「対流圏における水蒸気輸送の地域的特性と長期変動に関する研究」



大気海洋圏環境科学専攻 気候モデリング講座
博士後期課程3年 大島和裕(指導教官:山崎孝治)


 水は水圏,地圏,大気圏を繋ぐ物質であり,生態系の変化や維持とも密接に関わっている。そのため,水循環は気候変動を研究する上で極めて重要なファクターである。その中でも,地球温暖化に伴った降水量の変化を予測することは興味深い研究テーマであり,近年GCMを用いた予測がなされている。その結果,温暖化に伴って降水が地域的に変化すると推定されている。また観測データに基づいて北極域の河川流出量が増加しているとする報告もある。これらの結果は,温暖化や長期変動によって水蒸気輸送が変化した結果であると考えられる。また,水蒸気輸送はENSO,北極振動(AO),南極振動(AAO),モンスーンなどさまざまな時間スケールの現象と関連しており,これらの地域的特性やその影響を調べることは重要である。台風や温帯低気圧によりどのくらいの水蒸気を運んでいるかについても興味深い。そのために,GCMのシミュレーションではなく,現時点までに使用可能な観測に基づくデータを用いて水循環を理解する必要がある。そこで本研究は全球規模の水循環を理解するために,対流圏における水蒸気輸送の地域的特性と地球温暖化による影響を解明することを目的とする。
以下に具体的な研究内容を示す。

(1)全球的な水蒸気輸送の時間スケール,鉛直構造等についての地域的な特性を調べる。

(2)ENSO,AO,AAO,モンスーン等が水蒸気輸送に,どの地域で,どの程度,寄与しているのか見積もる。

(3)(2)に関連して,可降水量,降水,水蒸気輸送の長期的な変動について調べる。

(4)以上3つの解析を元に,各地域における水循環のメカニズムと温暖化による影響について検討する。

 これらの解析については水蒸気輸送を中心に着目して客観解析データを用いる。しかし,広域の水循環を研究する上では,水蒸気量,降水量,蒸発量と言った物理量ついての信頼性を検証する必要がある。そこで衛星観測に基づく可降水量,降水データと比較することによって客観解析データによる解析の妥当性を評価する。





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