ポストドクター

大島 和裕 「大気陸域生態系結合モデルの開発と将来予測」



温暖化

安成 哲平 「雪氷圏におけるエアロゾルの輸送・沈着過程、及び雪氷コアを用いた高分解能放射強制力の変動復元」
田村 岳史 南極海における海氷生産量の年変動

統合型プロジェクト2:大気・海洋・陸面・物資・生態統合モデル

野村 大樹 「海氷生成と融解に伴う大気への二酸化炭素放出・吸収に関する研究」
重光 雅仁 「古海洋循環復元のためのプロキシー開発および海底堆積物への当該プロキシーの応用」
早川 真紀 植物プランクトンの細胞死と地球環境変化

オゾン層破壊

片岡 剛文 「海洋性バクテリアにおける紫外線の影響評価」


生態機能低下

庄山 紀久子 「生物多様性に注目した森林の復元機構と再生事業手法の検討」
井田 祟 「気候変動が虫媒花植物の送粉共生系に及ぼす影響予測」
杉本 太郎 「糞を用いたアムールヒョウとシベリアトラの遺伝的解析」
今井 眞紀 「環境変化に応じたミジンコの形態変化の分子機構」

汚染物質・環境修復

曽根弘昭 「カーボンナノチューブを用いた環境修復技術の開発」
Lim, Chungwan `Construction of alkalic tephrochronogogical framework in the Japan/East Sea for testing the synchronization of abrupt changes during the Late Quaternary`


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「大気陸域生態系結合モデルの開発と将来予測」
環境科学研究院  COE研究院  大島 和裕

 森林は陸域の大きな面積を占め,大気と陸面間での相互作用において重要な役割を担っている。森林を含む植生は,大気−陸面間で水,熱,二酸化炭素等のエネルギー,物質輸送通して大気からの影響を受け,大気もまた植生から影響を受けている。この大気−陸面相互作用は植生の存在により複雑になるが,植生の有無によって大気と陸面のやり取りは大きく異なるという点から,大気陸面過程において必要不可欠である。
 地球温暖化に伴った降水量や気温の変化は植生へ影響を与え,植生が変化することは大気の諸過程に影響を与えると考えられる。しかし,現在の大気大循環モデルで行われている温暖化実験では,各地域での植生が固定され,温暖化時でも同じ植生のままである。これを改善するためには,植生の成長,枯死といった植生動態を考慮したモデルの開発が必要である。このような植生動態モデルを大気大循環モデルに結合することにより現実に近い陸域が再現されることが見込まれる。
 本研究では,大気陸域生態系結合モデルを開発し,気候と植生の関係を明らかにすることを目的にする。以下に研究内容を示す。
大気陸域生態系結合モデルの開発
 東京大学気候システムセンターと国立環境研究所で開発された大気大循環モデル(CCSR/NIES AGCM)に植生動態を加味した大気−陸面モデルであるMINoSGIを組み込み,大気陸域生態系結合モデルの開発を行う。
植生と気候の関わり
 結合モデルを用いて植生動態を組み込んだ効果を評価することで,大気−陸面相互作用における植生と気候の関わりを解明する。
長期変動
 長期的な気候変動と植生の関係や温暖化への影響を評価する。今までのような植生固定の温暖化実験と植生動態を加味した結合モデルの実験を比較する。
植生の遠隔的な大気への影響
 植生は局地的な気候に影響を与えるだけではなく,遠隔的な気候形成への影響が考えられる。そこで北方森林をはじめとした各地域の植生状態が局地的,遠隔的な気候にどのような影響を与えているかを調べる。
 以上の研究を通して,植生−気候間の相互作用の理解および温暖化への影響を評価することで,将来の気候形成,変動における陸域生態系の役割を明らかにしたい。



「雪氷圏におけるエアロゾルの輸送・沈着過程、及び雪氷コアを用いた高分解能放射強制力の変動復元」
地球圏科学専攻 博士後期課程1年 安成 哲平(指導教官:本堂武夫)

