2009 IFES-GCOE International Field Short Course at Yakutsk
ヤクーツクにおけるIFES-GCOE 国際野外実習(サマースクール)の報告

 

2009 IFES-GCOE International Field Short Course
ヤクーツクにおけるIFES-GCOE 国際野外実習(サマースクール)の報告

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 2009年8月1日~7日の一週間、東シベリアタイガ林(ロシア・サハ共和国・ヤクーツク郊外のスパスカヤパッド実験林)において国際的フィールドサマースクール実施しました。このサマースクールは、IFES-GCOE海外観測・留学生推進室が企画するもので、2009~2011年にそれぞれシベリア・モンゴル・インドネシアで行われる予定の第一弾です。これらの地域は、地球環境の変化に対して適応力が低く、脆弱性の高いため、環境劣化の実態を長期的に監視することが極めて重要であると考えられます。IFES-GCOEではこれらの地域に100年観測網の構築を目指しています。ヤクーツクにおいては、Institute for Biological Problems of Cryolithozone(IBPC)及びヤクーツク大学(現North Eastern Federal University)の協力の下に海外フィールド観測拠点(IFES-GCOEヤクーツクリエゾンオフィス)を開設し、今回のサマースクールの運営を共同で行いました。温暖化により極めて大きな影響が予想される永久凍土帯生態系の物質循環に焦点をあてた野外観測を企画(企画実習生)、体験(受講生)し、現場で得た知識を伝えること、そして異なる分野の学生と交流し、議論することを目的としました。

 応募者39名から参加者22名を提出された申請書をもとに選出しました。参加者の内訳は、北海道大学から10名、国内他大学から1名、ヤクーツク大学から4名、ロシア国内の大学・研究機関から6名、シンガポール及び中国の大学からそれぞれ1名でした。22名の参加実習生は6つの企画研究グループに班分けされ、それぞれのグループ内では、企画実習生が2~4名の実習生を指導しました。実習期間中、様々な教育・研究機関からの9名の講師による講義と、参加実習生らによる研究テーマ紹介が行われました。夕食の後は毎晩、文化イベントが催され、各国の参加者による自国の文化紹介を通じて参加者同士の交流を深めました。実習最終日にはグループ毎に一週間の成果が発表され、フェアウェルパーティーの後、別れを惜しみつつ帰路につきました。

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 参加した実習生の専門は、地球科学(地球物理、地球化学、生物地球化学、水文学)、生物学・農学(林学、生態学、植物生理学、海洋生物学)、経済学等、実に様々で、受講生の多くは、野外観測をはじめて経験しました。実習生らにとって、野外での観測は決して楽な作業ではなかったと思われますが、どのグループも野外での作業を楽しんでくれたようです。
 土壌水分の班は、土壌に穴を掘り土壌水分の観測を行い、カラマツ林の穴掘りでは、約1mの深度で凍結した土壌に達しました。土壌水分の班だけでなく、他班の実習生もこの穴に降りて凍結した土壌を手で触れて永久凍土を体感しました。森林攪乱班は、片道約10Kmのタイガ林と湿地の道のりを徒歩で移動し、森林火災跡において凍土の観測を、そして、光合成班は早朝3時からの観測開始など、ほとんどの学生にとってはじめての体験でした。また、約25mのフラックス観測タワーでは、おそるおそる登頂し、タワー頂上からの広大なタイガ林の眺めを楽しんでいました。

 この野外実習の目的は、特定の専門的な技術や知識を習得するということではなく、自分の専門分野と全く異なる分野、異なる国の学生と議論し、知識を交換し、交流を深めることが目的でした。1週間という短い期間の実習でしたが、総じてこの目的は達せられたと考えています。
 野外での観測作業の後、得られたデータの解析と、最終日の成果発表に向けての準備を行いました。この作業までには、参加者らは野外活動や文化イベント通してすでにうちとけており、言葉の壁を乗り越えて、データの解釈や、発表スライドの作成に向けて、真剣に議論している様子がどの班でも見られました。特に印象深かったのは、それぞれの班には異なる研究分野の学生がいて、自分の研究分野においてそのデータがどのような重要性を持っているかを議論し発表スライドの中に取り入れていたことです。また、野外観測では、天候やその時々の状況で当初の計画変更を余儀なくされることが頻繁に起こりますが、その都度、実習を企画した企画実習生だけが考えて判断するのではなく、議論を通して受講生からも新たなアイディアが飛び出し、現地での研究プロジェクトが進められていました。
単に友達になり仲良くなったと言うだけではなく、異なる分野の学生と作業を共にし、各自の考えを相手に伝え、異なる分野の学生の意見を理解し、議論ができたと思われます。