第7回 シンポジウム
地球環境科学研究科21世紀COEセミナー (研究科アワー) 

平成17年 新春シリーズ


第1回
日時: 平成17年1月14日 17時より
場所: 地球環境科学研究科 2階講堂

     公演者:山中 康裕(気候モデリング講座)
     演題  :大気CO2濃度安定化と放出削減量の関係、それを実現するための
           研究の現状
     座長  :池田 元美(気候モデリング講座)

<要旨>
1994年に発効した温暖化枠組み条約では「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」を究極的な目的とし、2月発効する京都議定書では先進国5%削減を目指している。地球温暖化が進めば(発展途上国が負担増となる)環境破壊への対策(adaptation)費用が増加し、CO2放出を抑制すれば(先進国に負担増となる)経済損失となる緩和(mitigation)費用が増加する。大気中CO2濃度の安定化レベルはこれらのトレードオフとして議論される。EUが提案している550ppmでの安定化のためには、人間活動に伴う放出を21世紀末で年間6GtC、22世紀末で年間2GtC台(京都議定書の20倍に相当する70%削減)まで減少させなければならない。そのためには、石油・天然ガス資源の枯渇・将来価格という視点を含め、風力発電などの再生可能エネルギーの拡大やコジェネレーションによる発電効率向上などの省エネ対策を推進しなければならない。一方、石炭は、同じ発電量に対して天然ガスの約2倍のCO2を放出するが、21世紀中に枯渇することはない。例えば「大気中CO2濃度550ppm安定化」と「発展途上国が(先進国が行ったように)安価な化石燃料を利用して経済発展をする権利」との両立といった視点から、CO2を放出させずに回収・貯留して化石燃料を使用することも緩和策の大きな選択肢の一つである。米国は、このような革新的な技術として、石炭利用およびCO2回収貯留を中心とする国際的枠組み、炭素隔離リーダーシップ・フォーラム(CSLF)や水素経済のための国際パートナーシップ(IPHE)を2003年に立ち上げた。また、IPCCは、温暖化枠組み条約締約国会議(COP)からの要請に基づき、CO2回収・貯留がCO2放出削減対策として認められるかどうか、回収・貯留に関する技術や自然に対する影響などの科学的知見を「CO2回収貯留に関する特別報告書」(2005年発刊予定)としてまとめている。石炭を燃やしCO2が1kg発生するとき、発熱量2600kcalの40%が電力変換したとし、液化するのに必要なエネルギーが36kcalなので、効率80%での液化は得られた電力の4.3%に相当する(大隅, 2004)。これにCO2を排ガスからの分離回収、輸送、貯留管理を含めたコストが10%程度となれば、エネルギー的には成立する技術であり、全体で6000円/tCO2程度で行うことが考えられている。貯留場所が地中か海洋かにより状況が異なる。地中貯留は、石油会社が石油掘削とほぼ同じ技術を用いて新たに利益を得られ、各々の国内法律で対応出来る。半永久的に管理することが必要となり、もし漏れれば大惨事となる。すでに、日本においても、(大きな話題となることもなく)2003年7月より長岡において地層への(1年半かけて1万トンのCO2を注入する実証実験が行われている。一方、海洋深海隔離は、大気中放出したCO2が海洋表層に吸収され、海洋深層に(人間活動から見ると非常にゆっくりとした速度で)運ばれていくのを人為的に促進すると見なせば、ある意味では自然に優しいものである。しかし、投入されたCO2は全海洋に拡がっていくので、投入後回収を含めた管理は難しく、公海への廃棄物の投棄禁止を定めたロンドン条約との関係など国際的な合意が必要となる。2002年国際的環境団体の反対により中止された(1トンを放出する)ノルウェー実験など、実証実験は今まで行われていない。
人工湧昇や鉄添加などの人為的な栄養塩供給によって植物プランクトンによる光合成を促進させることで、CO2を人為的に吸収させる計画も進められているが、自然の生態系を利用しているために一見易しく見えるが、動植物プランクトンの優占種が交代するなど明らかな生態系の攪乱を行うことになる。この影響が水産資源や海生生物への拡がることが危惧され、私個人としては、必要悪的に行う海洋深海隔離の方が環境に与える影響が小さいものと今のところ考えている。大気中CO2濃度安定化後の世界では、基本的に「人間活動に伴う放出は、陸上植生による放出・吸収は長期的には小さくため、海洋による吸収分だけ行える」という炭素収支となる。その世界では、温暖化に伴う生態系の変動が年間0.1GtC程度あったとしても無視出来なくなる(年間2GtCの5%に相当)。従って、現在以上に「元々の自然サイクルはどうなっているのか?それが温暖化に伴ってどう変わるか?」を明らかにする研究がますます重要となることを最後に付け加えておく。

