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淡水二枚貝の限界集落はなぜできる?~絶滅危惧種コガタカワシンジュガイの再生産停止と複合ストレス機構の関係を解明~(地球環境科学研究院 准教授 根岸淳二郎)

2023年9月12日

ポイント

●絶滅危惧種コガタカワシンジュガイの再生産の停止に複合ストレス機構が働くことを実証。
●再生産を規定する稚貝の生残率に栄養塩と細粒土砂が負の相乗効果を持つことを特定。
●淡水二枚貝の健全な個体群を維持する管理と管理河川の優先順位付けに寄与することが期待。

概要

北海道大学大学院環境科学院博士後期課程(研究当時)の三浦一輝氏、同大学大学院地球環境科学研究院の根岸淳二郎准教授らの研究グループは、北海道東部の河川において、コガタカワシンジュガイ(絶滅危惧IB類及び特定第二種国内希少野生動植物種)を対象に、若齢な個体が欠落(再生産の停止)する個体群を特定し、再生産の停止に栄養塩と細粒土砂の複合ストレス機構が働くことを明らかにしました。

コガタカワシンジュガイは寿命が80年を超え、幼生期にアメマスの鰓に寄生するという複雑な生活史を持つことから、健全な河川環境の指標と言われます。一方で近年、コガタカワシンジュガイとその仲間(イシガイ目)において、再生産が停止し、高齢な個体が優占する個体群があることが広く確認されていました。本研究では、コガタカワシンジュガイの再生産の停止が、宿主へ寄生する寄生期と宿主から脱落した直後の稚貝期のどちらかに問題が起きると生じること、河川水中の栄養塩濃度と懸濁細粒土砂量が共に高い時に、稚貝の生残率が相乗的に低下することで再生産の停止が起きることを実証しました。本研究の成果により、環境の変化に脆弱な複雑な生活史を持つ淡水二枚貝の個体群が健全に維持される河川環境の管理に近づくことが期待されます。

なお、本研究成果は、202397日(木)公開のAquatic Conservation: Marine and Freshwater Ecosystems誌にオンライン掲載されました。

論文名:Effects of multiple stressors on recruitment of long-lived endangered freshwater mussels(長寿な絶滅危惧淡水二枚貝の新規加入に与える複合ストレス機構の影響)
URL:https://doi.org/10.1002/aqc.3998

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川底に群生するコガタカワシンジュガイ(左)と再生産を規定する稚貝の生残率に与える懸濁細粒土砂と電気伝導度(栄養塩濃度の指標)の複合ストレス機構による負の相乗効果(右)。右図の黒い面は一般化線形混合モデルによる推定値。