<研究背景>
  修士研究にて、アラスカの氷河で掘削された雪氷コア50mのダストを超高分解能で分析を行った。コアはこの10年を復元することが明らかになった。また、現地観測において気象・雪氷観測を行った。その両者の結果から、近年の北太平洋域のダストの輸送・沈着過程が理解された。しかし、雪氷コアは気象データのない期間を復元できることが重要であるため,2本目に掘削された約216mの雪氷コアから過去100〜300年の気候変動記録の抽出が期待される.
<研究目的>
  2本目の雪氷コアから、過去のエアロゾル(本研究では主にダスト)の長期変動情報を高分解能で抽出する。エアロゾルは太陽光を散乱・吸収することにより、地球の放射収支に影響を与える。21世紀COEの目指す地球温暖化予測においては、この効果の考慮は必要不可欠である。本研究では、散乱・放射伝達理論を用いて、北半球のダストによる放射強制力の長期変動を高分解能で復元する。最終的に、修士の研究で得た、エアロゾルの輸送経路や沈着過程における知識を導入し、過去100〜300年の北半球のダストによる放射強制力の変動が気候に与えてきた影響について評価することを本研究の目的とする。
<研究方法>
1. 雪氷コア(札幌で採取した雪サンプル含む)サンプル中のダストの粒子数(0.52−16μm)をレーザー光散乱装置(Laser Particle Counter)を用いて、高分解時間能(約10cm間隔)で分析し、過去100〜300年の季節変動まで捕らえたダスト変動を抽出する。この装置は現在、所属研究機関である北海道大学大学院・環境科学院(低温科学研究所:以後,低温研と呼ぶ)にないため、極地研究所において分析を行う。
  札幌で採取した雪サンプルは低温研のイオンクロマトグラフも分析に用いる。また、2004−2005年冬季に観測をおこなった、光学的に測定したエアロゾルや降雪粒子データを使用する。
2. 散乱・放射伝達理論や、雪氷コアから抽出されたダストの粒径分布情報を用いて放射強制力を計算し、過去100〜300年の放射強制力の長期変動を高分解時間能で復元する。
3. 計算結果を元にダストによる放射強制力の長期変動が気候へ与える影響について議論をおこない,将来の予測についても議論を行い、まとめる。
<研究計画>
(1〜2年目)
  2004−2005年冬季、札幌の低温研裏で毎日採取した、雪サンプル中のダスト・イオン等を分析する(夏頃までに終了予定)。そのデータとエアロゾルの光学測定データ及び降雪粒子の関係から、降雪時のエアロゾル沈着プロセスについて議論する(コアのダストデータを解釈する際の実際のフラックスへ換算するための研究)。また、夏くらいをめどに修士課程における研究成果の一部をまず1本論文に投稿する。
  夏以降から、アラスカのランゲル山で2004年に掘削した,2本目の雪氷コア約216m(1本目と重複していない50m以降150mを中心に分析)のダスト分析を上記に記載した方法で行う。雪氷コアの分析は基本的に連続して10cm間隔程度で取得する。コア分析には非常に時間がかかるので、分析には1年以上かかる予定である。博士1年後期から分析を始め、2年目も引き続きコアのダスト分析を行う。
  同時に、コアのデータを使って、高分解能の放射強制力を見積もるためのモデルを構築する。モデルを構築するため、散乱・放射伝達理論の勉強を進める。具体的には、これまでの数多くある散乱理論を考慮した放射伝達モデルを参考にしつつ、雪氷コアのデータを適応しやすいモデルを構築する(今後,他の場所で掘削された雪氷コアのデータでも使えるようにするために)。
(3年目)
  2年間で取得した、高分解能ダストデータを元に放射強制力を、構築したモデルで計算を行い過去100〜300年の放射強制力の変動が気候に与えてきた影響を評価し、物質循環や気候変動への影響を雪氷圏の視点から議論を行い、まとめる。

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南極海における海氷生産量の年変動
大気海洋圏環境科学専攻 極域大気海洋学講座
博士後期課程3年 田村 岳史(指導教官:大島 慶一郎 助教授)

研究目的:
 南極海はそのほとんどが季節海氷域であり、海氷が持つ正のフィードバック効果などが原因となって、地球温暖化などの気候変動からの感度が高く、海氷面積が大きく年々変動する。ここは南極底層水が作られる海域であると共に、大気海洋間の熱交換が盛んに行われている海域でもあり、赤道域と並んで地球規模での気候変動を決める領域であるのではないかと考えられている。この南極海において、大気に対しても海洋に対しても大きな影響を与える領域は沿岸ポリニヤである。ここでは冬季において、通常の海氷域と比べて熱フラックスおよび海氷生産量が一桁大きい。ここでの大きな海氷生産に伴う塩分排出による高密度水形成は、底層水形成の源となる。しかしながらこの海域は現場観測が極めて難しい。これらの諸現象を定量的に明らかにするためには、衛星リモートセンシングと熱収支計算が一つの有効な方法である。
研究計画:
 衛星リモートセンシングによって南極海の海氷の生成・分布・消滅などの実態を定量的に明らかにするために、海氷判別アルゴリズムを作成する。現在、マイクロ波放射計(SSM/I)輝度温度データを用いて海氷の種類と氷厚を検出するアルゴリズムの提出を準備中である。NOAA AVHRRデータの他に、2003年に豪砕氷船によって行われた国際南極海氷観測(ARISE, 2003)に参加した際に取得した南極現場観測データとの比較を行う。このアルゴリズムによって、海氷の種類と氷厚の空間分布、生成・消滅の様子、そしてその季節・年変動を、既存の海氷アルゴリズムよりも高い精度で明らかにすることができる。
 また、熱収支計算によって大気-海洋-海氷間熱交換を明らかにし、最も熱交換が大きい沿岸ポリニヤ域での海氷生産率・熱塩フラックスのパラメータ化を試みる。これは気候モデルに反映され得る水準をめざす。そして10年以上蓄積されたデータを用いることにより、海氷生産量や高密度水形成の地域差や季節・年変動を明らかにする。これにより、地球温暖化の影響の可能性が考えられる海氷・高密度水の生産量減少について、主要生産域の状況を明らかにすることができる。1990年代における海氷・高密度水生産量の年々変動と地球温暖化との関係を明らかにするために、さらなる解析を行う。


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「海氷生成と融解に伴う大気への二酸化炭素放出・吸収に関する研究」
地球圏科学専攻 物質循環・環境変遷学コース
博士後期課程1年 野村 大樹(指導教官:吉川久幸)

