NEWS LETTER    第11号 (2006年 冬)


 高濃度硝酸含有廃水の固体触媒による浄化
    坂本 啓典    さかもと よしのり


  近年、工業廃水や農業排水由来のNO3?による地下水汚染が深刻化している。固体触媒法は、NO3- を簡便に還元無害化できる技術として注目されているが、水質的に望ましくないNH3 の副生をいかに抑制するかが課題である。
  本研究では、固体触媒法による低NH3 副生なNO3- 還元無害化を実現するために、構造が明確なCu-Pdクラスターを触媒としたNO3- 還元反応を検討し、その触媒作用を明らかにした。
 Cu-Pdクラスター触媒はXRDから、通常法で調製したCu-Pd触媒と異なり、Pd粒子が存在せず、ほぼCu-Pdバイメタル粒子のみで構成されている事が分かった。このCu-Pdクラスター触媒は、アルカリ条件でのNO3-還元で、中間生成物のNO2?が高選択的に生成する特異な触媒作用(左図)を示す事が明らかとなった。
 Cu-Pdクラスター触媒によるNO2-還元は、アルカリ条件では進行せず、中性条件で速やかに反応した。この事から、OH-はCu-PdクラスターへのNO2-の吸着を阻害し、NO3-還元で高いNO2-選択性を示す事が分かった。
  Cu-Pdクラスター触媒のNO3-還元でNO2-が生成する事に注目し、NO2-還元触媒探索を行った結果、β-ゼオライト担持Pd触媒がNO2-を中性条件で無害なN2とN2Oへ還元する事が分かった。そこで、アルカリ条件でCu-Pdクラスターを用いNO3-をNO2-へ還元する前段と、中性条件でPd/β-ゼオライトによりNO2-を還元する後段を組み合わせた、二段法(右図)を構築しNO3-還元を試みた結果、100 ppm NO3-還元でNH3副生を0.6 ppmと、目標値0.5 ppm以下に迫る低い値に抑える事ができた。
 今後、Cu-Pdクラスターの触媒特性を利用した二段法を用いる事により、NO3-汚染水浄化法の実用化のペースをさらに速める事ができると期待される。


     
図:Cu-Pdクラスター触媒の特異な触媒作用(左)、及びその触媒作用を利用したNO3-の二段法還元(右)。



 オホーツク海における海氷−海洋相互作用に関する研究
     小野 純    おの じゅん


  オホーツク海は、沿岸結氷を除けば、北半球における海氷域の南限であり、地球温暖化の影響が最も顕著に現われる場所として注目されている。また、潮汐・潮流が極めて強い海域であるにも関わらず、実測に基づいた研究は十分に行なわれてこなかった。1998〜2000年に、日露米共同による長期連続観測がサハリン東岸沖で行なわれた。この海域は、北太平洋中層水の起源水の1つと考えられている高密度陸棚水や海氷の輸送経路となっていることから、それらの変質・輸送過程に潮流が与える影響を評価することは重要な研究テーマである。本研究の目的は、観測データから潮流場を明らかにし、それを再現できる数値モデルを開発するとともに、潮汐・潮流が海氷-海洋に与える影響を評価することである。これまでの研究から、以下のことが明らかになってきた。
  サハリン東岸の北部陸棚域では、日周期の潮位・潮流が卓越していた。現実的な密度成層と海底地形を考慮した解析モデルとの比較から、サハリン東岸の北部陸棚域の潮流は、第一モードの日周潮陸棚波で良く説明できるが、潮位と南部陸棚域の潮流は日周潮陸棚波では説明できないことがわかった。水温場の解析結果から、サハリン東岸沖の最北端( M7 )では( 図1a )、日周期および大潮小潮に伴う約14日周期の変動が顕著であり、大潮時には、結氷温度付近まで達することが示された( 図1b )。1-2月の潮流による沖向きの熱輸送量は、約-20 kW m-2と見積もられ( 図1c )、渦による熱輸送量を上回る。これは、日周潮陸棚波が、オホーツク海の北西陸棚域で生成される高密度陸棚水の輸送・変質過程に影響を与えている可能性を示唆する。
  現在、観測で得られた知見を基に、数値モデルを用いた研究に取り組んでおり、サハリン東岸沖における潮流場を再現し、潮流が高密度陸棚水および海氷に与える影響を評価することが今後の課題である。



a. M1−M9の係留観測点を示し、青い領域は主要な高密度陸棚水生成域である。
b. サハリン最北端(M7)における水温の潮汐成分(赤)と等深線に直交する潮流(青)の時系列。
c. 潮流による沖向き熱フラックスの時系列。太い実線は、25時間の移動平均をかけている。

  本号ではふたりのリサーチ・アシスタント学生に博士論文研究のハイライトを記してもらった。両方とも北海道の環境にかかわる重要な課題である。若手研究者の成長を見守って頂きたい。