NEWS LETTER    第13号 (2006年 夏)


 環オホーツク圏の温暖化はもう始まっている
 
若土 正曉    わかつち まさあき


 「環オホーツク圏」は、海氷を生むオホーツク海を中心に、東西にユーラシア大陸と北太平洋、南北に北極圏と温帯・亜熱帯域という地理的特徴をもち、地球温暖化に最も敏感に応答する地域である。オホーツク海が、世界で最も低緯度に位置する季節海氷域である理由は、北の寒極である北東ユーラシアが風上にあることによる。シベリアからの厳しい寒気は、オホーツク海の北西陸棚域のポリニア(氷が開いている部分)において、多くの海氷を生成している。海氷生成の際に排出される冷たくて重い高塩分水は、北太平洋の表層では最も重く、北太平洋全域の中層(200 〜1000m)に潜り込んで北太平洋中層水を形成し、子午面循環を駆動している。我々の最近の研究から、この50年間でオホーツク海の中層水が暖かくなり、それが北太平洋まで広がっていることがわかった(図)。その主たる原因は、シベリア東部が温暖化し、オホーツク海の海氷生産量が減少して、高密度水の生成量が減ったことだと言われている。この結果、北太平洋の子午面循環も弱まるだろう。

 「環オホーツク圏」は広大な季節雪氷域(積雪+海氷)をもつので、温暖化の徴候が他のどの地域よりも早く顕著に現れる。海氷と高密度水の生成量が大幅に減ることによって、アムール川からの鉄や北部大陸棚起源の栄養塩がオホーツク海から親潮域に流出する量も減少するだろう。すなわち、この海域の生物生産力を弱めてしまう。温暖化による鉄循環システムと生物生産力への影響を正しく評価し、将来予測を可能にするには、長期モニタリングを中心とする観測研究ネットワークの構築が必須だと考えている。

 今後、「環オホーツク圏」のモニタリングによって、北太平洋が重要な役割を果たしている温暖化や海洋物質循環の実態把握と将来予測が可能になる。さらに、地球環境の保全に役立つ方策、例えばEEZ管理や漁業管理への具体的提案も出てほしい。人口の密集する東南アジアなど南方とともに、人口の少ない寒冷圏も未来の地球に重要なのです。
”Look North !"







 未利用資源キヒトデ由来の植物生育制御物質
   石井 貴広  いしい たかひろ


 環境問題への対応と未利用資源の有効利用が重要視される今日、海洋生物資源を適切に利用し、海産廃棄物を活用する必要がある。また、海には多種多様な生物が生息しており、海綿から医薬系素材の候補物質が発見されるなど、海洋生物が生産する生物活性物質に注目が向けられている。

近年、道全域で大量発生しているヒトデは、水産有用種の食害などの被害を及ぼすために駆除されている。回収後のヒトデは、利用価値が見出せないために廃棄物処理されているが、多様な生物活性を有することが知られている。そこで、道東沿岸域で生息度の高いキヒトデから天然有用生物活性物質の探索を行った。

作製したヒトデ混和堆肥には植物の生育促進作用が認められたことから、キヒトデに含まれる肥効成分に着目した。コマツナの初期生育試験を指標にヒトデ水抽出物およびメタノール抽出物から分離操作を行った。その結果、水抽出物の水溶性画分よりアステルビンを得た。アステルビンをタウリンとジメチルシアナミドを用いて合成し、天然物と同等の促進活性を示すことを確認した。また、水溶性促進画分の主な活性成分は肥料成分として知られるKやNaを含む無機塩であった(図1右)。次に、メタノール抽出物の水溶性画分より、顕著な阻害活性を示すアステロサポニン類のglycoside B2とasterosaponin-1および-4を得た。さらに、脂溶性画分からは新規物質のasteriaceramide Aとasteriacerebroside Gおよび既知物質のasteriacerebroside AとBを得た。3種のセレブロシドは生育促進効果を示し、新規セラミドは根伸長活性を有した(図1左)。

上記化合物は植物生育制御活性の報告はなく、本研究によって新たな機能性が見出された。得られた活性物質は、他のスプラウトにも同様の効果を示したことから、環境対応型の植物生育制御物質としての利用ならびに混和堆肥などへの活用が大いに期待できる。
 
   



  本拠点の特色を表す研究課題である環オホーツクのとりまとめを担う若土教授に執筆してもらった。石井君は新博士として船出する。今後の活躍を祈る。