研究について
 
次のような研究に興味を持っている方を募集しています。
 
・分子認識や化学反応・環境変化によって発光色の変わる蛍光色素(化学発光色素)の設計・合成
・それらの色素と適切な生体高分子とを組み合わせたバイオセンサーの創製
・出来上がったバイオセンサーの実用的な応用(環境修復・臨床応用・遺伝子検査・食品検査・環境測定など)
・引っ張ると色の変わる蛍光色素を用いた新しいデバイスの開発(熱などの物理的なパラメータの局所センサーや化学間力顕微鏡など)
・数多くの化学物質に対応したマルチセンサーデバイスの効率的な作製法
 
 
具体的な研究テーマが思い浮かばなくても、次のような方には向いていると思われます。
 
・有機合成の経験を何か実用的なデバイスに使ってみたいと思われる方
・化学的な現象を可視化することに興味を持っている方
・合成で楽をするためのアイディアを出す時間を厭わない方
・コストや時間のかかる分析法を簡便にすることに意義を見出せる方
・地球環境の修復や資源の探索など今までに使われていなかった分野に、光学センサーを実用応用したいと思っている方
 
何か興味のある研究テーマがありましたらお気軽に(yamada@ees.hokudai.ac.jp)までご連絡下さい。
 

現在の研究('06.4〜)

 ボロンジピロメテンを用いたセンサー分子は、他の蛍光色素を用いたセンサーに比べ優れた性能を持つことが分かりましたが、そのままでは、実際の測定対象を測ることができません。一つは、ボロンジピロメテンが非常に水に溶けにくいため、そのままでは一番需要のある水溶液に対し応答しないことが挙げられます。現在報告されているプリミティブな分子では、有機溶媒中での応答で評価しているため、あまり実用的ではありません。そのため、分子に水溶性を付与したり、界面に制御して配列させたりといった対策が重要になってきます。

水溶液が測定できるセンシングデバイス(左が中性・右が酸性)

 もう一つは、この世に存在するさまざまな化学物質の多くが、人工の合成分子によって識別できないことが挙げられます。 数多くの有機合成技術と長い合成実験の時間を注ぎ込んでも、目的の化学物質のセンサーとして優れた性能(感度・選択性)が保障されるとは限りません。 一方で、生体分子は、現在の合成技術を駆使しても合成できない複雑な構造を有するものも多くあり、生命活動に必須な優れた選択性を発揮しています。ただ、それ故に低濃度で大きく挙動が変化するので、詳細な機構の解明(可視化)は非常に困難です。

 そこで、 感度に優れた蛍光色素(もしくはさらに優れた化学発光色素)と選択性に優れた生体高分子を組み合わせて、実用的なバイオセンサーを創製することを研究の大きな目標にしています。 色素の合成に関しては、北海道大学発の鈴木−宮浦クロスカップリング法を始めとした汎用性の高い合成法を駆使することで、性能の向上や実用化に向けた分子の改良が早いサイクルでできるように綿密なディスカッションを行っています。生体高分子に関しては、坂入先生の専門分野である糖鎖をはじめ、核酸・脂質・タンパク質・機能性高分子など、北海道大学内外のさまざまな学部・研究院の先生方と協力しながら、目的に合わせた素材を探しています。

 近年の半導体技術の発展により、発光素子(LED)や受光素子(フォトダイオード)が高感度化・小型化・低コスト化したため、発光色素を用いたセンサーデバイスはフィールドワークでの環境計測やクリニックでの臨床検査において高信頼かつ手軽にその場分析ができる有力な候補です。特許の取得や企業との共同研究を含め、世の中に直接役立つ新しいセンシングデバイスの作製を最終目標にしています。 

 より詳しい研究内容はこちらをご覧下さい → 第22回分析化学緑陰セミナー・小樽 招待講演資料


慶応大学理工学部応用化学科・神奈川科学技術アカデミー光科学重点研究室での研究('02.4〜'06.3)

 ボロンジピロメテン色素は、モル吸光係数が大きく、蛍光量子収率も高く、光や化学反応にも安定な優れた蛍光色素です。さらに、ボロンジピロメテンは、特定の位置に置換基を導入することで蛍光色を緑〜赤に調整できる利点を持っています。そこで、その特定の置換位置に認識部位や反応部位を直結することで、分子認識や化学反応が蛍光色の変化によって高感度に可視化できるセンサー分子の創製を行っていました。その際、鈴木−宮浦クロスカップリング法と呼ばれる汎用性の高い合成法により、認識部位・反応部位を直結する合成ルートを新たに開発しました。その結果、共通の原料から少ない合成ステップ数で、プロトン・陽イオン・陰イオンの分子認識や加水分解・ラベル化などの化学反応によって波長の変わる蛍光プローブ分子を作り分けることに成功しました。

蛍光プロトンセンサー分子(左が何も加えない状態・右が酸を加えた状態)

タンパク質蛍光インジケータ(システイン残基と反応すると蛍光色が変わる)

 また、ボロンジピロメテンの優れた化学的安定性を生かし、ボロンジピロメテン−ルミノール直結分子の合成に成功しました。ルミノールは、過酸化水素のエネルギーによって発光する化学発光色素ですが、ボロンジピロメテンに直結することで、単一分子では今まで難しかった緑〜赤の化学発光を生み出すことに成功しました。化学発光は、蛍光と違って励起光のノイズが無いため非常に感度が高く、微量物質の検出に大いに役立ちます。

マルチカラー化学発光色素(一番左は従来のルミノール化合物)

 その他、新しい分析法を実現するための機能性分子や光スイッチング機能を持つ磁性体の構成分子などの共同研究を行っていました。

 なお、類似の研究が第三者によって公表されておりますが、秘密保持契約に基づく同意は一切行っておりません。


菅原研(東京大学大学院総合文化研究科)での研究('00.4〜'02.3)

 人工細胞モデル系の自己増殖・分化過程の直接観察のために、ボロンジピロメテン色素を用いて、マルチカラー蛍光プローブおよび化学反応によって色が変わる蛍光インジケータを設計・合成していました。

さまざまなボロンジピロメテン誘導体

 
異なる蛍光色で染め分けたジャイアントベシクル


坂田研(現阿蘇研・大阪大学産業科学研究所)での研究('94.4〜'00.3)

 光合成色素クロロフィルの類縁体であるポルフィリンとフェロセンやフラーレンなどを連結した光合成モデルを設計・合成し、光を照射した時の電子移動の挙動を観測し、光合成初期過程の解明を目指していました。ピコ(10-12)秒という短い時間で行われる現象なので測定は非常に大変でしたが、これらの研究を通して薗頭カップリングなどの炭素−炭素クロスカップリング反応の素晴らしさを体感することができました。


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