地球 Γεια  Earth

Γεια 北極振動と成層圏突然昇温と寒波
山崎 孝治    やまざき こうじ  

 北極振動は北極域と中緯度域の気圧のシーソー変動であり北半球で最も卓越する変動モードです。北極振動は1年中存在しますが、特に冬に卓越します。北極振動が正であるときは高緯度西風ジェットが強く、日本は暖冬になりやすく、北極振動が負であると寒冬になりやすい傾向があります。寒冬・豪雪に見舞われた昨年(2005年)12月には、北極振動指数は大きな負の値を示しました。しかし、北極振動は大気の内部変動であり寿命はせいぜい2週間しかありません。寒冬の説明にはなっても予測は困難です。

 北極振動は平均流ジェットと擾乱の正の相互作用によって卓越します。擾乱は移動性高低気圧のような総観規模擾乱と惑星規模波があり、冬季は惑星規模波が強く波は成層圏まで伝播しますので、冬の北極振動は成層圏とも結合しています。成層圏の負の北極振動は極夜ジェットが弱い状態で、しばしば急激に起こり真冬に北極域の成層圏の気温が30度以上も急激に上昇することがあります。これを成層圏突然昇温といいます。突然昇温後1〜2ヶ月にわたって、対流圏の北極振動も負になりやすい傾向にあることが最近の研究で明らかになりました。すなわち、成層圏から長期予報ができるということです。

 しかし、いつでも対流圏まで伝播するとは限りません。どのようなときに対流圏まで伝播するか調べました。突然昇温には極渦が北極からずれる波数1型と極渦が2つに分裂する波数2型があります。元修士学生の中川君の研究によると波数2型のときは、対流圏まで影響しますが波数1型のときは影響しないことがわかりました。今年(2006年)の1月に大規模突然昇温が起こりました。でも残念なことに波数1型でした。おそらくそのためでしょうか、2,3月の対流圏の北極振動にはあまり影響しなかったようです。また、12月の対流圏の北極振動の異常に対する成層圏の前兆はありませんでした。


Γεια 葉の寿命を樹木の最適戦略として考える
高田 壮則    たかだ たけのり  

 我々が毎年秋に目にする紅葉。北海道に住んでいる人間には何気ない風物詩で、春には新緑を迎え、秋には紅葉を迎えるのが当然のことだと思ってしまう。しかし、陸上植物は進化の過程で幅広い葉寿命を獲得してきた。例えば、葉の寿命は短いものでは2、3週間のものから、最大では25年間に及ぶものまである。  この幅広い葉寿命が樹木の最適戦略として実現されていると考え、さまざまな気候条件や葉の生理学的特性のもとでの最適な展葉日と落葉日を計算してみるという研究が行われている。その研究で何を最適にしているのかというと、個葉の単位時間あたりの純生産量効率である。気温が年次変動している時に、どの時期に展葉し、どの時期に落葉するのが純生産量効率を最大にできるのか?数理モデルとコンピューターを用いて数値計算すると、さまざまな気候条件や葉の生理学的特性に応じて、寿命の短い解から長いものまで多様な最適解が求められる。  最適解には三つのパターンがある。一つは暖かくなると展葉し一年以内に落葉するもの(落葉樹パターン)、また暖かくなると展葉するのだが年を越して一年以上の寿命をもつもの(常緑パターン)、最も寒い時期で既に開葉を始めてしまう長寿命のもの(早期開葉パターン)である。それぞれのパターンがどのような気温条件(平均気温と温度振幅)のもとで現れやすいのかを調べてみると、常緑パターンは平均気温が低く環境条件がきびしい時に割合の高いことが分かった(図1-1)。これは寒帯域において常緑針葉樹が多いことを示唆している。さらに、早期開葉パターンが多い気温条件を調べてみると、平均気温が高く振幅が少ない熱帯域に現れやすいと言うことがわかった。  では、地球温暖化などにより気温条件のパターンが変化すると常緑針葉樹の優占する領域はどの程度シフトするのだろうか?地球環境問題の影響に対する生物応答を最適戦略の視点から考える。この問題はまさに発展途上にある。