「ニホンヤマネの種内多型の維持機構の解明」



生態環境科学専攻 生態遺伝学講座
博士後期課程1年 安田俊平(指導教官:鈴木仁) 


 ニホンヤマネ(Glirulus japonicus)は、日本の本州・四国・九州・隠岐に生息する日本固有の小型哺乳類である。齧歯目(Rodentia)ヤマネ科(Gliridae)に属し、1属1種と系統的にも古く、日本産の哺乳類の中で最古参の種とも言われている。
 
 本種は、古くから1種とされており、亜種等の細かい分類はなされていなかったが、近年になって、毛の色が東西で異なること(湊、私信)や、ミトコンドリアDNA解析で最低6集団、核DNA解析で最低4集団に分けられ、それぞれの系統が非常に古いことが確認された(Suzuki et al. 1997; Yasuda et al. unpublished)。特に、ミトコンドリアDNAには、集団間で最大約10%、人間とチンパンジーとの距離に匹敵するほどの変異が蓄積しており、同一種の中で見られる遺伝的変異の量としては他の小型哺乳類と比較しても非常に大きい事が示された。また、核DNAからは、それぞれの集団の内部にも、また非常に多様な変異が存在していることが示された。

 それぞれの集団間や集団内の多型は歴史的要因を理解し、近年の人為的な分断化の影響を図ることは、希少種である本種を保全する上で、また、天然記念物指定を受けている本種を象徴種として扱い、社会的な環境保全意識を高める上でも、非常に有意義なことであると考えられる。
そこで、本研究では、ミトコンドリア・核DNA解析を行うと同時に、頭骨の計測による形態学的な比較を行い、系統地理的観点から列島のヤマネのグルーピングを行い、集団構造の形成維持機構を解明すると同時に、現在開発中のマイクロサテライトDNAマーカーを用い、集団内多型や集団間の遺伝的交流を定量化し、ESU(Evolutionary Significant Unit)の確立を目的とする。

 この目的を達成するために、本年度は、
(1)現在保有しているヤマネDNA標本を網羅的にシーケンスし、種内系統の解明を行い、
(2)マイクロサテライトマーカーの開発を完了させ、
(3)博物館標本等から可能な限り標本を傷つけることなくDNAサンプルを回収するために、体毛等からDNAを抽出・解析するためのプロトコルの作成、を目標とする。





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