Division of Environmental Materials Science

2021年度沼口賞受賞者および受賞理由

2022-03-24

2021年度沼口賞

氏名: 濵野上 龍志
題目: マガキ (Crassostrea gigas)の海洋酸性化影響評価:岡山県日生地先海域と宮城県志津川湾における事例研究(Projecting the impacts of ocean acidification on Pacific oyster (Crassostrea gigas): a case study in Hinase oceanic district in Okayama Prefecture and Shizugawa Bay in Miyagi Prefecture)
 【修士論文の要旨】

氏名: 段 和歓
題目: 北海道の雪氷冷熱エネルギー賦存量評価:ニセコ町における事例研究 (Assessment of snow and ice cryogenic energy potential in Hokkaido: a case study in Niseko Town)
 【修士論文の要旨】

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【選考理由】
氏名: 濵野上 龍志

 人為起源CO2の大量排出に起因する海洋酸性化は、炭酸カルシウムの殻や骨格の形成阻害を通じて貝類等に悪影響を及ぼすと懸念されるが、日本近海のマガキ等の貝類養殖種に対する実際の海洋酸性化影響はよくわかっていない。この現状を踏まえ、濵野上君は日本の主要なマガキ養殖域である岡山県備前市日生地先海域と宮城県南三陸町志津川湾を対象に、マガキの海洋酸性化影響の現状評価と将来予測を行った上で、得られた結果に基づき、今後の海洋酸性化に対する具体的な対策提言を行った。まず、対象海域で実施されている連続観測データの解析を通じて、海洋酸性化の指標である炭酸カルシウム飽和度が大雨後に急速に低下することを初めて明らかにした。また、数値モデリングにより今世紀末までには炭酸カルシウム飽和度がマガキ幼生にとって危険な水準まで低下する可能性があること、その影響を回避するためには緩和策として人為起源CO2の大幅な排出削減が不可欠なことを定量的に示した。さらに、緩和策と並行して実施すべき適応策として、地元の漁業者や漁業組合、カキ養殖業者等への現場での綿密な聞き取り調査や費用便益分析を行った上で、マガキ生産効率の向上と他地域または人工採苗施設からのマガキ種苗購入価格の低減を段階的に進めていく必要性を示した。
 以上の研究は、日本沿岸のマガキ養殖海域に対して初めて統合的に実施されたものであり、日本海洋学会や沿岸環境関連学会連絡協議会等の学会で発表し、学術的にも高い評価を受けている。また、持ち前の社交性も活かして国内外の専門家・実務者との連携を自主的・積極的に進めつつ、観測データ解析、数値モデリング、社会調査、費用便益分析といった多様な手法に習熟し、これらを組み合わせて実施した学際的研究としてもとても高く評価できる。
 以上の理由から、本論文は環境起学専攻の理念と目的に合致し、受賞に相応しいと認められた。

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【選考理由】

氏名: 段 和歓
 北海道には地域に特徴的な再生可能エネルギーである雪氷冷熱が豊富に存在するにもかかわらず、その利活用はこれまで不十分であった。段君は修士課程入学後の早い段階から北海道での雪氷冷熱利活用の推進に向けた研究を志し、高い意識を持ち続けて自立して研究を進めてきた。まず、国内外の関連研究のレビューから始め、次に北海道内の現存の雪氷冷熱利用施設に対して綿密な聞き取り調査を行い、事業主体が抱える現在の課題を明らかにした。その上で、北海道の中でも特別豪雪地帯に属し、また今後も一定の人口が維持されることが見込まれるニセコ町を対象に、雪氷冷熱で農産物や加工品等を低温貯蔵する際の環境性と経済性の評価を行った。その結果、雪氷冷熱の利活用を推進していくためには、低温貯蔵施設の建設時の補助金の導入といった事業者に対する経済的動機の付与が不可欠であることを定量的に明らかにした。さらに、将来の気候変化と社会変化をも考慮し、施設を数十年先まで運用し続けることを考える場合、中小規模雪利用式施設よりも大規模雪利用式施設に優位性があることを明らかにした。
 以上の研究成果は日本LCA学会、日本地球惑星科学連合大会、環境科学会で発表しており、環境科学会2021年会では最優秀発表賞(修士課程学生の部)を受賞する等、学術的にも高い評価を受けている。また、持ち前のたゆまぬ努力により在学中に日本語運用能力や論文読解力を飛躍的に高めつつ、社会調査、ライフサイクルアセスメント、フルコスト評価、費用便益分析といった多様な手法に習熟し、これらを組み合わせて地域社会のニーズに応えるべく実施した学際的研究としてもとても高く評価できる。
 以上の理由から、本論文は環境起学専攻の理念と目的に合致し、受賞に相応しいと認められた。

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