 本研究の最終目的は、海氷生成と融解に伴う大気・海洋間の二酸化炭素(CO2)交換を支配する要因を明らかにし、季節海氷域が炭素循環に果たす役割を評価することである。地球規模の気候をコントロールする要因として、高緯度海域に分布する海氷が果たしている役割は大きい。例えば、海氷の存在はアルベド(太陽光の反射能)を増大させ、日射吸収の大幅な低下を招く。また、大気と海洋の間で断熱材として働き、温暖化を軽減させる効果もあると認識されている。一方、物質循環の観点からは、海氷は単なる大気-海洋間の物質交換の“障壁”として認識されてきた。例えば、海氷が存在すると温室効果気体であるCO2の海洋への放出・吸収が生じないとされてきた。しかし、実際、海氷は、普段我々が目にする淡水氷とは異なり、多孔性の構造を持ち脆いため、ガス透過性が大きいことが、数少ない観測により明らかになりつつある(Gosink et al.,1976; Semiletov et al., 2004)。そこで、著者は、室内実験で海氷の生成・成長を再現し、海氷を通してのCO2交換の基本的なメカニズムを明らかにしてきた(Nomura et al.,2005)。実際の海洋には物理、生物・化学的要因が複雑に入り混じっている。海氷を通してのCO2交換は、大気と海氷中に存在するブライン(高塩分水)の二酸化炭素分圧(pCO2)差、もしくは大気と海氷下海水のpCO2差によって生じる。海氷成長期に海氷中ブラインのpCO2の決定要因は、主にブラインの低温化による濃縮効果(高塩分化)、つまり物理的要因である(Nomura et al.,2005)。一方、海氷融解期は、主に海氷直下及び海氷中ブラインでのアイスアルジー(植物プランクトン)の存在、つまり生物・化学的要因が優先し、生物の光合成・呼吸がブラインのpCO2を支配すると考えられる(Semiletov et al., 2004)。季節海氷域での現場観測においては、海氷中及び海氷下における物理、化学・生物過程が担っているそれぞれのCO2吸収・放出能力を理解し、室内実験で得た基本的なメカニズムを考慮して気体交換を定量評価する必要がある。本研究では以下の項目を実施する。
T.氷上現場観測に用いるCO2交換量測定機器(チャンバー)の作成及び予備実験を行う。
U.砕氷船「そうや」での季節海氷域船舶観測(2月上旬)及びサロマ湖での氷上観測(1月下旬―3月下旬)にて@チャンバー法を用いCO2交換量の測定を行う、A海氷表面温度、気温、湿度、風、長短波放射フラックスの連続観測を行い、海氷の成長環境を知る、Bサンプル(海氷中ブライン、海水、チャンバー内エアー)の採取を行う。
V.炭酸系成分(pH、全炭酸濃度)、溶存気体成分濃度、クロロフィル量の測定を行う。
W.Bで得られた結果解析より物理、化学・生物過程が担っているそれぞれのCO2吸収・放出能力を評価する。
X.U-@、U-A、Wの結果を組み合わせパラメータ化し、衛星データにより各季節海氷域の特徴(海氷分布、氷厚など)を考慮した上で、北極海や南極海の季節海氷域でのCO2交換量を知る。そして、全球における季節海氷域が全球炭素収支に与える影響を評価する。
Y.引き続き室内実験(初期塩分変化など)を行う。


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「古海洋循環復元のためのプロキシー開発および海底堆積物への当該プロキシーの応用」
地球圏科学専攻 地球圏科学コース
博士後期課程1年  重光 雅仁(指導教官:渡辺豊助教授)

【研究目的】
  西部北太平洋における最終氷期から現在(Holocene)にかけての海洋循環様式(つまり、海洋表層の栄養塩循環様式)の変動を復元することを目的とする。
【研究方法】
  珪藻(遺骸)殻中の金属(Ge、Zn等)[eg.,Froelich et al.,1992]及び窒素安定同位体比(δ15N )[eg.,Sigman et al.,1999]は、本研究海域と同様、海洋深層からの湧昇により、海洋表層の栄養塩が維持されている南大洋において、過去、古海洋の栄養塩環境復元のプロキシーとして使用されてきた。したがって南大洋と同様、海洋深層からの湧昇により、海洋表層の栄養塩が維持されている本研究海域においても、これらのプロキシーは海洋表層における栄養塩の状況を反映すると考えられる。しかし過去、これらのプロキシーが堆積物に至るまでの過程に存在する沈降粒子において、どのような挙動を示すのかを検証した例はない。
  そこで、まず現在の西部北太平洋において、これらのプロキシーが海洋表層における栄養塩の状況をどの程度の感度をもって、反映しうるのかを検証する。検証の方法としては、海洋表層における栄養塩の時系列データセットが存在する地点(St.Knot)において、設置されているセジメントトラップに捕集された沈降粒子中のこれらプロキシーを測定し、海水のデータと比較・検討することによる。沈降粒子中のこれらプロキシーの測定は、海洋表層における栄養塩の時系列データセットが存在する平成12年〜平成17年にかけて行い、季節的な感度、経年的な感度の程度を検証する。なお沈降粒子サンプルは既に入手済み。
【研究計画】

