖化する北極海から大陸に向かう水蒸気量の増加を発見

2022-11-28

本学院環境起学専攻の佐藤友徳准教授(地球環境科学研究院及び北極域研究センター)と本研究院統合環境科学部門(研究当時)の中村 哲博士(現・気象庁大気海洋部)、三重大学大学院生物資源学研究科の飯島慈裕教授、名古屋大学宇宙地球環境研究所の檜山哲哉教授の研究グループは、海氷面積の縮小や海水温の上昇など、近年急速に温暖化が進行する北極海周辺における大気中の水蒸気の流れを解析し、北極海から蒸発した水蒸気がユーラシア大陸や北米大陸に向かって近年多く輸送されていることを解明しました。

北極域では地球全体の平均に比べて早いペースでの温暖化が進行しており、この傾向は今後も継続することが予測されています。このような北極の温暖化は様々な環境変化を誘発することが懸念されています。研究グループは特定の地域から蒸発した水蒸気の、大気中における動きを追跡できる数値計算手法を用いて、北極海から蒸発した水蒸気の輸送経路や輸送量を明らかにしました。

1981 年から 2019 年までの期間について解析したところ、北極海を起源とする水蒸気の輸送が 9 月から 12 月にシベリア地域で増加していることが分かりました。このことはシベリアにおける地域的な積雪増加傾向とも整合的であり、北極海の海氷減少や水温上昇が、ユーラシア大陸や北米大陸の水循環や生態系にも影響を与えることを示唆する結果と言えます。

なお、本研究成果は、2022 年 11 月 24 日(木)公開の npj Climate and Atmospheric Science 誌に掲載されました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
温暖化する北極海から大陸に向かう水蒸気量の増加を発見~北極の温暖化に伴う中・高緯度の気候変動や水循環過程の理解向上に寄与~(PDF)

ハスカップ種間雑種の果実でβ-クリプトキサンチンを合成

2022-11-22

本学院生物圏科学専攻博士後期課程の藤田凌平氏、本学院生物圏科学専攻の星野洋一郎教授(北方生物圏フィールド科学センター)、同大学院医学研究院の神 繁樹特任助教と的場光太郎講師、による共同研究グループは、ハスカップの機能性成分の改変のために、近縁種のミヤマウグイスカグラとの種間雑種を育成し、ハスカップ種間雑種の果実でβ-クリプトキサンチンを合成させることに成功しました。

ハスカップは、北海道に自生する小果樹で、北海道特産のベリーとして注目されています。研究グループは、これまでにハスカップの遺伝資源の探索やハスカップの新規系統の育成を行ってきました。ハスカップ果実にはアントシアニン類が多く含まれていますが、赤色や黄色を呈するカロテノイド類はあまり含まれていません。そこで、カロテノイドを多く含み、赤い果実をつける、ハスカップの近縁種ミヤマウグイスカグラとの種間交雑を行いました。

解析の結果、種間雑種の果実でカロテノイドが合成され、ハスカップではほとんど検出されない機能性成分のβ-クリプトキサンチンが、種間雑種で合成されていることがわかりました。これは、ミヤマウグイスカグラのβ-クリプトキサンチン合成能がハスカップ種間雑種に付与されたことを示しています。また、種間交雑がハスカップの機能性成分の育種に有効であることを示すものであり、ハスカップに新たな付加価値を与えるものと考えられます。さらに興味深いことに、種間雑種の果実で、β-カロテンの含有量が両親よりも高くなっていました。また、種間雑種のβ-クリプトキサンチンの含有量は系統間差が大きく、β-クリプトキサンチンの合成能が高い系統の選抜により、β-クリプトキサンチンが豊富な果実を選ぶことができる可能性を示しています。

今後、ハスカップの機能性成分にカロテノイドの選択肢が加わることとなります。なお、本研究成果は、2022 年 9 月 29 日(木)公開の Scientia Horticulturae 誌に掲載されました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
ハスカップ種間雑種の果実でβ-クリプトキサンチンを合成~種間交雑によりカロテノイド生合成を改変・機能性成分を強化したハスカップの育種~(PDF)

氷河ポンプが駆動するグリーンランドの海洋環境

2022-11-18

本学院地球圏科学専攻の杉山 慎教授、西岡 純教授 (いずれも低温科学研究所)、山下洋平准教授(地球環境科学研究院)、同大学低温科学研究所の王 鄴凡博士研究員、同大学院水産科学研究院の山口 篤准教授、松野孝平助教らの研究グループは、東京大学大気海洋研究所の漢那直也助教(元北海道大学北極域研究センター)と共同で、複数のカービング氷河が流入するグリーンランドのフィヨルドで観測を行い、氷河の激しい融解によってフィヨルドの基礎生産が活発になることを解明しました。

グリーンランドで記録的な氷河融解が起きた 2019 年の夏、氷河が流入するフィヨルドには窒素、リン、鉄分などの栄養素が前年より豊富にあり、大型植物プランクトンが大増殖しました。解析の結果、氷河の融け水に起因する海水の汲み上げ機能(氷河ポンプ)が強く働き、中層から栄養豊富な海水が大量に湧昇し、高い栄養環境で増殖する大型ケイ藻類が出現したことが分かりました。

