新着情報

ホーム > プレスリリース(研究発表) > 自然環境と社会情勢の変動の中で長期生態系観測をどう進め活用するのか?〜長期生態系観測の持続可能性のための課題、機会、社会課題解決に関しての議論〜(北方生物圏フィールド科学センター 教授 中村誠宏)

自然環境と社会情勢の変動の中で長期生態系観測をどう進め活用するのか?〜長期生態系観測の持続可能性のための課題、機会、社会課題解決に関しての議論〜(北方生物圏フィールド科学センター 教授 中村誠宏)

2023年7月7日

ポイント

●社会課題の解決のために重要な生態系観測の継続には、多くの課題があることを指摘。
●日本の事例を中心に広域、かつ高解像度な生態系観測の代替手法を紹介。
●文化・言語・経済の枠を超えて、衡平で実現可能な生態系観測が持続できる体制への進展に期待。

概要

北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの中村誠宏教授をはじめとする東京大学先端科学技術研究センター、横浜国立大学大学院環境情報研究院、岐阜大学流域圏科学研究センター、京都大学生態学研究センター及び同農学研究科、東北大学大学院生命科学研究科、国立環境研究所、国立研究開発法人水産研究・教育機構、コンサーベーション・インターナショナル・ジャパン、国際航業株式会社などの研究グループは、自然環境と社会情勢の変動の中で長期生態系観測をどう進め、活用するかについてレビュー論文を発表し長期生態系観測の持続可能性のための課題、機会、社会課題解決に関して議論しました。

生物多様性の価値が認識され始めていますが、その変化を検出する生態系観測を継続するには地域や分野を超えた連携協力が必要不可欠であり、議論の余地があります。広域かつ高解像度な生態系観測を継続させるためには、以下の課題が存在します。1)生物多様性と人為的原因の両方を含めた包括的観測が不足している、2)組織的に生態系観測を設立・維持することは困難である、3)グローバル・ネットワーク構築に向けて国・地域や分野を超えた衡平な解決策が必要であることです。

そこで、日本の事例と新たな枠組みを取り上げ、「社会に利益をもたらす生態学がどれだけ長期観測データに依存しているのか?」また、「生態系観測の軽視がなぜ環境危機を克服する機会を逸するのか?」を解説しました。さらに、広域かつ高解像度な生態系観測の代替手法として、環境DNA、市民科学、再測生態学などの新しい技術を紹介しました。文化・言語・経済の枠を超えて、上記の課題を乗り越えるための統合的な行動を呼びかけ、その結果として、利害関係者間で生態系観測の継続についての議論と協力の出発点になることを期待しています。生態系観測が衡平で実現可能な体制へと発展すれば、社会課題の解決(地球環境の持続可能性)にとって重要な役割を果たすと考えています。

なお、本研究成果は、2023年5月29日(月)にPhilosophical Transactions of the Royal Society B誌でオンライン公開されました。

論文名:Sustainability challenges, opportunities, and solutions for long-term ecosystem observations(長期生態系観測の持続可能性のための課題、機会、社会課題解決)
URL:https://doi.org/10.1098/rstb.2022.0192

詳細はこちら


森林生物多様性モニタリングサイトの位置図。赤紫色の点は、世界森林生物多様性イニシアティブ(https://ag.purdue.edu/facai/data/gfbi.html)の観測点である。異なる森林バイオームは異なる色で示されている。