北海道大学大学院地球環境科学研究科
  ・設立10周年記念シンポジウム
  ・21世紀COEプログラム・シンポジウム


「地球環境科学の展開」


平成15年9月29日(月)に北海道大学学術交流会館小講堂にて地球環境科学研究科設立10周年記念シンポジウムと21世紀COEプログラム・シンポジウムを合わせて開催いたしました。




<<プログラム>>

司会者   南川 雅男  教授
 【研究科紹介】
10:00〜10:30    池田 元美  研究科長
                    「地球環境科学に携わる者が直面している課題
                      −COE研究およびそれと相互に支え合う基盤研究−」

 【記念講演】
10:30〜11:30    丹保 憲仁  放送大学学園放送大学長、本学前総長
                 「小さな国に沢山の豊かな人がいる日本」

司会者   新岡 正  助教授  
 【基調講演】
13:00〜14:05   松野 太郎  地球フロンティア研究システム長、本学名誉教授
             「地球環境の統合モデリング
−温暖化コントロールに向けて−」


 【研究講演】
14:10〜14:40   渡辺 豊   助教授
             「大気と海洋の物質循環にいま何がおこっているのか?
       −観測データベースからみた地球温暖化解析結果から−」

14:45〜15:15   木村 詞明  COE研究員
           「人工衛星データを使った海氷変動の研究」

             ( 15:15〜15:45     休憩 )

司会者   沖野 龍文  助教授
15:45〜16:15   石川 俊之  COE研究員
         「湖沼における生態系変化の解明と予測」

16:20〜16:50   山本 正伸  助教授
                    「海底堆積物から読み解く過去の大気海洋循環」

16:55〜17:25   小西 克明  助教授
             「合成化学からの環境科学へのアプローチ」



<<研究講演要旨>>                                    トップへ↑


渡辺 豊 助教授
大気と海洋の物質循環にいま何がおこっているのか?
−観測データベースからみた地球温暖化解析結果から−

 全球海盆スケールでの化学・物理的データから、地球温暖化にともなって海洋の循環がだんだん弱まってきっていることが分かってきました。その結果、海洋がこれまでに吸収してきた二酸化炭素の吸収の程度もどんどん弱くなっており、地球温暖化に対してますます負のフィードバックがかかっている可能性が分かってきました。

 その見近な一例として、日本海深層水と北太平洋の中層水の水温、酸素、リン酸濃度の時系列を見てみますと、過去40年間、どの場所でも水温が上昇していることが分かりました。その結果、海洋表層と中深層との水の混合が弱くなるので、表層から運ばれる酸素量が海洋内部で減る一方、深層で有機物の分解の結果として再生するリン酸が深層から海洋表層へ上がってこないので、海洋内部でどんどん増加しています。このことが海洋表面での生物活動の減少をもたらす可能性があることも分かってきました。

 さらに最近の海洋の二酸化炭素の吸収効率の程度を調べてみますと、北太平洋全域では、1980年代に比べて約10%も減少していることが分かってきました。講演ではこれらのことがが今後どのような影響を及ぼす可能性があるのかについても議論したいと思います。



木村 詞明 COE研究員
「人工衛星データを使った海氷変動の研究」

 地球上の海の約10分の1は海氷に覆われます。しかし、その海氷については未知な事柄がたくさんあります。例えば、北海道沿岸で見られる海氷がどこからやってきたのか分かりませんし、来年のオホーツク海の海氷が多くなるのか少なくなるのかもきちんと予測することはできません。また、海氷は広く地球の気候を決める上でも重要な役割を果たしていると考えられています。地球温暖化の影響をきちんと知るためや、毎日の天気予報の精度向上のためにも、海氷の変動の実態を明らかにする必要があります。

 海氷のある海域は一般に気象条件等が厳しく、現場での観測も多くはありません。そこで、海氷変動の研究には人工衛星からの観測が大きな役割を果たしています。衛星による観測データからは、海氷の分布や動きなどを知ることができます。私達はこれらの情報を使って、海
氷が何によって変動しているのか、どこで生成されて、どう移動し、どこで融解しているのかといった海氷変動のメカニズムを解明するための研究をすすめています。その研究の成果をもとに、海氷域の変動とはどのようなものなのかについてお話しします。



