IFES-GCOE グローバルCOEプログラム 「統合フィールド環境科学の教育研究拠点形成」
         北海道大学大学院環境科学院/農学院環境資源学専攻

グローバルCOEプログラム「統合フィールド環境科学の教育研究拠点形成」
北海道大学大学院環境科学院/農学院環境資源学専攻

ワークショップ「2050年委員会inハコダテ」開催

環境と地域の未来について多数の市民が対話

函館市で毎年夏開催されている科学技術コミュニケーションの複合イベント「はこだて国際科学祭2012」に先立ち、函館市内の函館市中央図書館で行われたプレイベントで、地球環境科学研究院GCOEが「2050年委員会inハコダテ」と題するワークショップを企画・運営しました。

2050hakodate

◎企画趣旨

西暦2050年、わたしたちの社会はかつてない「縮小」の只中にあると予測されています。人口減少・地域の衰退・環境問題…等々、こうした事象を悲観的に捉えるのではなく、人々の意識や行動を変える新しい方法が求められています。この「2050年委員会」は、大学や地域に集う多様な人々が持つ知識や資源を掛け合わせ、近未来に直面する問題を解決する知恵を楽しみながら可視化していくワークショップです。研究者・実践家によるプレゼンテーションをもとに、会場全体で、2050年の函館を素敵にするアイデアづくりのディスカッションを試みます。

◎プログラム

このワークショップでは、2050年という未来の地域社会のあり方を、環境というファクターを踏まえながら、会場に居合わせた多様な参加者自身が「自分たちの問題」として捉え、相互の対話を通して地域の未来に向けた何らかのアイデアや提案を引き出すことを主眼に置き、次のようなプログラムを設定しました。

1) トークセッション
2050年の未来を考える上で見逃すことができない環境問題。特に地球温暖化の動向とそれに向けた取り組みについて、地球環境科学研究院の山中康裕教授が問題の所在を明らかにするレクチャーを行い、進行役とのやり取りを通して「温暖化のように世代間で継承していく問題の解決を図るには、多くの人が当事者意識を持って自分たちで未来をつくっていく姿勢を持つ必要がある」と語りました。

2)映像プレゼンテーション
様々な分野で活動する専門家や実践者のミニインタビューをまとめた映像を上映。未来を考える上で重要なキーワードが提示されました。映像出演者は以下の通りです。
・藤村忠寿氏(HTB『水曜どうでしょう』チーフディレクター)
・猪熊梨恵氏(札幌オオドオリ大学 学長)
・森 傑氏(北海道大学 大学院工学研究院 教授)
・橋口とも子氏(株式会社トラヴェシーア 代表取締役)
・岩井尚人氏(一般社団法人プロジェクトデザインセンター 専務理事)

これらのインタビューでは、次のようなキーフレーズが特に取り上げられ、山中教授からそれらに対する補足のコメントもなされました。
・人が集まることの重要性
・国や地域を超えたつながりと役割分担
・バックキャスティングとフォアキャスティング
・過去も未来も不変の「食べる」こと
・自分たちで未来のエネルギーを選択する

3)意見交換
トークセッションと映像プレゼンテーションを踏まえて、参加者が4〜5人という少人数のグループに分かれて、意見交換を行いました。
リラックスした雰囲気のもとで、気兼ねなく意見を出せるような方法として、「ワールドカフェ」と「OST」(open space technology)という2つの対話技法を組み合わせ、次のような流れで進行しました。
・ワールドカフェ(1ラウンド目)
「2050年の未来へ向けて、いま最も気になっていることは何ですか?」という問いかけのもとで、20分間の意見交換。会場のサポートスタッフが発言を書き取り、それを参照しながら様々な問題提起がなされていきました。この中で参加者からは、「電力やエネルギーの需給がどうなるか」「函館やその近郊の人口減少」「新幹線の開通・延伸によって地域がどう変わるか」「食をめぐる不安要素」「雇用がどうなるか」——といった「気になること」が出されました。
・ワールドカフェ(2ラウンド目)
最初のグループとは違う顔ぶれで新たなグループをつくり、「2050年のハコダテは、どんな街になっ
ていて欲しいですか?」という問いかけのもとで、さらに20分間の意見交換です。1ラウンド目に比
べて、発言もさらに活発となり、「世界とつながるような起業がどんどん進む街に」「古い街並みをより積極的に活用し、人口は少ないながらも幸福度No.1のモデル都市に」「従来の観光業依存から、函館ならではの職人技と<ファブラボ>のような新しい製造技術を融合させたものづくりの街に」——といったアイデアや提案がなされました。
・ミニOST
ワールドカフェ的な2ラウンドを終えた後は、「話し合いたいテーマを持つ人のもとに集まって話す」というミニOSTセッションに移行しました。参加者の中からその場で募ったところ、「2050年の函館に残したい建築」「これからの合意形成」「函館流のシェアハウス」「地域における教育や文化施設のあり方」「食をめぐる新しい流通の場の可能性」——という5つのテーマが出てきました。もとより、この場で結論が出るような意見交換を意図してはいませんでしたが、参加者の間で自然と新しいアイデアが生まれ、相互の触発に富んだ時間が共有できました。

◎ワークショップを終えて
地域社会のサステナビリティを、多くの人たちが自分たちの問題として捉え、行動していくキッカケをつくるうえで、今回のような「専門家等による話題提供」+「多様な人々の対話・創造」というプログラムの組み合わせによるワークショップの可能性を実感する機会となりました。ワールドカフェやOSTのような対話技法は、まだ函館では馴染みが薄いものでしたが、参加者の自発性や積極性が次第に促されていく効果があり、今回の参加者からも新鮮さと驚きをもって受け止められました。今後、実践的な環境アウトリーチ活動などで、この種の対話技法をより積極的に取り入れ咀嚼していくことが重要と感じられました。
今回は、函館で行なわれている科学祭と連携しての企画でしたが、大学等の学術系の人々とまちづくり活動に積極的に関わる実践系の人々とが、フラットで気兼ねなく意見を交わし合い、新たなつながりを生み出していくために、このように地域に根ざした科学技術コミュニケーションやアウトリーチ活動は貴重な機会になると思われます。

pdf告知用チラシ

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