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冬眠は体温リズムを夏型に戻す~哺乳類の冬眠に新たな視点~(低温科学研究所 教授 山口良文)

2023年10月18日

ポイント

●冬様環境下で飼育した冬眠哺乳類シリアンハムスターの長期体温データを解析。
●体温の日周リズムが冬眠を終えた直後に夏型となることを発見。
●冬眠には覚醒後の活動期への適応を容易にする側面。

概要

北海道大学大学院環境科学院博士後期課程の中川 哲氏(北海道大学DX博士人材フェローシップ生)、同大学低温科学研究所の山口良文教授は、冬眠する哺乳類(冬眠動物)のシリアンハムスターにおいて、冬眠を経験すると体温の日内変動リズム(日周リズム)が夏型になることを見出しました。

シリアンハムスターやジリスなどの冬眠動物は、食糧が不足する冬の間、生きるために必要なエネルギーを節約した低体温状態となり、春の訪れとともに冬眠から醒め、活動期を迎えます。これらの動物たちは、冬眠の間、季節の指標となる光の情報を受けとらない巣穴にこもった状態となります。そのため冬眠動物が冬眠前後の環境変化にどのように適応しているのかは、興味深い謎です。研究グループは、長日かつ暖かい環境の夏条件で育ったシリアンハムスターを、短日かつ寒冷の冬条件の飼育室で長期間飼育し、その体温の日周リズムの変化を調べました。シリアンハムスターは冬条件で数ヶ月過ごすと冬眠を始めますが、一定期間ののち、自分で冬眠を終了します。この一連の過程で、体温の日周リズムは周囲の環境に合わせ夏型から冬型に変化した後、冬眠期には見られなくなりました。さらに、興味深いことに冬眠終了後、体温の日周リズムは、周囲は冬の環境のままであるにもかかわらず夏型に戻っており、その後周囲の環境に合わせ、再び冬型となりました。一方、長期の冬様環境下でも冬眠をしなかったシリアンハムスターの体温の日周リズムは、一度冬型になった後、夏型に戻ることはありませんでした。

これらの結果から、シリアンハムスターは、冬の環境に合わせて冬型に適応した体温リズムで冬眠を始めた後、冬眠を終了する頃には自発的に夏型の体温リズムに戻って活動を再開することが分かりました。本研究により、哺乳類の冬眠は、冬季の消費エネルギーを節約するだけでなく、覚醒後に迎える活動期への適応を容易にするプログラムでもあることが示唆されました。

なお、本研究成果は、20231018日(水)公開のProceedings of the Royal Society B: Biological Sciences誌に掲載されました。

論文名:Spontaneous recurrence of a summer-like diel rhythm in the body temperature of the Syrian hamster after hibernation(シリアンハムスターの体温における冬眠終了後の夏型日周リズムの自発的再出現)
URL:https://doi.org/10.1098/rspb.2023.0922

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冬眠前には冬型になった体温のリズムが、冬眠を終えるとすぐに夏型に戻る。ハムスターの冬眠には、体内のリズムを来るべき春に合わせる仕組みも含まれる。