  研究計画は、フローに示すとおりであり、各項目の詳細は以下に示すとおりである。
@: 珪藻殻中のGe/Si比、Zn/Si比は海水中の栄養塩情報を記録しているという報告がある[eg.,Floerich et al.,1992]。そこで、海洋表層の栄養塩時系列データセットがある地点における沈降粒子中のこれらプロキシーを測定し、海水データとの比較・検証を行い、そのプロキシーとしての有用性を調べる。特にGe/Si比はけい酸塩濃度の指標になる可能性があるため重要である。
A: 沈降粒子中のバルク有機物の窒素安定同位体比(δ15N)は、大局的には海洋表層の硝酸塩濃度と生物生産の大きさにより決まっているものの、年代の古い粒子等の横からの輸送や、沈降過程における分解様式の違い等により影響されるため、バルク有機物の同位体比の情報から、海洋表層の栄養塩状況を推察することは難しい。そこで、分解を受けづらい珪藻殻中残存有機物のδ15Nが海洋表層の栄養塩状況のプロキシーの候補と考え、これの海洋表層栄養塩状況への応答およびバルク有機物δ15Nとの比較検討を行い、そのプロキシーとしての有用性を検証する。
B: 本研究海域近傍でのセジメントトラップ観測結果より、沈降粒子中のバルク有機物δ15NとPONフラックスから海洋表層の硝酸塩濃度を見積もるアルゴリズムを提案した先行研究がある(Nakatsuka et al.,1997)。この研究では、バルク有機物の同位体比を使用したため、古い粒子の混入があり深層トラップのデータは使用できなかった。珪藻殻中残存有機物δ15Nは、分解の影響がきわめて少ないため、この同位体比を使用すれば、深層トラップのデータ、しいては堆積物のデータからも海洋表層の硝酸濃度を見積もれる可能性がある。当データを用いて、硝酸塩濃度復元の新たなアルゴリズムの提案を試みる。
C: @〜Bにおいて、検証したプロキシーを海底堆積物に応用することにより、今まで未解明である最終氷期から現在にかけての海洋循環様式の推移について明らかにする。


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「植物プランクトンの細胞死と地球環境変化」
環境起学専攻 先駆コース 
博士後期課程1年 早川真紀(指導教官:鈴木光次助教授)

[研究背景]
海洋植物プランクトンによる全海洋での年間の炭素固定量(純基礎生産)は約 45 ~ 57 x 1015 g Cと見積もられており、この値は陸上植物の基礎生産とほぼ同等である(Falkowski et al., 2003)。すなわち、植物プランクトンは、海洋の主要な基礎生産者であり、海洋の生態系や物質循環過程において、極めて重要な役割を果たしている。近年、海洋表層の植物プランクトンの除去過程の1つとして、海洋表層での植物プランクトンの細胞死の重要性が指摘されるようになってきた(Bidle and Falkowski, 2004)。しかし、生物生産の高い北西太平洋亜寒帯域における植物プランクトンの細胞死に関する知見は過去に全く報告されていなかった。さらに、近年、北西太平洋亜寒帯域の植物プランクトンの現存量や純群集生産が年々低下していることが示唆されている(Ono et al., 2002; Chiba et al., 2004; Miller et al., 2004) 。このため、下記の実験を行う。
[研究目的・内容]
1.春季ブルーム時における親潮域および黒潮・親潮混合域における植物プランクトンの細胞死(D1)
親潮域では、春季に植物プランクトンブルームが起きることが知られている(Saito et al., 2002)が、ブルームの盛衰を支配する因子については未だ完全に理解されていない。また、ブルームを形成する種の変化が年々起きていることが指摘されている(Chiba et al., 2004)。一方、北海においては、植物プランクトンブルームの減衰に対して、細胞死が75 %を寄与していたという報告もある(Brussaard et al., 1995)ため、親潮および黒潮・親潮混合域において、春季ブルーム時の植物プランクトンの細胞生存率を測定し、海洋生態系や海洋物質循環における植物プランクトンの細胞死の重要性を定量的に評価する。
2.室内培養実験(D1とD2)
北西太平洋亜寒帯域(親潮域)で春季ブルームを形成する珪藻Thalassiosira nordenskioeldii、全ゲノム解読が終了した珪藻Thalassiosira pseudonana、及び海洋の炭素・硫黄循環に大きな影響を及ぼすと考えられている円石藻Emiliania huxleyiを材料に、地球環境変化によって起こると予測される海水温上昇、海水のpH低下、栄養塩濃度減少に対する植物プランクトンへの影響を、特に細胞死に着目して、評価する。なお、T. nordenskioeldiiは栄養塩環境が悪化すると休眠胞子を形成し、生き延びる戦略を持っていることを修士課程での研究で確認したため、休眠胞子を形成しない珪藻T. pseudonanaを用いて実験を行い、生存戦略による細胞生存率等の違いについて解明する。本研究では、細胞生物学や分子生物学の分野で開発された細胞死の検出方法(カスパーゼ活性測定法やDNA断片化測定法等)も導入し、現場実験では取得することが出来ない、より詳細な植物プランクトンの細胞死の機構を明らかにする。
3.研究発表(D1〜D3)
 修士過程で行った研究と上記の研究に関し、国内外の学会で研究発表を行う。また、論文を作成し、国際誌に投稿する。博士後期課程3年次に博士論文を作成する。


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「海洋性バクテリアにおける紫外線の影響評価」
環境起学専攻/広域環境劣化コース
博士課程1年 片岡剛文(指導教官:東正剛)

