「植物の生活形にもとづいた成長パターン・個葉特性の比較と多種共存機構 - 熱帯性山地林から針交混交林まで -」



生態環境科学専攻 地域生態系学講座
博士後期過程3年 塩寺さとみ(指導教官:甲山隆司)


研究目的

 低緯度地帯にみられる熱帯雨林は, 一年を通して比較的高温多湿で太陽からの光の放射量も大きく, 多くの植物種が同所的に生育しているという点で特徴づけられる. そこではまた, 植物の生活形も多様である. それぞれが環境に適応した独自の生活戦略をもっていると考えられ, 生理生態学的な観点から過去, 多くの研究がなされてきた. どのような要因が, 多くの植物種が環境を共有し, 同所的に生育することを可能にしているのだろうか. これまでに, 生態学的な機能分化の果たす役割を群集レベルで議論した例はあまりみられない. 個々の種特性は植物が長い間その環境に適応してきた結果であり, 熱帯雨林における多種共存機構のメカニズムを解明し, その保全を策定していく上で重要である. そこで, 本研究では, インドネシア・西ジャワ州 Halimun 山(標高 1100?1200 m)の熱帯性山地林において, 植物の生活形にもとづいた成長パターン・個葉特性との比較から, 多種共存機構の解明をめざす. 調査対象は雲霧林帯にあり, 乾期の乾燥ストレスが低く, また, 他山地林域に比べて種の多様性が高いため, 多種を用いた研究に適している. さらに, 熱帯林とは対照的な環境にある冷温帯林に属する北大苫小牧研究林との間で, 樹木の個葉の特性や樹形の比較を行うことにより, 熱帯林から針広葉樹林までを扱い, 樹木の多様性と環境への適応について広く論じていく.


2004年度 研究目標

1) 熱帯山地林での植物の成長パターンと個葉特性
 林冠閉鎖環境において, 様々な生活形(シダ植物, 草本, 低木, 亜高木・高木稚樹, つる植物)に属する植物, 約80種を調査対象とし, 一ヶ月間隔で追跡調査を行うことにより, フェノロジーと成長特性を捕らえる. これと平行して同種個体から個葉を採集し, SLA, C/N比, ルビスコ・クロロフィル含量, 防御物質(フェノール・タンニンなど)についての分析を行ない, 成長パターンと個葉の質とのtrade offに生活形による違いがみられるのか, また, そのような違いが何に起因しているのかを明らかする. これによって, 比較的均一な光環境において, 植物がどのようにして同所的な生育を可能としているのかを考察する. さらに, 比較研究のために, 明るい場所で生育している植物を約 20 種程度選択し, 同様の調査を行なう.

2) 熱帯性山地林と北方性針広混交林での樹木の個葉特性・樹形の比較
 熱帯性の常緑樹と冷温帯性の落葉広葉樹とでは, 一年間で樹木が葉を維持している期間が大きく異なっており, このことから, 全体としてつける葉の量、光合成効率、さらにはその葉を維持するための樹木の形状にまで影響があたえられている可能性がある. 実生?稚樹サイズの樹木について, 成長に伴った個葉サイズの変化と樹形形成過程との比較を行い, 冷温帯性落葉広葉樹と熱帯性常緑樹との間の樹形成過程の違いから環境適応の機構を考察していく.




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