地球 Γεια  Earth

Γεια 昆虫の化学防御物質と有機合成
松田 冬彦    まつだ ふゆひこ  

  地球上には様々な生物が生存し、互いに関わり合って生態系が保たれている。生態系の中では、生物が生産する有機化合物が生物間の様々な相互作用を司る上で重要な役割を担っている場合が少なくない。このような有機化合物の作用を解明するには、生物からその作用を示す化学物質を純度良く取り出し、分子構造を決めることが出発点となる。また、この種の化学物質は極微量で作用を示すことが多い。そのために十分な量を生物から取り出せず、人工的に作ること(有機合成)が必要になる場合が多い。ここでは著者が関わった昆虫の化学防御物質に関する研究について紹介させていただきたい。

 アオバアリガタハネカクシ(Paederus fuscipes)は10mm程の甲虫で、体液に有毒物質を蓄えて外敵から身を守っている。体液が人間の皮膚に触れると激しい炎症を引き起こすので、被害が出ることもある。多くの昆虫種に見られる防衛手段で、化学防衛と呼ぶ。約10万匹の虫(約10kg)から有毒物質を数mg取り出し、分子構造が決められ、Pederinと命名された。自然界からは少量しか得られず、有機合成を行うことになった。
 有機合成では色々な化学反応を用いて複雑な有機分子から簡単な有機分子を作る。Pederinには分子内の原子と原子のつながり方が同じでも、3次元構造が異なる化合物(立体異性体)が512種も可能で、注意深く化学反応を選択しないと多くの立体異性体の混合物が出来てしまう。
 紆余曲折を経て合成したPederinは、昆虫由来のPederinと全く同じように人間の皮膚に炎症を引き起こすので、Pederinがこの昆虫の化学防御を担う化学物質(化学防御物質)そのものであることが確定した。また、有機合成によりPederinに似ていて構造が異なる化合物も作れ、その作用に興味が持たれる。たとえば、epi-Pederinは分子模型ではPederinとそれほど違わないが、全く毒性を示さないことがわかった。


Γεια グローバル・ランド・プロジェクト(GLP) 札幌オフィス開設にむけて
甲山 隆司    こうやま たかし  

 国際科学会議(ICSU)では、地球環境関係の4つの国際プログラム(WCRP,IGBP,IHDP,DIVERSITAS)を組織・実施している。さらに、プログラム間の統合的なプロジェクト展開がESSP=地球システム科学パートナーシップ=として進められつつある。これらのプログラムの下で多くの国際研究プロジェクトが遂行されているが、我が国の取り組みは、プロジェクト・オフィスの招致などによる率先した遂行の面で立ち後れており、積極的な国際的な貢献が要請されている。
 
 北海道大学でも、その経験と実績を核に、地球環境にかかわるプロジェクト・オフィス機能を併せ持つ分野横断的な研究システムの構築が懸案となってきたが、北海道大学のサスティナビリティー・ガバナンス・プロジェクト(SGP)および「持続的な開発」国際戦略本部(HUISD)の全面的な協力のもと、GLP札幌連携オフィス(Sapporo Nodal Office of GLP)を2006年度から開設する運びとなった。GLP=Global Land Project(全地球陸域プロジェクト)=は、IGBPとIHDPのジョイントプロジェクトであり、すでに完了した国際プロジェクトであるGCTE(地球変化と陸域生態系)とLUCC(土地利用・土地被覆変化)を継承し、自然科学と社会科学の垣根を越えて陸域の諸過程を解明し、  変化を予測することを目的としている。詳細は、GLP科学計画を参照してほしい(http://www.glp.colostate.edu/plan/htm)GLP札幌オフィスは、特に陸域システムの「脆弱性・復元力・持続可能性」(vulnerability, resilience and sustainability) を明らかにすることを目的に、専門事務局長(Executive Director) を中心とする連絡・調整・公報機能を果たす。現在、国際的に卓越した実績のある、多様な国籍の候補者のなかから、事務局長の人選を進めているところである。
 国際プロジェクト策定は、意欲ある各国の研究者の自発的な取り組みによって、公開の場を設定して積み重ねられていくのが常識となっている。策定段階から国際的に練りあげ、計画とそのベースとなるレビューも国際誌に発表していくような経緯を辿る国際共同研究に、今まで我が国の貢献は低かった。 それには機構的な諸問題があるのだが、なんとか諸問題を解決して、GLPオフィスを有効に機能させていくことが今後の重要な課題である。