地球 Γεια  Earth

Γεια 磯の生物群集の種組成と時空間スケール
 野田 隆史    のだ たかし 

 地球上のあらゆる環境に生物が生息しているが、その種数や構成メンバーは場所や時間によって大きく異なっている。ここで興味深いのは、それらがでたらめに異なっているのではなく、さまざまな規則性がみられることである。このような種組成の規則性をさまざまな時間的空間的スケールでみつけだし、それを生じさせる仕組みを、環境条件や種間関係、種の生態的特性などを手がかりに解き明かすことが群集生態学の主目的である。このような研究を行なううえで格好な対象が海岸の固着生物群集である(図1)。以下では著者の関わっている研究の一部を紹介する。
 生物群集の種組成の表現法として古くから用いられてきたもののひとつに相対優占度曲線(横軸に現存量を多い順に並べた種の順位を、縦軸に各種の相対量をとり結んだ線)がある(図2)。この相対優占度曲線は調査対象の時空間スケールに依存してその形が変化する。一般に時空間スケールを小さくすると曲線の傾斜は急峻になるが、その原因としては1)ある群集から一部分を無作為抽出して得られた相対優占度曲線は元の群集の相対優占度曲線の左端の傾きを反映するから、2)種間で環境要求(生態的地位)が異なるが、時空間スケールが小さいほど環境の異質性が低くなるため少数の種が優占しやすくなるから、3)生物は移動能力に限りがあるため、それぞれの種は集中分布するから、であると考えられる。
 北海道の東部と南部の2地域の固着生物群集を対象に、時空間スケールの各要素(水平・垂直・時間)の変化に伴う相対優占度曲線の形の変化とそのメカニズムを調べたところ、どちらの地域でも時空間スケールの縮小は相対優占度曲線の傾きを急峻にすることがわかった。そして、この曲線の傾きの変化の主な原因は、時空間スケールが小さいほど、環境の異質性が低くなるため少数の種が優占しやすくなるからであることが分かった。この結果がどの程度普遍性があるか、あるいはどの程度、地域変異があるかについては、さらに地域を増やして検証する必要があるだろう。そこで調査対象をさらに北海道から九州にいたる6地域に増やし研究を進めている。

                  

図1:海岸の固着生物群集(クロフジツボとイワフジツボ)   図2:海岸の固着生物群集の相対優占度曲線(北海道南部の例)


Γεια 発光色素を用いた有害物質のセンサー
山田 幸司    やまだ こうじ  

 事故や災害による環境汚染では、被害の拡大を防ぐため、早期の原因物質の特定が重要である。その分析方法としては、巨大な分析機器を用いた正確だが時間がかかる方法よりもポータブルな分析器を用いた(もしくは見た目で)その場分析ができる簡易的な方法のメリットが大きい。後者の代表例として、水溶液のpHを色変化で判別するリトマス紙が挙げられるが、本研究室では、さまざまな有害物質に特異的に応答する発光色素を設計・合成し、誰でも簡単に測定できるセンサーデバイスを目指している。
 近年の半導体技術の発展により、発光素子(LED)や受光素子(フォトダイオード)が高感度化・小型化・低コスト化したため、発光色素を用いたセンサーデバイスは上記の目的に合致した有力な候補である。ここで一番重要なのは、有害物質を認識すると発光挙動が変わるセンサー色素分子の設計・合成であるが、数多くの有害物質に対応するには従来法では非常に困難である。そこで、優れた蛍光発光色素であるボロンジピロメテンに、北大発の鈴木-宮浦クロスカップリング合成法を適用することで、認識部位を直結し、特定の化学物質により発光色が変わる蛍光センサー色素を合成することに成功した。さらに、同様の合成手法で、化学発光物質であるルミノールを直結することで、フルカラーの化学発光色素を作り出すことにも成功した。化学発光の検出には、発光素子が必要なく光ノイズが発生しないため、蛍光発光よりも高感度に微量物質を検出することが期待される。
 実用性の高いセンサーデバイスを完成するには、地球環境に対する問題意識と色素を合成するための構造有機化学的な技術およびデバイス化するための材料・生物・電気などの異分野との連携が必須である。幸いなことに、本学はさまざまな学科・研究科が都会の一ヶ所に集中した恵まれた教育・研究環境を有している。その利点を生かし、困難だが有意義なこの課題にチャレンジして行きたい。

     

波長応答性蛍光センサー色素     さまざまなボロンジピロメテン蛍光色素




フルカラー化学発光色素(一番左は従来のルミノール)