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流れが強いとクマノミは故郷に戻れない?~クマノミ類において海流が強いほど孵化海域での仔魚の滞留が減ることが判明~(北方生物圏フィールド科学センター 教授 仲岡雅裕)

2023年9月14日

ポイント

●半閉鎖性湾と開放性海岸でクマノミ類仔魚の滞留の程度を親子鑑定と海水流動モデルから推定。
●予想に反して開放性海岸よりも半閉鎖性湾で沖合への流れが強く仔魚の滞留が減ることが判明。
●仔魚の滞留は地形条件だけで予測することが難しく、海流の強さの測定が重要。

概要

北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの仲岡雅裕教授と同大学大学院環境科学院博士後期課程(当時)の佐藤允昭氏らの研究グループは、映画「ファインディング・ニモ」でも有名なクマノミ類において、孵化海域での仔魚の滞留が、単純な地形条件では決まらず、海流の強さが大きく影響することを明らかにしました。

多くの海産魚類が卵から孵化後の数日~数十日の間、浮遊仔魚となり、海流の中で分散します。このときの小さな仔魚の動きを水中で追うことは難しく、これまで成魚のDNAを用いた集団遺伝解析や海水流動のシミュレーションから仔魚の分散が推定されてきました。一方、仔魚の分散に対する地形条件や海流の影響はよく分かっていません。

そこで研究グループは、フィリピンの半閉鎖性湾と開放性海岸という対照的な2海域でクマノミ類の2種(ハマクマノミとハナビラクマノミ)の仔魚の分散を、DNAの親子鑑定による実証と海水流動モデルによるシミュレーションを組み合わせて調べました。そして、地形条件と海流の強さが仔魚の生まれた海域での滞留に影響するのかを検証しました。親子鑑定の結果、両種とも仔魚が滞留しやすいと予想された半閉鎖性湾よりも、開放性海岸にてその場で生まれた個体の割合が大きい(0% vs. 14-15%)ことが分かりました。この結果は2海域で構築した海水流動モデル上でのシミュレーションの結果とも傾向が一致しました。半閉鎖性湾では沖合方向への海流がより強く、仔魚が沖合に流され、孵化海域での滞留が減ることが示唆されました。以上より、海流の強さが孵化海域からの仔魚の分散と滞留に大きく影響することと、地形条件だけでそれを予測するのは難しいことが明らかになりました。海流を計測し、その仔魚の分散に対する影響を加味して、海洋保護区(禁漁区)の大きさや空間配置を設定することが重要だと考えられます。

なお、本研究成果は、2023年725日(火)にLimnology and Oceanography誌に掲載されました。

論文名:Hydrodynamics rather than type of coastline shapes self-recruitment in anemonefishes(地形条件よりも海流がクマノミ類の仔魚の滞留に影響する)
URL:https://doi.org/10.1002/lno.12399

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対象のクマノミ類(左図)(Photos:有馬史織)と、海流の強さと仔魚の分散・滞留の関係(右図)