地球 Γεια  Earth



Γεια 新たな大学院・環境科学院を本年4月に開設
学院長 池田 元美     いけだ もとよし 

 地球環境が破壊されつつあります。地球温暖化、環境ホルモン、オゾンホールによる紫外線増加、大気汚染と酸性雨、海の富栄養化、さらに水資源枯渇といった人類共通の問題に私たちは直面しています。これらの問題には、生態系とそれ以外の地球系、さらにその間の相互作用が鍵となるのです。問題の解明と解決には、既存学問領域を超えた協力が必要です。これらの重要かつ緊急の課題に取組む研究者及び高度専門職業人を養成していくために、環境科学院を設立することにしました。

 12年前に我が国で最初の「地球環境」を冠する大学院として開設された地球環境科学研究科では、これまでも地球環境科学を形作る学問領域に基盤をおいて、地球環境問題の解明と解決をめざす教育研究を続けてきました。一方、水産科学研究科と北方生物圏フィールド科学センターにおいても、地球規模の環境問題と地域への影響に関する教育を進めてきました。北海道大学では、これらの教員を一同に集め、現代にもっとも必要とされる教育を行う体制、すなわち「環境科学院」を設立したのです。

 この学院の構成を図に示してみました。その特徴は、問題解決型・目的指向型・分野統合型の「環境起学専攻」を持ち、それが環境科学の基盤となる学問領域を担当する「地球圏科学専攻」、「生物圏科学専攻」および「環境物質科学専攻」と相互に啓発するところです。地球規模の環境問題を解決するため、地球環境のしくみを解明し、またその影響を大きく受ける生物生産との共生を探り、さらに持続可能な社会システムの構築を目指します。

 このような教育体制は、地球環境科学研究科と低温科学研究所が遂行している21世紀COEプログラム「生態地球圏システム劇変の予測と回避」拠点の研究活動を、大学院生の教育において具現化するものです。これからの地球を担う人材育成に力を結集していく決意を新たにして、教育に取組んでいきます。


Γεια 陸域から海洋への有機物の移行挙動研究

長尾 誠也    ながお せいや  

現在、二酸化炭素等の温暖化ガスの影響による地球温暖化が重要な地球環境問題として取り上げられています。大気、陸域、海洋の3つの環境圏を考えた場合、大気へ放出される人為起源二酸化炭素の50%は陸域、残りは海洋へ吸収されると見積もられています。陸域では、二酸化炭素は植物に吸収され、その後、土壌有機物として蓄積されています。その蓄積量は面積の割合に比べると、寒冷域の黒ボク土、湿原の泥炭土で高いため、これらの地域を対象にした有機物としての炭素の固定能や固定機構、有機物の分解の程度やその時間スケールに関する研究が行われています。また、農業活動等の人為活動の影響による炭素固定能の変動についての検討も進められています。しかしながら、将来予測を行うためには、炭素の固定機構に関する研究とともに、陸域から海洋への炭素の移行量、移行特性を基にした地球表層での炭素の循環像、特に炭素の貯蔵媒体として重要な有機物に関する循環像を構築する必要があります。

 このため、筆者は陸域から海洋への有機態炭素の移行量、有機物の特性を考慮した移行挙動、移行に関する滞留時間といった時間軸を考慮する必要があると考え、流域に黒ボク土や泥炭地が点在する北海道の河川(石狩川、十勝川等)を対象に粒子態及び溶存態有機物の炭素同位体、特に放射性炭素(C-14)をトレーサーとした移行解明研究に着手しています。溶存有機物に関しては、難分解性で溶存有機物の大部分を占める高分子電解質の有機酸の腐植物質に着目し、数百リッターの河川水からXAD樹脂により腐植物質を分離精製し、各種の分析項目を通じて腐植物質の特性を把握し、起源地域の推定も検討しています。また、腐植物質は植物プランクトンの増殖に必要な鉄のキャリアーとして作用していると考えられているため、腐植物質と鉄の錯体特性に関する検討を道東の湿原域で進めています。今年度からは、同様の研究をアムール川流域で行う予定です。



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