石川 俊之 COE研究員
「湖沼における生態系変化の解明と予測」

 私がこれまで行ってきた琵琶湖における研究と、本研究科において今年の4月より参加しているインドネシアにおける三日月湖での研究について紹介します。

 日本最大の湖である琵琶湖では20世紀に様々な変化がおきました。私は湖の深底部に生息するアナンデールヨコエビという甲殻類の密度変化を過去30年間の試料を用いて明らかにし、深底部での食物連鎖の変化により物質流が変化した可能性を示しました。

 現在取り組んでいる、インドネシアの湖沼では、「木の葉が落ちて魚になった」というおとぎ話のような研究にとりくんでいます。このおとぎ話は、進化学的には明らかに間違っていますが、物質の流れとしてみると、実は熱帯の三日月湖の生態系を端的に捉えた話かもしれません。湖沼をとりまく森林の変化がもたらす、湖沼生態系の変化を予測することが研究のゴールです。



山本 正伸 助教授
「海底堆積物から読み解く過去の大気海洋循環」

 地球温暖化問題に対する社会的意識の高まりを反映して、古気候研究のありかたが大きく変わりつつある。古気候学・古海洋学の立場から社会的要請に応えるためには、過去の全球的気候変動の原因を解明することが最優先課題である。我々は、第四紀に繰り返し起きた様々な時間スケールの全球的古気候変動の要因を明らかにすることを研究目標としている。

 氷期間氷期変動の原因は謎である。20世紀初頭にミランコビッチ仮説が提案されていらい、北半球高緯度域の氷床と海洋が軌道強制力(日射量変化)を増幅し、周期的気候変動を起こすと考えられてきた。しかし、最近、熱帯太平洋の大気海洋相互作用の長時間スケール変動が全球的気候変化に影響しているとする新仮説(Cane仮説)が提案され、検証が待たれている。我々は、北太平洋中緯度域の東西両縁の海底コア試料を用いて、過去14.5万年間のアルケノン古水温変化を調べることにより、この新仮説の有力な証拠を見いだした。過去2回の融氷期はエルニーニョ的水温パターンを特徴とする。氷期末の全球温暖化は熱帯太平洋がエルニーニョ的状態になることにより進行したことが示唆された。



小西 克明 助教授
「合成化学からの環境科学へのアプローチ」

今日の我々の文明は、金属、ガラス、高分子(プラスチック、ゴム、繊維)などの物質製品に支えられており、もはや無しでの生活など考えられない。しかしながら、これらの生産過程を考えてみると、原材料から、製造・加工に必要なエネルギーに至るまでの多くを化石資源に頼っており、結果として環境に負荷を与える物質を自然界に放出し、多くの問題を引き起こしてきた。こうした問題に対処し、なおかつ将来にわたって現在の利便性を享受し続けるためには、「エネルギーをできる限り使わない」、「必要のないものを作らない、使わない」プロセスを開発することが、究極の解決法であろう。こうした観点から、本講演では、「物質を作る」立場から、欲しいものだけを作る触媒、エネルギーを有効変換・利用できる材料、化石資源に頼らない物質生産、など将来に求められる生産システムに向けての基礎的取り組みについてお話したい


<<シンポジウムの様子>>                              トップへ↑
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*研究講演の様子

      
丹保憲仁 前総長/            松野太郎 名誉教授/         池田元美 研究科長/          渡辺豊 助教授


      
木村詞明 研究員/           石川俊之 研究員/            山本正伸 助教授/           小西克明 助教授



*パネル展の様子
      

パネル展で展示していたCOEのポスターはこちらでご覧いただけます。



北海道大学 大学院地球環境科学研究院・低温科学研究所
21世紀COEプログラム「生態地球圏システム劇変の予測と回避」
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