<背景及び目的>
 外洋域の有機物の大半を占める溶存態有機物は細菌によって取り込まれ、繊毛虫や鞭毛虫などの微生物を経て高次消費者へと輸送されている。この細菌に始まるエネルギーの流れを微生物ループと呼び、外洋域での物質循環を考える際に無視できないバイオマスと考えられている。また、オゾン層の破壊により生物に有害な紫外線(UVB)が増加し、細菌群集の増殖速度や細胞成長速度が阻害されるという報告が数多くされている。しかし、長波長領域の紫外線(UVA)や遮光下においてこれらのDNA損傷は修復されることも知られている。つまり、細菌にはUVB強度の強い昼間にDNA損傷が蓄積され、UVA強度がUVBに勝る夕方と光のない夜間に修復されている。一日の間に蓄積されるDNA損傷の量は太陽光中のUVBの強度や日照時間によって異なることになるので、一日の周期で完全に修復されなければ翌日にDNA損傷が残る。
 環境中の細菌は分離することが困難なので、DNA損傷や細胞成長速度は細菌群集全体の量としてしか定量されなかった。また、これまではDNA損傷の蓄積量についての研究が多く修復過程についての研究は少ない。そこで、本研究ではDNA修復の過程に着目してDNA損傷と修復に要する時間の関係を種レベルで評価することを野外調査と室内実験にて試みる。
<研究計画>
1)野外調査
 野外調査では光環境の異なる調査海域において24時間以上、数時間おきに表層の海水を採集する。この内の何回かは有光層中での鉛直サンプリングも行う。光の計測は空中のUVA,UVB,PARを連続的に、水中の紫外線とPARを有光層のサンプリングと同時に行う。これらのサンプルの光条件に伴ったDNA損傷の定量的変化を計測する。また、同じサンプルを用いてPCR-DGGE法を行い細菌の種組成の変化を定性的に追跡する。更に、核酸疑似物質を取り込ませたDNAを抗原として、細胞免疫学的手法を用いて新たに合成したゲノムDNAを選出することができるので、PCR-DGGE法と合わせて行うことで活性を持った種の時系列変化を明らかにする。
 調査は沿岸域から外洋域を含んだ観測定線で行い、観測点ごとに表面海水の種構成、活性量、DNA損傷量を計測することで、同時期における水平的分布を明らかにする。更に、季節ごとに同様のサンプリングを行い、それらを比較することで季節的な変動を明らかにしたい。
2)室内実験
 室内実験では環境中からの単離株を用いて行う。擬似的な現場環境を作成し光強度と波長を制御した実験系で蓄積したDNA損傷量と修復の時間経過を明らかにする。太陽光を模した人工光源と特定の波長をカットするフィルターを用いることで光環境(紫外線の波長や照射強度)を制御し、蓄積したDNA損傷量を細胞免疫学的手法で定量する。これらを暗条件下で培養してDNA損傷量とBrdU取り込み量を数十分おき定量する。以上のことから現場に存在する細菌の紫外線に対する感受性と、修復に要する時間や修復不可能になるDNA損傷量といった紫外線に対する潜在能力と修復過程を明らかにする。
 2005年度は、
1) 5月の野外調査時の海水から細菌を単離培養し、種を同定すること。
2) 9月以降の野外調査
を予定している。


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「生物多様性に注目した森林の復元機構と再生事業手法の検討」
生物圏科学専攻/植物生態学コース
博士後期課程1年 庄山紀久子(指導教員:甲山隆司)

1.研究の背景と目的
  森林のもつ生物多様性保持や環境保全などの生態的機能に対しては高く評価されているが、開発による天然林の伐採および人工林面積の増加による林相の単一化や荒廃によりその機能低下が危惧されている。このことから、人為的インパクトを受けて本来の原生森林植生が破壊された地域において、生態的機能の高い多様性ある森林の再生と保全のための対策は急務となっている。
  しかし、複雑な森林生態系の復元には種の生態特性と共に、その他種々の動的な環境要因が関わる。したがって、その手法は常に実験的プロセスを含むものとなるが、いまだに明確な指針や評価基準が確立されておらず、技術的に多くの課題を抱えている。
  こうした背景から、本研究では開拓後放棄された跡地である草地および人工造林地など、森林としての生態的機能の低下した環境を対象に、多様性ある森林の復元機構を解明し、復元における問題点と改善策を示すことを目的とする。
2. 研究の方法
  本研究では、北海道知床半島斜里町岩尾別の開拓跡地における森林復元の取り組みを主な研究対象とする。開拓という人為的インパクトにより本来分布していた原生的な森林植生が失われた土地は、離農により放棄され牧草地や二次的草原、人工林などの植生に変化した。このような開拓跡地における原生森林の復元には、(1) 早期に一次的な森林を造成することにより主に物理的な環境の改善を図ること、あるいは (2) 周辺に残存する母樹林や土壌シードバンクからの天然更新を促進させる手法がある。しかし、多様化施業においては更新に対する阻害要因の影響もあり、異なった環境下ではその程度も異なる。
  本研究では、開拓跡地の植生履歴を把握し、植生の変化パターンを明らかにしたうえで、更新に影響する要因を抽出し、多様化の阻害要因について検証する。また、樹種導入による一次林造成の生育状況と多様化施業による森林の種構成および構造の変化について、対照区との比較により調査解析し、復元手法の検証を行う。
2005年度 研究目標
1) 開拓地における土地利用と植生の変遷
研究対象地は、1910年代に開拓が始まり1966年以降は離農により放棄され、その後一部は植林され近年は森林再生事業が行われている。入植以降の植生の変遷図を作成し、土地利用との関係について考察するとともに、植生変化の定量的評価を行う。
2) 森林再生事業の検証
現在の開拓跡地の植生状況を群集生態学的手法により調査し、過去の調査資料との比較から種組成の変化を明らかにする。

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「気候変動が虫媒花植物の送粉共生系に及ぼす影響予測」
生物圏科学専攻 生物多様性コース
博士後期課程1年 井田祟(指導教員:工藤岳)

