研究室の紹介(奥原研当時)
夢を見る触媒の開拓と
責任感ある触媒への発展

触媒誌「研究室紹介」より(47巻, 632, 2005)

Developments of Dreamy Catalysts and Responsible Catalysts

水は生命の維持に欠かせない物質であり、飲料水の確保は今後の重要な課題です。また一方では、地球規模での環境問題が大きくクローズアップされています。我々の研究室では、この“水”と“環境”をキーワードとした研究を行っています。地球環境を健全に保つためには、環境修復と環境保全の両方を推進することが大切であり、生活に直接関連する水の浄化のための固体触媒プロセスと、完全クリーンな化学プロセスの実現を究極の目標にしています。

近年、貴重な水資源である地下水の硝酸イオンによる汚染が世界各地で顕在化しており、その浄化法の開発が急務となっています。我々は、Cu-Pd/AC、Cu-Pd/ゼオライトが、硝酸イオンの還元浄化に対して優れていることを報告しています。また最近、硝酸イオンを亜硝酸イオンへと高選択的に還元するCu-Pdクラスタと、亜硝酸イオンをN2へと高選択的に還元するPd/β-zeoliteの2つの触媒を見いだし、これらを組み合わせた2段法プロセスは硝酸イオンをほぼ完全に無害化できることを明らかにしました。これらの触媒プロセスを実地下水に適用することにも取り組んでいます。

通常の固体酸は、水が反応物や生成物となる反応や水の中では酸点が水に被毒されるため、固体酸として機能しません。我々は、ヘテロポリ酸の部分酸性塩Cs2.5H0.5PW12O40(Cs2.5)が、水中触媒反応に著しく高い活性を示す優れた水中固体酸であることを報告しています。最近は、Cs2.5を実際に使える水中固体酸にするために、無機酸化物とのハイブリッド化に取り組んでいます。また、水が共存すると活性が向上するMoO3-ZrO2などユニークな触媒材料の開発にも取り組んできました。

これらのテーマ以外にも、Pd系二元機能触媒による酢酸合成やクリーンガソリン合成、VP酸化物触媒による無水マレイン酸合成の研究も進めています。

研究室は現在、奥原敏夫教授、神谷裕一助教授を中心に、博士研究員2名、博士課程6名、修士課程14名、秘書1名の総勢25名で研究活動に励んでいます。我々が所属する大学院環境科学院には学部が無いので、他大学からの学生が多いのが特徴です。毎年、学生が集まるかどうかハラハラ、ドキドキしますが、幸い多くの人が来てくれています。学生の化学のバックグラウンドは、有機化学、無機固体化学、錯体化学など様々で(触媒を学んだ学生はごく少数)、中には物理や酪農を学んできた学生もいる、「幕の内弁当(?)」的な研究室です。研究はできる限り開放された心で自由に発想し、また研究室はそれができる場でありたいと願っています。研究指向タイトルにある、「夢を見る触媒」とはたとえ小さなフラスコの中にあっても、非常にすばらしい触媒のことであり、「責任感ある触媒」とは名前倒れでない触媒のことです。環境修復/改善のためには、触媒はその場できちんと働かなくてはならず、そのレベルにまで性能を高めることも我々の仕事だと考えています。現実にはなかなか難しいものがありますが、それでも研究室一体となって環境修復/改善のための夢と責任ある触媒を探す我々の挑戦は続きます。