「半導体ナノクラスターを用いた環境汚染物質の光化学センシング」



物質環境科学専攻 分子機能講座
博士後期課程1年 平谷卓之(指導教官:小西克明)


【背景と目的】化学センサーは、その分子構造内に外部物質を認識・捕捉するサイトを有し、分子間相互作用に誘発される化学構造・物性の変化を利用して、単に混合するだけで簡便に選択的な計測を行うことができる分析ツールである。近年、微量環境汚染物質の精密計測への関心の高まりとともに、社会のニーズに対応した様々な化学センサーの開発が要求されているが、ある特定の物質を高感度かつ選択的にセンシングできるシステムの成功例はそれほど多いといえない。本研究では、発光性の半導体微粒子をベースに、外部物質との複合体形成による発光特性の変化を利用して、環境汚染物質をターゲットとしたセンシング材料をデザインすることを目的としている。



【これまでの研究経過・計画】ZnS, CdSなどの微粒子は半導体的性質を有し、それに基づく発光能や光触媒としてのポテンシャルが注目されている。修士課程の研究では、当初これら微粒子の分子モデル(クラスター)を構築し、その光触媒活性と構造の相関を調べることを目的としたが、その過程で偶然にも、アンモニウムカチオンがクラスター表面の有機置換基との分子間相互作用を介して、周辺に集積化することを見いだした。興味深いことに、この集積化はクラスターの発光特性に著しい変化を引き起こすことがわかってきた。

 本研究ではこの結果を基盤に、『環境汚染をひきおこすとされているカチオン種(例えば合成界面活性剤、Cr6+, Cu2+などの重金属イオン)のセンシング』へと展開する。具体的には、表面の有機置換基として、対象物質と特異的に相互作用するユニットを導入し、選択的に発光変化を引き起こせる半導体クラスター系の構築を目指す。また、これまでの検討は有機溶媒中で行ってきたが、実際の環境計測(例えば、
下水中の微量成分の直接モニタリング)においては、水中で機能することが望ましい。そこで、表面の置換基に水溶性の置換基を導入し、水溶液中でのセンシングについても合わせて検討する。





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