研究計画
  近年の人間活動による地球温暖化あるいは気候変動は、生物環境に影響を与え,生物多様性の減少を引き起こしている。生物多様性の減少は、生態系を形成する生物間の様々な共生系の崩壊により加速されると考えられ、その影響予測には多様な共生系を生み出すプロセスの解明が不可欠である。本研究では、陸域生態系において多様な進化を遂げている維管束植物の繁殖システムと送粉共生系の関係に着目し、花粉媒介昆虫の行動に関連した植物の繁殖戦略形成プロセスの解明と送粉共生系の環境変動に対する感受性の解明を目的とする。特に、地球温暖化による気候変動が、植物の繁殖成功に与える影響について、植物と花粉媒介昆虫の相互作用の観点から予測を試みる。
  送粉共生系の多様性維持機構を解明するには、群集構成植物と花粉媒介昆虫の相互関係網を理解する必要がある。群集内に共存する植物は、各々が特徴的な繁殖戦略を持っており、それに結びついた送粉共生関係を持っていると予想される。冷温帯の代表的な植生である落葉広葉樹林における送粉昆虫相は、特定植物種を専攻訪花するハナバチ類(スペシャリスト)と、ハエ・ハナアブ類に代表される多様な植物に訪花する昆虫類(ジェネラリスト)に大別される。この典型的な2つのタイプの違いに着目し、具体的に以下の点について研究する。また、同時に多様な種が共存する海浜地域などにおける調査を実施することにより、バイオームの異なる植物群集間における気候変動の影響の差異を明らかにすることを目的とする。
・ポリネーションタイプに応じた植物の交配様式の解明
  植物の交配様式の把握、及び花粉媒介昆虫のタイプならびに行動パターンによる送粉者としての評価を行う。また、植物の繁殖成功の程度(量的:結実成功による評価、質的:自殖率による評価)とポリネーションタイプに関連した繁殖戦略の把握により、花粉媒介者のタイプに応じた交配様式、及び自殖による繁殖の補償の程度を検出する。
・花粉媒介昆虫の変動が植物の繁殖成功に及ぼす影響の評価
  花粉媒介昆虫の出現頻度の流動性が植物の繁殖成功に影響する程度を、生育場所間変動と年変動に応じた花粉制限の程度と自殖率の変化により解明する。植物と花粉媒介昆虫の出現時期の不一致は、スペシャリストタイプの植物に重大な損失をもたらすが、多様な花粉媒介昆虫と緩やかな関係を持つジェネラリストタイプには影響が少ないかもしれない。自殖率の変化の把握により、ジェネラリストタイプの種子生産の安定性が多様な花粉媒介昆虫の存在により維持されているのか、自殖による補償作用により維持されているのかを区別する。
・送粉共生系の環境変動に対する感受性の評価
  スペシャリストとの送粉共生系よりジェネラリストとの送粉共生系の方が変動環境下では安定している、という作業仮説の検証を行う。群集内におけるポリネーションシンドロームと交配様式の関係から、変動環境下における各送粉共生系の安定性を予測する理論モデルを構築し、場所間変動や年変動を加味したシミュレーションにより、気候変動が送粉共生系に及ぼす影響の予測を試みるとともに、バイオームの異なる群集を比較することにより、生物に与える一般的な影響と、バイオームごとの特異的な影響の検出を試みる。


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「糞を用いたアムールヒョウとシベリアトラの遺伝的解析」
環境起学専攻 起学研究コース
博士後期過程一年 杉本 太郎(指導教官:東正剛)

研究背景及び目的
   ロシア極東の沿海州南部にのみ生息する絶滅危惧種であるアムールヒョウPanthera pardus orientalisは、足跡及び自動撮影調査により、30頭前後生息しているといわれている。この地域には、同じく絶滅危惧種であるシベリアトラPanthera tigris altaicaも生息している。生息域は、アムールヒョウに比べて遥かに大きく、沿海州及びハバロフスク州南部に広がり、その個体数は400頭前後といわれている。
現在、この二種が生息するロシア極東において、深刻な生息地破壊が進行している。大規模な森林伐採が盛んに行われており、また度々発生する山火事による影響は極めて大きい。沿海州にはいくつか自然保護区が存在しているが、いずれも点在しており、鉄道や幹線道路による生息地の分断化も問題となっている。このような生息地を取り巻く環境の悪化は、絶滅危惧種であるこの二種の個体数の減少を招いている。現在、WCS (Wildlife Conservation Society)を中心として、動物園個体をもとにしたアムールヒョウの第二の個体群を構築する計画が議論されているが、この計画の実施のためにも、現存する個体群の遺伝的構造を明らかにすることは重要である。また、これら希少種の遺伝的構造を明らかにすることは、生物多様性の観点からも極めて重要である。
 このような希少種に対する遺伝学的解析には、対象動物に直接触れることなくDNAを得ることができる糞が有効である。本研究では、アムールヒョウとシベリアトラの個体群保全を目指し、糞から抽出したDNAを用いて、その包括的な遺伝的解析を目的とする。
研究計画
  修士課程の研究において、糞の種判定及び性判定方法を確立した。2002〜03の冬季にアムールヒョウの生息地において採取された糞を用いて、以下のことを行う。
(1) 個体識別法の確立
  いくつかのDNA抽出方法を試し、より抽出効率のよい方法を選択する。すでにスマトラトラやイエネコで開発されているマイクロサテライトプライマーの中から使用する遺伝子座を選択した後、その遺伝子座を増幅するプライマーを用いて糞の遺伝子型を決定
(2) 遺伝的多様度の測定
  Control regionの一部を増幅する特異的プライマーを開発し、塩基配列を決定。マイクロサテライト分析及びControl regionなどの塩基配列から、遺伝的多様度を測定
(3) 個体群サイズの推定
  すべての糞の遺伝子型を決定し、同一遺伝子型の糞の出現頻度からMark-Recapture methodを用いて個体群サイズの推定を行う

