NEWS LETTER     第3号 (2003年 秋)



MINoSGIが目指すもの
戸田 求  とだ もとむ  


  我々の研究グループでは、長期的な大気 ― 森林間の物質交換および森林動態の将来予測を行うため、従来のモデルで行われてきた大気環境の変化が森林群落へ及ぼす影響の記述だけではなく、時間経過に伴う森林動態の変化が大気環境へ及ぼす影響 (フードバックプロセス) をも考した、新しい大気 ― 植生動態モデルを開発しています。ここで述べる将来予測の程度とは、樹木固体の成長 ・ 樹木間競争 ・ 枯死といった過程を経て次世代の森林が形成されるおよそ数百年間の時間スケールを想定しています。

  開発された陸面モデルMINoSGI (Multi-layered Integrated Numerical Model of Surface Physics−Growing Plants Interaction 図1参照) には、森林群落上の大気環境変数を記述する微気象モデルと森林動態モデルが結合され、あらかじめ設定された群落内の各層ごとに気温、風速といった物理量 ・ フラックス (流束) や各サイズクラスの樹高、幹直径、葉面積密度といった値が算出されます。サイズクラスごとに計算される取扱いは、現在のグリッドスケールからグローバルスケールへモデル領域を展開する際、限りある計算資源を効率的に活用し、得たい情報早く計算できる点において優れています。
 
  今後は MINoSGI を様々な森林群落に対応できよう更なる開発 ・ 改良を行い、やがてはGCMs (大循環モデル、General Circulation Models) とのカップリングによってグローバルな気候変化や森林の地理的分布変化の予測ができるようにしたいと考えています。

  地球温暖化が叫ばれる昨今、上記に記すような ”大気 ― 陸面間相互作用” に関わる多くの研究者によって、これまでの学問領域にとらわれることなく気象学と植物の生理と生態学双方の知見を融合させるモデル作りが行れています。気候システムにおける陸上生態系の役割を理解し、より定量的に解釈できるようにするため、我々もMINoSGIを通した陸面モデルの開発によって、より包括的な気候システム学の発展に貢献できる研究を行いたいと考えています。




十勝沖海洋における炭素循環の研究
     −海洋の炭素循環における沿岸域の役割の解明に向けて−

碓井 敏宏  うすい としひろ  



  水深が200mより浅い沿岸域は全海洋のわずか7%の面積を占めるにすぎませんが、海洋の炭素循環に関して重要な場であると考えられています。近年の研究によれば、全海洋における一次生産の14-30%、有機炭素の堆積物への埋没の80%、堆積物での有機物の無機化の90%、河川から流入する粒子状物質の堆積の75-90%、炭酸カルシウム生成の50%が、沿岸域で起こっていると見積もられています。またいくつかの大陸棚海域では、活発な大気からの二酸化炭素吸収が起こっていることが報告されています。

  しかし沿岸域の物質循環過程は時間的空間的な変動が極めて大きく、一方これまでに調査が行われた海域は限られている(大陸棚域では全体の10%)ことから、上記の沿岸域の寄与の見積もりの精度は高いとは言えません。二酸化炭素吸収量に関しては、沿岸域全体での推定を行うのが難しいのが現状です。さらに、温暖化や富栄養化等の環境の変化が、沿岸域の炭素循環にどのような影響を与えるのか、といったこともまだ十分には理解されていません。

  このようなことから、より多くの沿岸海域で調査を行い、炭素循環の各過程のフラックスと制御メカニズム、さらにそれらと当該海域の立地・環境条件との関係を明らかにすること、その上で個々の海域で得られた知見を統合して沿岸域が全海洋の炭素循環に果たす役割を明らかにすることが求められています。

  そこで私たちの研究グループでは、十勝沖海域の炭素循環を量的質的に理解することを目的として、本年度から研究を開始しました。十勝沖海域において2005年度までに炭素循環の諸過程のフラックスと制御メカニズムに関する調査を行い、その知見を元に2005-2006年度に炭素循環モデルを作成します。さらにそのモデルを用いて、日本の温帯域の沿岸における二酸化炭素吸収量と炭素収支を推定し、海洋炭素循環における沿岸域の役割の理解に寄与することを目指しています。




  10月16日から18日までソウル大学と本学の合同シンポジウムが開催されました。大学間交流による事業で、相互の大学を交互に訪問してきました。今年はソウルで行われ、17日の全体会議をはさんで、16日は Graduate School of Environmental Studies との分科会、18日は School of Earth and Environmental Sciences との分科会を持ちました。COEのポストドクター研究員である戸田、碓井の両氏もこれに参加し、21世紀COEの韓国版とも言うべき、Brain Korea 21 との交流を深めてきました。