嶋津研究室

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①最も環境に優しい方法による水環境浄化 

 

環境に優しい電気化学法

 
 環境汚染物質を取り除いたり、無害化するうえで最も重要なことは、その方法が環境に優しいということです。多くの環境修復法では、無害化、除去あるいは除去後の処理過程などで化学薬品を使用しますが、薬品の使用は新たな環境汚染の危険性があります。しかし、電気化学法は電子が試薬となり、汚染物質を酸化還元することで無害化します。よって化学薬品を一切使わないので、最も環境に優しい方法であるということができます。
 電気化学法はこの他にもさまざまな長所があります。常温常圧下での反応なので安全ですし、コンピューター一つでコントロールできるので人手も入らず管理がたいへん楽です。電解槽のユニット化で、さまざまなスケールの処理にも対応できます。コストもそれほど高くないと見積られています。設置場所がコンパクトで、設備費も安く済み、ランニングコストも人件費や最終的に無害化するまでのすべての過程を考慮すると、他の多くの環境処理プロセスと比べても競争できるレベルであるといわれています。
 
 このような長所があるのにもかかわらず、電気化学法による環境修復の研究はこれまでそれほど盛んではありませんでした。しかし、最近はこれらの長所が見直されてきて、将来は最も有力な環境修復法になると考える研究者や企業が増えてきています。当研究室では、電気化学環境修復法の開発において最も重要である電極材料設計で世界をリードできるよう努力しています。
 
 電気化学法が水の電気分解などからイメージされるように古臭いと思っている方は、是非②ナノを超えるテクノロジーの開発と夢の界面創造を御覧ください。電気化学は界面材料設計で最先端を走っています。

 

硝酸性窒素による環境汚染

 
 肥料の大量投与、家畜排泄物や工場廃液の不適切な処理による地下水の硝酸性窒素汚染が世界中で進行しています。硝酸性窒素の含まれている飲料水や食物を摂取すると、硝酸性窒素は消化器系内で亜硝酸性窒素に還元されます。亜硝酸性窒素はヘモグロビンを酸化して酸素運搬能のないメトヘモグロビンを生成し、メトヘモグロビン血症を引き起こします。メトヘモグロビン血症は酸素不足に由来しますので軽度の場合では皮膚の変色を、重度の場合は呼吸困難を引き起こし、乳幼児の場合には死亡に至るケースもあります。亜硝酸性窒素はさらに体内でアミンと反応しニトロソアミンに転化し、これはガンやインシュリン依存型糖尿病を引き起こす可能性があると指摘されています。 
 
 
 

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 硝酸性窒素は1999年に環境基準の健康項目に加えられました。環境基準値は亜硝酸性窒素と合わせて10 ppmです。全国の井戸水の水質検査結果によると、基準値を超えた井戸の割合は2000年の全国平均で約6%で、1994年には3%でしたから汚染が進んでいることがわかります。このような汚染は地球規模でも進んでおり、特にヨーロッパやアメリカの内陸部での汚染がひどく、飲料水の基準値超過率がかなり高くなっています。したがって、硝酸性窒素を無害化する技術開発がまさに地球を救うことになります。 
 
 

赤外吸収スペクトルによる電極表面吸着物質,吸着状態の解明

 
 電極反応では、電極表面付近で電子のやり取りが行われています。電極の材質や表面状態によって、反応生成物の種類や量比が異なります。例えば、硝酸イオンでは図1に示すように、3つの吸着の仕方があります。この吸着の仕方の違いが、電極の活性、生成物の選択性に大きく関係していると考えられています。これらの電極による違いの原因を探る方法の一つが、反射による赤外分光法です。電極表面吸着物質、吸着状態の情報の他に、図2の様に数多くのスペクトルを一定の時間間隔で測定し並べると、変化の様子を詳しく知ることができます。
 当研究室で行っている表面増強赤外分光法(Surface Enhanced Infrared Spectroscopy, SEIRAS)は、大澤教授(北大 触媒センター)らによって開発された新しい測定法であり、溶媒や溶液中に存在する物質の影響を受けにくい優れた測定方法です。

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これまでの研究成果とこれからの展開

 
 硝酸性窒素を電気化学的に窒素分子までに還元して無害化しようという研究は2000年に始めました。したがって比較的新しい研究課題ですが、すでに貴金属と第2成分金属の2種類からなる二成分金属系を用いて、これまでのどの電極よりも高活性な電極の調製に成功しました。加えて、窒素の選択性もこれまでになく高い電極の調製にも成功しています。これらの電極については実用化に向けての問題点を探るレベルまできています。
 私達は電極触媒特性のいっそうの向上をめざして、二成分金属系だけでなくさまざまな形態の電極を検討しています。反応機構の検討や触媒成分の系統的探索や分散制御も重要だと考えています。また、環境ホルモンなどの有機汚染物質の電気化学的無害化も近々始める予定です。図は実際の汚染水を処理するモデル電解槽のイメージ図です。

 
 
 

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