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「環境変化に応じたミジンコの形態変化の分子機構」
生物圏科学専攻 生態遺伝学コース
博士課程1年 今井 眞木(指導教官:三浦徹)

研究目的
  ミジンコにおいて捕食者に誘導される表現型多型の発生制御機構を明らかにすることを目的として環境シグナルを受けた個体の生理的変化から、形態形成に至る発生学的過程を詳細に解析する。特に、形態誘導の分子発生機構の解明に主眼を置く。
研究内容
  研究には、世界各地に広く分布し飼育しやすく、いまゲノム解析や形態変化に関する生態学的な研究が進んでいるミジンコ(Daphnia pulex)を主として用いる。
1.形態変化における組織形態学的研究
  形態および組織変化過程の詳細な観察を行う。ミジンコの後頭部突起や尖頭は、上皮細胞と各細胞サイズの増大の結果と考えられているものの、組織形態学、発生学的な報告は非常に少ない。形態変化時期や形成過程を組織・細胞レベルで明らかにするために、カイロモン曝露個体の卵から胚発生、そして防御形態をもつまでの過程において、外部形態および内部形態または組織変化過程を形態計測・走査電子顕微鏡による観察や組織切片を作成することにより、詳細に観察する。表面構造および、尖頭や突起の内部構造を明らかにする。
2.防御形態形成に関わる候補遺伝子の探索
  1)における形態変化過程、時期の詳細な観察から、通常個体と防御形態形成個体とで発生学的差異が生じるステージを特定する。それらの時期における特異的に発現する遺伝子発現を、Differential display法を用いて比較し、発生段階または形態特異的遺伝子の同定を行う。また、これと平行して、ショウジョウバエやアルテミアなどで知られている形態形成に重要な役割をする遺伝子(wg,dpp,hh,Dllなど)をミジンコでクローニングする。
3.発現動態の解析
  2)によって、形態形成時に特異的に発現している候補遺伝子の探索を行い、これらの遺伝子の発現量および発現の局在を解析する。具体的には、Real-time定量PCRを用いて、成長過程における発現量の変化を調べる。また、in situハイブリダイゼーションによって、発現部位を特定する。
4. 幼若ホルモンで形態誘導を試みる
  ミジンコ類は単為生殖を行っているが環境の悪化(高密度、短日、餌資源不足など)により雄を生じ両性生殖を行うことが知られている。最近では、昆虫や甲殻類またオオミジンコで幼若ホルモンや幼若ホルモン様物質が性決定に関連しているという報告がある。幼若ホルモンは、昆虫ではシロアリで兵隊カーストを誘導することや、コオロギの単翅・長翅型の決定機構に用いられていることが知られている。このことから甲殻類やミジンコの形態変化の誘導への関与が推測されるため幼若ホルモンや幼若ホルモン様物質を用いて形態変化誘導を試みる。誘導されれば形態形成への内分泌系の関与が示唆される。具体的にはザリガニなどの甲殻類でホルモンとして確立されているファルネセン酸メチルなどを用いる。これらのホルモンで上記の遺伝子の発現が誘導または抑制されるかを解析する。どのような生理条件が形態形成に影響を与えるか生理学的な視点からも形態形成メカニズムの解明も試みる。
5.系統間での防御形態形成様式の比較
  フサカ物質によく反応する系統はフサカの多い湖沼に生息している傾向がある。また同系統であっても形態変化度合いの異なるものが存在する。また野外からこれらの系統を採集し発現動態の解析結果と捕食者密度と比較することで、防御形態形成機構の進化について考察する。
  以上の結果より、捕食者カイロモンによって誘導される形態変化メカニズムを組織学的、遺伝学的観点から考察を行う。ミジンコの生活史戦略と密接に関連した形態変化の分子機構を探ることで、環境要因と表現型発現との相互作用が、水界生態系の多様性を支える上で果たした役割についても理解を深めることを目標として研究を進めていきたい。
年次計画
(1、2年目)
  ミジンコおよび、フサカの飼育系を確立する。また、フサカカイロモンを用いて確実にミジンコの形態変化個体を誘導できるように誘導系を確立する。
  次に捕食者による形態変化における組織形態改変の過程を、走査電子顕微鏡およびパラフィン切片を作成し観察・記録するとともに、顕著な形態変化が生じる時期を特定する。またDifferential Display法によって形態変化に特異的な遺伝子の検索や特異的遺伝子の候補について再現性を確認し、発現量・発現部位・発現時期の解析を行う。平行して既知の形態形成因子のクローニングを行い、発現に差のある候補を特定する。幼若ホルモンなどによる、形態変化の人為的誘導の実験系の開発を試み、さらにその系を用い、上記で得られた遺伝子群の発現動態を解析する。
(3年目)
  1年目に引き続き、形態変化時に特異的に発現する遺伝子の発現解析を精力的に行う。
  得られた結果を総合し、カイロモン受容から突起構造形成に至る発生プロセス、発現パターンのプロファイルに伴う遺伝子を整理する。得られた遺伝子のうち、重要な機能を果たすと考えられるものの機能解析を、RNAiなどの方法を用いて試みる。以上得られた結果について分子発生学的・生態発生学的観点から考察を行い、国際誌に投稿し博士論文にまとめる。将来的には種間や系統間で形態形成因子や発現動態を比較し、重要な遺伝子の分子進化に関する考察を行うことで、形態の多様性や環境応答の進化過程を考察する。


