地球 Γεια  Earth



Γεια インドネシア拠点大学交流の成果と今後の課題
岩熊 敏夫     いわくま としお 

 1997年に、北大とインドネシア科学院生物研究センターを拠点大学として、熱帯泥炭湿地の生態系管理を目指した研究交流事業が10年計画で開始された。コア調査地域として中央カリマンタン(ボルネオ)の120万ヘクタール開発計画地域とその流域を選び、森林・生物多様性班、農学班、水文・工学班、陸水班に昨年から形成された人間・社会経済班の5班が共同観測・研究を行っている。この開発計画はスハルト政権期の1995年に開始され、内陸部のパランカラヤ市の少し南から海岸に至る100キロメートル四方余の泥炭湿地林域を伐採し水田化する計画で進められた。ハビビ政権に交替した後の1999年に中途で終了した時には、既に広範囲に森林が伐採されていた。
 
 この交流事業には農学研究科、工学研究科からも多くの学生諸氏が参加しているが、中核を担う地球環境科学研究科では、インドネシアを研究フィールドとして、2004年度までに11名が博士号を、16名が修士号を取得した。このうちインドネシア科学院やパランカラヤ大学からの留学生9名が学位を取得したことは特筆すべきことである。この交流事業によりパランカラヤ大学では研究・教育インフラが整備された。研究に特化した大学に発展させることを目標に大学院新設の準備が進んでいる。今後はより教育に重点を置いた交流が可能になる。
 
 生物多様性のホットスポットであるボルネオでは、地方分権化された2000年以降も複雑な利害関係の中で自然破壊は減速しない。生物多様性、炭素循環、森林火災、環境汚染などの重要課題を自然科学と人間社会の両側面から研究する東南アジアの拠点として、是非多くの研究者・学生にパランカラヤを訪れていただきたい。高橋元助教授グループの10年余にわたる地下水位観測からは、森林火災が多発する「臨界水位」が存在することが示されている。このように北大がインドネシアと協力してこれまでに蓄積したデータは膨大で、今後様々な媒体で成果を公表していくことになろう。


Γεια ナノ粒子を使った機能性環境材料のデザイン
小西 克明    こにし かつあき  

有史以来、人類が豊かな生活を享受するために行ってきた生産活動は、場合によっては特定の化学物質の局所的な蓄積・偏在化を招き、結果として生態系に大きな汚染を及ぼしてきました。こうした問題に対処するためには、汚染物質を分解・除去するための機能材料を開発するとともに、実情を細かく把握するための簡易かつ高感度・高選択的な分析手法を確立する必要があります。

 私たちのグループでは、高度な環境材料としての機能を発現させるための核となる物質として、ナノテクノロジーの分野でも用いられる金属ナノ微粒子に着目しています。この物質群の歴史はまだ浅く、よくわかっていないことも多いのですが、独特な光学特性をはじめとする魅力的な性質を数多く備えています。4年程前に地球環境科学研究科に赴任してから、こうしたナノ粒子の周辺に補完的な役割をするミクロな分子空間を構築することで、その特性を活かした環境材料を設計する研究に着手しました。しばらく地道な基礎研究を続けてきましたが、ここに来てようやく、有害な金属イオンの有無を色の変化だけで選択的に識別できる簡便なセンシング材料、有害物質を吸着除去できる多孔性材料、などモニタリングや修復に有効と目される系が見つかりつつあります。実際に使えるようにするには、まだいくつかハードルをクリアする必要がありますが、ナノ粒子の近傍への合成化学的な「場の建造」が、機能性環境材料をデザインするための有効な方法論のひとつであると言えそうです。

 昨年5月から、学内の創成科学共同研究機構の流動研究部門として、北キャンパスに移ってきています。専攻等構成員にも(おそらく)快く送り出していただき、草を食む牛達を横目にみながら、学生共々気分一新して研究に取り組んでいます。街に近い地球環境の建物とはまた違った雰囲気ですが、新たな刺激を受ける良い機会であり、各所との連携をとりながら、一層の研究の発展を図っていきたいと考えています。