*シンポジウムの様子
     



第2回 
平成17年1月21日(金) 17時〜
場所: 地球環境科学研究科 2階講堂

     公演者: 松村 寛一郎(関西学院大学総合政策学部メディア情報学科)
     演題  :グローバルリスクマネジメント構想
     座長  :池田 元美(気候モデリング講座)

<要旨>
台風による土砂災害、水害は目に見える形で、リスクとして私達の暮らしに影響を与え、防災に対する備えの重要性を認識させる。一方、食料、水、エネルギーに関して、目に見えない形でのリスクが進行している。資源リスクの要因である人口、森林破壊、都市化、所得格差、予測モデルの存在意義に言及したグローバルリスクマネジメント構想を紹介する。


村松先生が今回の公演でご使用になったPower Pointのファイルをこちらからご覧いただけます。



第3回 
平成17年2月 4日(金) 17時〜
場所: 地球環境科学研究科 2階講堂

     公演者:中塚 武(低温科学研究所寒冷海洋圏科学部門)
     演題  :北東アジアの人間活動が北太平洋の生物生産に与える影響評価
           −アムー ル・オホーツクプロジェクトの紹介
     座長  :池田 元美(気候モデリング講座)

<要旨>
北海道東方沖の北部北太平洋は、冬の海水の鉛直対流によって栄養塩が大量に表層にもたらされ、春に植物プランクトンが大発生する大変生産力の高い海ですが、夏には大量の栄養塩を表層に残したまま生産がストップしてしまう高栄養塩・低クロ ロフィル(HNLC)海域になります。近年、当海域で夏季の植物の生産が制限される原 因が、微量金属である鉄の不足にあることが明らかになってきました。鉄は海水にほ とんど溶けないため、植物プランクトンが利用する鉄は大気や河川を通して陸上から 輸送されてくる必要があります。つまり、この陸から海への鉄の供給量の変化が、北部北太平洋における生物生産に大きな影響を与える可能性があるわけです。本プロジェクトでは、オホーツク海が、冬に大量の栄養塩が表層にもたらされる海域でありながら、隣接する北部北太平洋と違って、夏までに栄養塩を完全に利用できる(非HNLC)海域であるという事実に着目し、オホーツク海に供給される鉄のフラックスとその海洋における輸送、植物による利用を研究すると共に、最大の鉄のソースであると考えられるアムール川の流域において、どのように鉄が河川水に流入し、海洋に輸送されているのか、そのメカニズムを明らかにすることを目指しています。本プロジェクトは、21世紀COE研究及び、低温研の環オホーツク観測研究センターの研究課題の一つである同時に、文理融合研究による人間−環境相互作用の解明を目指す、総合地球環境学研究所の研究プロジェクトでもあります。特に本プロジェクトでは、アムール川流域で最大の鉄の溶出ポテンシャルを持つと考えられる巨大な湿原域=中国東北部の三江平原の開発などをめぐって、人文・社会科学的研究も進めていきます。本講演では、研究プロジェクトの骨格を紹介したのち、1)鉄の流出・輸送に適したアムール川流域・オホーツク海の特異的性格、2)ロシア極東・中国東北部の政治経済社会状況が物質循環系に与える影響などを中心に、話題を提供します。



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