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地球温暖化・海洋酸性化が日本沿岸の海洋生態系に及ぼす影響


日本のサンゴ群集が年間最大14kmの速度で北上していることが、最近の研究からわかっています(Yamano et al., 2011)。この見積もりは、地球温暖化による水温上昇にともなう生物の生息域の北上速度としては、陸上生態系を含めても、これまでに報告された中で最も速いものであり、注目を集めています。この発見は、日本近海のモニタリング調査結果が1930年代以降、長期間にわたって蓄積されてきたこと、そして局地的な生態系の攪乱要因に比べて地球温暖化の影響が相対的に大きかったことで可能となりました。地球温暖化のような地球規模的な環境変化が沿岸生態系に及ぼす影響を評価・予測する際に、大陸からの土砂流入といった局地的な攪乱要因が相対的に少ない、あるいはその要因を特定しやすいのは日本近海の大きな特徴です。すなわち、本研究において日本近海を研究対象とすることは極めて有意義なことであり、IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change; 気候変動に関する政府間パネル)の枠組みで同様な研究を行っている、欧米をはじめとする世界の研究コミュニティに対して優位性を持つことになります。また、地球温暖化と並んで地球規模的な環境変化である海洋酸性化の生物影響については、近年研究が始まったところですが、地球温暖化よりもさらに速い速度で海洋生物に深刻な影響を与える可能性が指摘されています(Yara et al., 2012)。

サンゴ礁や藻場といった沿岸生態系は、高い生物生産性とバイオマスを有し、海洋環境を形成し、波や流れを弱め、栄養塩を吸収し海を浄化するといった役割を担っており、極めて高い生態系サービスを有しています。将来的には動物性タンパク質の供給源として水産資源に対する世界的需要が高まっていくこと、また今世紀半ばには観光業が単一産業としては世界最大の産業になると予想されていることに鑑みても、海洋沿岸域の生態系サービスは今後益々高まっていくものと考えられます。本研究では、生物多様性と生態系サービスに特に注目するため、専ら沿岸海洋生態系を対象としますが、温帯性藻場種であるアカモクのように、一部が流れ藻となり、トビウオやサンマ、サヨリなど浮魚によって産卵基質として利用される場合には、沿岸生態系だけでなく沖合生態系にもつながることになります。

現在の日本の海域公園の多くは、景観の良い場所を重視して1970年代に設置されたものですが、将来的には、生物多様性や生態系サービスの観点と、気候変動にともなう変化予測も考慮して評価され、設置されるべきものです。また、地球温暖化や海洋酸性化は養殖対象種の養殖適域も変えることになるので、養殖業やそれに連関する地域産業も適応策を余儀なくされます。本研究室では、国立環境研究所などと連携し、沿岸域における生態系保全と持続可能な社会に向けた合意形成や取り組みに際して、科学的根拠に基づく客観的かつ定量的な示唆を社会に提供することを目指しています。

 

関連情報

気候変動リスク情報創生プログラム 領域テーマD:課題対応型の精密な影響評価

 

参考文献

  • 藤井 賢彦 (2014), 海洋酸性化, 水産海洋学入門 ー海洋生物資源の持続的利用ー, 水産海洋学会 (編), 講談社, 184-192.
  • 藤井 賢彦 (2013), 海洋酸性化の人間社会への影響評価, 将来予測および対策, 海洋と生物, 35(4), 366-371.
  • 藤井 賢彦, 石田 明生 (2013), 海洋酸性化総説, 海洋と生物, 35(4), 315-322.
  • 藤井 賢彦, 山中 康裕 (2012), 海の生物への影響. 江守 正多・気候シナリオ「実感」プロジェクト影響未来像班(編著), 地球温暖化はどれくらい「怖い」か? ~温暖化リスクの全体像を探る~, 技術評論社, 89-120.

 

 


Updated on 2014/05/26