Graduate School of Environmental Science

環境科学の座標軸を提示する

環境科学院敷地内の植物

2009-05-20

(大学祭施設公開に向けて、2009.5.20 春木雅寛)

1. はじめに

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正面玄関前は五大陸(右下はユーラシア)が … (2007.7.5)

 北海道大学(北大)構内は北6-24条、西5-16丁目にかけて南北約2.3 km、東西約1.1 km、面積約182 haを占めます。北海道大学構内に正門から入ると右手に大きな樹木がまず目につきますね。これがハルニレです。ハルニレは英語名でelm (エルム)、学名ではニレ科のニレ(Ulmus ウルムス)属に属しています。北大にはいろいろな樹木を合わせておおよそ9,700本の樹木個体が登録されています。北大は「エルムの学園」と言われ、このハルニレは約1,600本(16.2%)と約1/6を占めています。正門を入って(右手に大学本部がありますがその前を通り)まっすぐ(西に向かって)歩いていきますと、左手の中央ローン(芝生)、クラーク像を過ぎて農学部の前庭、この前庭と右手の総合博物館(旧理学部)との間のローンは大きな樹木(ほとんどがハルニレです)と芝生の組み合わせからなっており、北大の代表的な景観となっているのはご存知ですね。
 さて、私たちの環境科学院は、大学正門を入って、右手にある4階建ての建物(大学本部)の北側約100 mに位置していて、8階建てA, B, C棟の建物とこれにつながった2階建ての管理棟、実験棟からなっています。一番の特徴は四方を樹木に囲まれていて、おそらく敷地面積辺りの樹木本数、樹種数が北大内のいろいろな学部(大学院)の中で最も多いと思われます。各学部(大学院)の敷地内の樹木や植物について解説されたものは、今のところありませんので、ここでは私たちの環境科学院敷地内の樹木や植物のあらましについて述べてみることにします。

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花壇で咲き乱れるツツジたち – 北大構内でも一、二の美しさかな … (2007.6.6)

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環境科学院北側の樹林内のオオウバユリ (2007.7.18)

2. かつて、この辺りは …

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円山頂上からみた札幌中心部。中央左側のビルの谷間に北大構内があります … (2006.7.10)

 環境科学院の玄関を入ったロビーの左手の壁もそうですが、玄関前の車寄せ(ポーチ)との間も木製テーブルなどから「地球」が形作られています。さらに左手(北側)に歩いていきますと駐車場の入り口に大きなカエデの木(エゾイタヤ、イタヤカエデ)があります。学内で一番の大きさです。また、大きなヨーロッパクロマツも残されてきました。実はここは昭和40年代まで残っていた旧教育学部の前庭だったのです。今、西側のA棟とB,C棟に囲まれて大きなハルニレやエゾイタヤが残っていますが、これも当時の名残で、環境科学院の建物が出来始めた時にも上のほうの枝を少しも切らないように上手に、現在の建物が建てられました。また、学内各所にあるように、東側にあるC棟北側は先住民族の遺跡の発掘調査も行われました。駐車場北側は学内に9箇所ある樹林地(25m×25m以上の面積を持つ)のひとつとなっています。この樹林地内部にも西側には昭和40年代に外国人教師の宿舎があり、当時の名残を示すようにカシグルミ(テウチグルミ)やナシ(梨)の木も残っています。

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キタコブシの可憐な白い花 (2005.5.16)

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駐車場前のエゾイタヤ(左)大木とヨーロッパクロマツ(右)。左手が樹林地 (2007.6.18)

3. 樹林地の中に入ってみると …

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樹林地の内部に咲く、背丈の高いオオハナウドの花(2007.7.6)