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「カーボンナノチューブを用いた環境修復技術の開発」
環境物質科学専攻 生体物質科学コース
博士課程1年 曽根弘昭(指導教官 古月文志 助教授)

  従来の日本は工業技術の発達と共に、水質、大気および土壌を汚染していた。政府は汚染を食い止めるために、環境基本法、水質汚濁防止法、大気汚染防止法および土壌汚染対策法を制定し、環境への負荷が最低限に抑えられつつある。更に近年においては、過去に汚染された環境を修復する手法が注目されている。
 そこで、水質および土壌の汚染物質除去方法を開発するための研究を行う。具体的な手法としては、カーボンナノチューブを使用する。カーボンナノチューブには活性炭同様に、疎水性の有機物を強固に吸着させることが可能である。しかしながら、カーボンナノチューブの表面積の大きさ以外の活性炭に対する優位性は、単層及び多層構造をとる点にあり、本研究では、多層カーボンナノチューブを用いる。なぜならば、多層カーボンナノチューブは六員環で組み合わされたシートを多層に円筒状に巻いた構造を取ることによって、強度が強く、化学的に安定であると共に、有機物に対して高い捕集効果を持つ事が知られているからである。更に、あらかじめキレート能を持つ有機化合物を吸着させておけば、水中の有害な有機物質を捕集すると共に、重金属類をも捕集することが期待できる。それ故、事業所で問題になりがちな、COD、BODおよびノルマルヘキサン抽出物質の値をも同時に減少させることも期待できる。これを、高分子膜に包むことにより、サイズ排除能と吸着選択性を持たせつつ、実用化を目指す。この手法をベースとして、水系の環境修復と環境汚染物質排出量削減方法を考案する。
 本研究は、Cd、Pb、Fe、VOCs、COD、BODおよびノルマルヘキサン抽出物質を減少させる手法を考案する。何故ならば、CdおよびPbには環境基準および排水基準を超える水は滅多にないが、鉄鋼業などの工場系排水のみならず、土壌由来で地下水に浸出して汚染した場合、深刻な問題になる。飲料水で問題になるFeは、古い配管を用いた水道水から検出される。また、VOCsは飲料水殺菌用の次亜塩素酸由来、事業所での洗浄もしくは脱脂を起因として排出される塩素化合物と石油精製やこれを使用する化学工場排水に含まれる芳香族が基準値を超えて問題になる事がある。また、COD、BODおよびノルマルヘキサン抽出物質は飲食および給油業を筆頭に、基準値を超える事がしばしばある。これらの問題を解決するために、以下の計画を立てた。
まず、吸着素材の形状、膜を形成する高分子および重金属を捕集するキレート試薬を選定し、重金属を選択的に除去する素材の作成を試みる。この膜を作成することによって、特に環境中で問題になりがちなCdおよびPbを中心とした重金属類の除去を行う。同時に、膜内にカーボンナノチューブを分散させ、VOCsを含む有害有機化合物除去を可能とする素材の開発を行う。この二つの手法を組み合わせる事により、重金属類の選択的除去と有害有機化合物除去という、2種類の有害物質類を除去することが可能な新規環境修復カーボンナノチューブ素材の開発を行う。

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`Title: Construction of alkalic tephrochronogogical framework in the Japan/East Sea for testing the synchronization of abrupt changes during the Late Quaternary`
Division: Division of Environmental Science Creation
Lim, Chungwan (Mentor Professor: Kazuhiro Toyoda)

  The importance of establishing the precise rate and mode of climate response in different parts of the world cannot be over-emphasized in global paleoclimate. Tephrochronology provides time-parallel marker horizons that allow precise correlation between environmental and climatic records of the past. But the detection of cryptotephra horizons (tephra horizons that are invisible to the naked eye) for addressing abrupt climatic change has never been examined until quite recently. Recently, it is demonstrated that instrumental neutron activation analysis (INAA) is useful for the supersensitive and effective detection of alkalic tephras, as well as the identification of the source volcanoes. The tephra framework should be tougher based on the detection and the identification of some unknown alkalic explosive volcanism that provides many distal tephra layers to the Japan/East Sea and the Japan island arc.
  Therefore, I plan to investigate many piston core samples in conjunction with the Ocean Research Institute at the University of Tokyo of Japan and National Institute of advanced Industrial Science and Technology (AIST) in Japan and Korea Institute of Geoscience and Mineral Resources in Korea. The objective of this study is the construction of alkalic tephrochronogogical framework by INAA performance throughout many cores from Japan/East Sea. This research on the alkaline cryptotephras, which would be found to occur in and around Japan and Korea, will make it possible to find further correlation and to identify palaeo-environmental record (palaeoceanographic, terrestrial, sea-level and geomorphic) of tephra events. The information should be utilized to estimate the development of new methodology and to capable of coaxing small amounts from the most obdurate samples, so that time frames and site-linkage techniques that were used in past environmental studies are improved in terms of future environmental studies in Earth.


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