「南極海における海洋循環の数値的研究」



大気海洋圏環境科学専攻 極域大気海洋学講座
博士後期課程1年 草原和弥 (指導教官:大島慶一郎)


はじめに
二酸化炭素排出による地球温暖化、フロンによるオゾン層破壊、開発による森林破壊など環境問題が現在、世界中でクローズアップされてきている。これらはそれぞれ単独の問題ではなく生態系ヘの影響に代表されるように様々なプロセスが複雑に絡みあっており、その環境への影響を回避・低減していくためには非生物地球圏を含めた地球全体をシステムとして理解していく必要がある。
そのシステムを理解していく上で寒冷海域というのは海氷などが存在することによって地球に入射する太陽エネルギーを大きく変化させること、大気によって冷却され生成された重い海水は世界をめぐる深層循環コンベアベルトの駆動源であること、生物生産性が高いために二酸化炭素をより多く吸収する海域であることなどから特にインパクトを持つ要素であると言える。


背景
南極海は、唯一世界の三大洋(太平洋・大西洋・インド洋)と直接連結した海域であり、また南極底層水の形成域という点において気候変動および海洋大循環に大きな影響をあたえる重要な海域である。大洋が接合していることによる物質の交換・輸送および移動は生物・化学的な立場からみても興味深い海域である。南極海における海洋循環は熱塩循環と風成循環に支配され、その物理は海底地形・海氷の存在に強く影響されると考えられる。南極海周囲をとりまく南極周極流についてはこれまでにも多くの理論的・観測的研究がなされている。しかし、南極海においては、観測の難しさからデータ数が少ないため、海洋循環についてはよくわかっていない。


これまでの研究
修士課程では二層モデルを用いて南極海における海洋循環の形成メカニズムについて研究を行った。南極海の海盆下層に形成される低気圧性(時計回り)循環は、コリオリパラメータを水深で割ったGeostrophic Contourが閉じていること、海盆全体に負の風応力カールが作用することの二つの要素によって形成されることがわかった。また、昭和基地における10日〜100日周期の潮位変動は岸沿いに西に伝播する内部ケルビン波によっておおよそ説明できることがわかった。


研究計画
一年目
南極振動といわれる地球規模的な気圧変動パターンがある。また南極海は周極的な地理条件を備えていることからそのような大気圧場の外力が加わったときの海洋循環の応答について調べる。

二年目
二層モデルによって海盆下層に形成された低気圧性循環場がより現実的な三次元モデルにおいて検証する。この下層の循環場に関する研究は気候変動(地球温暖化)と深い関係がある南極底層水が下層に沈み込んだ後どのように循環するかという点からも重要なテーマである。

三年目
修士課程および博士課程1・2年目において注目した南極海の海洋循環のメカニズムを総合的にすることを目指す。また、海氷・大気との相互作用についてもその海洋へのインパクトを定量・定性的に考察する。




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