北海道大学大学院環境科学院 ガイア 本文へジャンプ
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学生生活

〜米国・ハワイ大学IPRCでの3ヶ月〜
古関 俊也(地球圏科学専攻・博士課程後期3年)


---留学経緯
 2008年1月10日から3月31日までハワイ大学ー北海道大学環境科学院間の交換プログラムにおいてハワイ大学国際太平洋研究センター(IPRC)に派遣された.IPRCでの共同研究者は謝尚平教授であり,私が現在行っている研究でレビューをしている論文でもそのお名前は数多く見受けられ,謝教授と議論することで今後の発展につながると思い,受け入れていただいた.

★思い出★
 休みの日は海へ繰り出し,ビーチで横になりながらひたすら本を読んでいた.そして暑くなったら着ているTシャツを脱ぎ捨てながら海へ走り出すというまさにバカンスのような休日を過ごしていた.
 さらに日本と違ってアメリカはどんな小さな公園にもバスケットコートがあるので,日本から持参したボールでひたすらスリーポイントシュートの練習に励んでいた(写真参照).
 滞在した所はEast-West Centerというハワイ大学内にある留学生が多く滞在する施設で,1泊20$くらいで泊まれる施設.共同キッチンも完備されており,アメリカの味に1週間で飽きてから夜は毎晩自炊生活.帰国前1週間は現地のユースホステルを電話で予約したのだが,いざ宿泊当日に行ってみると『予約にお前の名前はない』と言われ,英語で抗議するも覆らなかった.なんとか他のホテルに泊まることができたので,これでよし.

---現在の研究
 私は現在,高解像度の大気大循環モデル(AGCM)(※1)を用いて黒潮続流域における海洋メソスケール(~数100km)(※2)の海面水温(SST)偏差が大気にどのような影響を与えるかを調べている.特に今注目しているのは海洋メソスケールのSST偏差が中緯度大気に卓越する総観規模擾乱(日々の高低気圧)に与える影響について研究を行っている.
 海洋メソスケールのSST偏差がある(Control run)/ない(Smoothed run)(※3,4)境界条件で比較実験を行いラグコンポジット解析から,黒潮続流域の下流域で,Control runの低気圧の方がより大きく発達することがわかった.また低気圧にともなう降水帯において降水量の領域平均値を比較したところ,黒潮続流域を低気圧が通過した後,Control runとSmoothed runの降水量の差が大きくなることがわかった.さらに低気圧にともなう凝結加熱の領域平均値を比較したところ,やはりControl runの方が黒潮続流域下流域で境界層上端から対流圏中層にかけてより強い加熱が存在していた.この潜熱加熱によって低気圧中の静的安定度が弱まり低気圧がより強く発達したと示唆できるが,熱力学的な解析を行うことが必要である.

 ※1 大気大循環モデル→大気の運動を方程式化し,コンピュータを用いてその方程式の解をもとめることで大気の挙動を時々刻々と表すプログラム群
 ※2 メソスケール→大気・海洋における現象の空間スケールのこと.直訳は『中規模の』.その他にはミクロスケール,ラージスケール等々.
 ※3 Control run→本研究における基準となる実験名
 ※4 Smoothed run→本研究となる比較のための実験名


★英語に関して★
 感じた事はやはり,英語の読み書きがそれなりにできても『英語を話す・英語を聞く』ことには3割も反映されないことである.自分の英語コミュニケーション力が壊滅的にないことを思い知らされた滞在であった.
 現在Podcastなどで聞く能力を僅かではあるが向上させている.また,受け入れ研究者の謝教授に英語の上達法もしっかり教えていただいたのでそれを遂行して次回お会いできる時には(数年後),英語で議論できるようになることを当面の課題とする.

---ハワイ大学での研究について
 上記のことを謝教授をはじめ,中村もとたか研究員,時長宏樹研究員,三瓶岳明研究員の前で発表させていただいたところ,多くのコメントをいただいた.今の段階では,2種類の境界条件の下,5つの初期条件で実験を行うというアンサンブル実験の結果を解析しているが,特にその実験方法についてご指摘をいただいた.具体的には・アンサンブルメンバー数をもう少し増やした方がいいのではないか・そもそもアンサンブルメンバーの各初期値が2002年-2006年の1月1日の5種類で厳密な意味でのアンサンブル実験ではない・それか一つの低気圧に注目し,その低気圧に対してアンサンブル実験を行ってはどうかなど,非常に参考になるコメントをいただいた.これらのことを踏まえて,今後の実験・解析を行っていきたいと考えている.

---ハワイ大学での研究発表について
 この研究についてJOINT Seminarで3月14日に『Effect of the Meso-scale SSTAnomaly on the Synoptic Scale Disturbance in the Kuroshio Extension』というタイトルにて発表を行った.発表の内容を喋ること自体は前日の練習の甲斐あってスムーズにできたが,やはり英語での質疑応答に慣れておらず,度々謝教授のサポートを受けることになった.このセミナーでIPRCやSOESTの様々な研究者たちからコメントをいただくことができた.興味はもっていただけたようであるが,まだまだ解析・議論の余地は多くあり、さらに精進していきたい.

発表風景


指導教官 谷本 陽一(地球圏科学部門・准教授)よりコメント★

古関君は,環境科学院の大気海洋物理学・気候力学コースで新しく始まった「ハワイ大学におけるインターンシップ」に応募して, 第1期生として派遣されました.

彼の中緯度大気海洋相互作用に関する研究は国際的にも充分なレベルに達していると考えていましたので,短い期間の滞在で新たな研究成果を得ることよりは,持っている成果を英語のコミュニケーションを通じてさらに磨いてくることを期待していました.

研究の目的をもって外国に数ヶ月滞在していると,単なる海外旅行では得られない多くの体験を研究の現場やあるいは滞在中の生活から得ることができます.

古関君の場合,入国審査からはじまって,フォーマルセミナー発表後のディスカッションに至るまで,数多くの(ときには冷や汗でいっぱいなるような)得難い体験をしてきたと思います.

それらの体験は,彼の「踏んだ場数」に必ずや蓄積され,優秀な研究者となる糧となったと確信しています.

---谷本研究室ホームページはこちら


過去の記事

〜米国・ハワイ大学IPRCでの3ヶ月〜古関 俊也(地球圏科学専攻・博士課程後期3年)
 (2008年夏)


〜研究内容と、グローバルCOEプログラム特別研究員としての抱負〜川合 由加(生物圏科学専攻・博士課程後期2年) (2008年秋)

〜大学と市民をつなぐ学生の新しい試みが始まる〜鈴木 耕平(環境起学専攻・修士課程2年)(2009年秋)

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