この研究結果は、氷河の融解によってフィヨルドの栄養環境が良好になり、基礎生産が増加することを示しています。しかし長い目で見ると、温暖化によりグリーンランドからカービング氷河が失われてしまうと氷河ポンプは機能不全に陥るため、海洋生態系への甚大な影響が予想されます。従って氷河の融解が海洋環境に与える影響を、今後も注意深く観察し、理解を深める必要があります。

本研究成果は、2022 年 11 月 4 日(金)公開の Global Biogeochemical Cycles 誌にオンライン掲載されました

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。
氷河ポンプが駆動するグリーンランドの海洋環境~氷河の融解加速により海のプランクトンの群集構造が変わる~(PDF)

全海洋の深層に広がる南極底層水の起源水形成機構を発見

2022-10-22

本学院地球圏科学専攻の大島慶一郎教授(低温科学研究所)、国立極地研究所の伊藤優人研究員らの研究グループは、南極地域観測隊によるケープダンレー沖での観測から、海中で大量に海氷が生成されるメカニズムを発見し、それによって南極底層水の起源水となる重い水が作られることを明らかにしました。

世界で一番重い海水は南極海で作られ、南極底層水として沈み込み、海洋の大循環が駆動されます。研究グループは10年ほど前に、南極底層水の生成域として、それまで知られていた3ヶ所に加え、新たに南極・昭和基地の東方1,200kmのケープダンレー沖が南極底層水生成域であることを発見しました。しかし、なぜここで底層水が生成されるのかはよくわかっていませんでした。

本研究では、底層水起源水が生成されると推定される沿岸ポリニヤ内において、通年の連続観測を行い、海中100m深近くまで海氷(フラジルアイス)が生成される、極めて効率的な海氷生成メカニズムの存在を発見しました。さらに衛星観測から、このケープダンレー沖が全南極で最もこのメカニズムが働く海域であることも明らかにしました。大量に海氷が生成されると塩分の大半が氷からはき出されることで低温・高塩の重い水が作られ、この海域が底層水を形成する海域となるわけです。

海洋大循環の起点となる南極底層水の形成過程の一つを明らかにした本研究は、気候変動の理解や予測にも繋がります。また、フラジルアイスが海中深くまで達すると、生物生産を誘起する物質を海底から取り込むことができ、海氷を介する物質循環や生物生産の理解にも繋がる研究と言えます。

本研究は科学研究費補助金・基盤研究S(課題番号20221001; 20H05707)等の助成を受け、現場観測は南極地域観測の公開利用研究として実施されました。なお、本研究成果は、日本時間2022年10月21日(金)公開のScience Advances誌にFOCUS論文としてオンライン掲載されました。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。

全海洋の深層に広がる南極底層水の起源水形成機構を発見~海中深く大量に生成される海氷が海洋大循環を駆動する~(PDF)

氷結晶の主軸方位分布を深さ 2400m にわたり詳細に分析

2022-10-21

本学院地球圏科学専攻の飯塚芳徳准教授(低温科学研究所)を含む、国立極地研究所の猿谷友孝特任研究員を中心とする研究グループは、南極ドームふじ基地で掘削された深層アイスコアに含まれる氷の結晶の主軸方位分布を高精度で計測し、気候変動に伴った変化や含有不純物との関係性を明らかにしました。

これまでに掘削された様々なアイスコアでも結晶主軸方位分布の解析は行われてきましたが、測定方法の制約から細かい変動の検出は困難でした。研究グループは結晶主軸方位分布を解析する新たな手法として「誘電異方性計測法」を世界で初めて開発し(図 1)、これまでに類を見ない水準の高空間分解能かつ統計的信頼性をもった結晶主軸方位分布データが取得可能となりました。

氷の結晶の軸の方位は、氷床の浅い部分のアイスコアではばらつきが大きく、深くなるほどばらつきが小さくなって鉛直方向に揃っていくことが知られています。本研究では、高分解能での計測が可能な「誘電異方性計測法」を用いることにより、結晶主軸方位分布の深さ方向の変化は直線的ではなく、ばらつきが大きくなったり小さくなったりという“ゆらぎ”を繰り返しながら変化することを明らかにしました。さらに、深い部分のアイスコアほど“ゆらぎ”が大きいことや、今からおよそ 13 万年前や 24 万年前の間氷期から氷期へ移り変わる時期に、結晶の方位のばらつきが大きくなること、また、アイスコアの中に含まれる塩化物イオンの濃度や固体微粒子の数もばらつきの変化に関与していることが分かりました。

結晶主軸方位分布は、南極氷床の流動のしやすさに直接影響します。本成果は、将来の海面上昇予測に不可欠な、今後の氷床流動の予測に重要な知見です。

詳細については,以下のプレスリリースをご覧ください。

 氷結晶の主軸方位分布を深さ 2400m にわたり詳細に分析 〜南極ドームふじアイスコアで計測、氷床流動の理解に貢献~ (PDF)

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