 この樹林地には駐車場の端から南北に細い歩道が二本あって、知っている人は通り道として利用しております。皆さんも一度通ってみてください。札幌駅からほんの数百メートルなのに、なんとここには(札幌の)明治期の開拓以前の面影を残す植物群が見られるのです。春早くに黄色の花をつけるキバナノアマナ(ユリ科)やミズバショウ(サトイモ科)のほか、もう少しで蕾をつけ白くきれいな花を咲かせるユリ科のオオウバユリ(エゾウバユリ)、マイヅルソウやセリ科のオオハナウド、キク科のアキタブキ(オオブキ)、コガネギク、シダ植物のクサソテツ(コゴミ)などがそれです。北海道の低地に生育するササの代表種であるクマイザサもみられます。
 開拓期以前からあったと考えられる樹種としてシラカンバ、ハリギリ、エゾイタヤ、ハルニレ、ヤチダモなどの高木種のほか、ヤマグワ、エゾニワトコ、マユミ、エゾイボタなどの亜高木種や低木種もあります。
 ただ、現在では、時代の流れを示すようにいろいろな帰化植物も入り込み、歩道に沿って多く見られるようになりました。ドクニンジン(セリ科)やイワミツバ(ヨーロッパ原産でセロリの原種に近い。)、さらにはキク科のオオハンゴンソウ、高木種のニセアカシア(これは市内の街路樹でおなじみです。和歌や歌謡曲の題材にもされ、ミツバチも花に群がります。近年、在来の植物種の多様性を狭めるという理由で、目の敵にされつつあります?!。)などです。昭和20年の戦争後の混乱期には学内で、あちこち小さな畑が作られて野菜が植えられた名残で、そこから逃げ出してはびこった野菜(逸出植物−いっしゅつしょくぶつ−)であるゴボウも林縁に多いですよ。
 さらにこの樹林地にはかつて植栽されたと思われるトチノキ(トチの実は本州では食用にしています。ヨーロッパのマロニエの仲間です。)は学内一番の大きさですし、ナナカマド(バラ科のナナカマド属で花も秋に色づく実も山では風情(ふぜい)があります)も一番太いものです。樹林地もふちには北米から導入したネグンドカエデや中国からお蚕(かいこ)さんに葉を食べさせるため導入したニワウルシ(シンジュ、本物の漆ではないためかぶれませんが、木の肌はそっくりです!)もあります。また、イチョウ、ヤマモミジ、ミズナラ、マツ科のエゾマツ、キタゴヨウやヨーロッパ産のヨーロッパトウヒなど学内樹林地では国内外の多種多様な樹木がみられます。

4. 北大構内の南東面の代表景観として … (見守って!)

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外来種として駆逐の動きもありますが、札幌市民にはおなじみのニセアカシアの花房 (2005.6.14)

 この樹林地は少数の常緑針葉樹と多数の落葉広葉樹の混生林となっています。前述したように外国人教師宿舎跡地を含むことから植栽木が多いのですが、明治の開拓期を思わせる郷土樹種や在来の草本種を含む不思議な小空間といえそうです。土壌は宿舎の建築解体などの影響からか養分に富んだ表土がやや少なく、下方は埴土(粘土)層となっていますが、それほど硬く締まってはおらず、樹木の根はかなり深くまで入っています。1988年の調査ではニセアカシアは最大樹高23 m、最大胸高直径85cmでしたが、成長が良いので樹高はさらに数m高くなっています。2004年の台風で数本の樹木が倒れ、あるものは伐採され搬出されてしまいました。オオウバユリを主とした背の高い草本(高茎草本−こうけいそうほん)は健在で、内部は暗くうっ閉しており、今後の推移が注目されます。全体としては在来種である草本群が上方空間を占める樹木群にうまく守られてきたと言えるでしょうし、今後もそのまま続いていきそうです。
 駐車場や玄関の付近にはモンタナマツ(北米から導入したマツ科の1種で樹高1−2 mの匍匐形を示す)や樹高10m余りながら独特の生(お)い繁りかたを示すモイワボダイジュの仲間(シナノキ科)もみられます。玄関前の樹木などの植栽整備は倒伏による建物への影響を考えながら、この後もじっくりと進められていくのでしょうが、これまで30年あるいは40年での変貌は樹林地と好対照を成しているといえます。
このように環境科学院の敷地は、樹林地やA, B, C棟に近接するハルニレ、エゾイタヤ(イタヤカエデ)の大木を擁する、北大構内の南東面を代表する一つ植物景観(顔?)といえるものであり、皆さんに見守っていただきたいものと思っています。

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