地球 Γεια  Earth



Γεια 海洋植物プランクトンの細胞死と地球環境変化
鈴木 光次     すずき こうじ 


 海洋植物プランクトンは海洋の主要な基礎生産者です。即ち、植物プランクトンの光合成による有機物生産が、海洋生態系を支えているとともに、海洋物質循環に果たす役割も非常に大きいです。海洋植物プランクトンは、従来、沈降と動物プランクトンによる補食によって海洋表層から取り除かれることがなければ、基本的に不死で、無限に増殖すると考えられてきました。しかし、最近、海洋表層において、栄養塩枯渇、ウイルスや細菌による感染、紫外線等により、無視できない量で植物プランクトンが死んでいることが明らかとなってきました。植物プランクトンの細胞死が海洋の生態系や物質循環に与える影響として、基礎生産の低下とそれに伴う海洋二酸化炭素固定能力の減少および漁獲量の低下などが考えられます。しかし、植物プランクトンの細胞死に関する知見は未だ非常に乏しいのが現状です。

 そこで、私たちの研究グループでは、地球環境変化(地球温暖化に伴う海水温上昇や海洋中深層から表層への栄養塩供給の減少、成層圏オゾン濃度の減少による生物に有害なB領域紫外線の増加等)との関連を含めて、西部北太平洋亜寒帯域の植物プランクトン群集を対象に細胞死の研究を開始しました。その結果、夏季に優占している体長10ミクロン(1ミクロン=1/1000ミリメートル)以下の小型植物プランクトンの生存率は70%以下であること、また、植物プランクトンの生長に必須な鉄を海水に添加することにより、植物プランクトンの生存率が顕著に増加することがわかりました。近年、西部北太平洋亜寒帯域では、植物プランクトンの現存量や純群集生産が年々低下していることが示唆されており、植物プランクトンの細胞死がその一因になっている可能性があります。このため、今後も西部北太平洋亜寒帯域の植物プランクトンの細胞死の季節変化や年々変化、細胞死を支配する機構について調べていきたいと考えています。




Γεια 生物のもつ表現型の可塑性と環境への適応

三浦 徹    みうら とおる  


 21世紀になって様々な生物種のゲノム情報が次々と解読され、生物学に大きなインパクトを与えている。この「ゲノム情報」に従って、生物の形質すなわち表現型が作られていることは多くの人々の知るところだろう。また、「遺伝か環境か」と言われるように,環境に応じて生物の性質は可塑的に変わりうるということも、多少なりとも知られている。しかし、環境要因と遺伝的要因がどのように相互作用して最終的な表現型が作られるのかはまだよくわかっていない。

 私はこれまでシロアリなどの社会性昆虫を対象に、カースト分化に関する研究を続けてきた。「カースト」とはその役割に適した形態や行動を示す個体の種類で、女王や兵隊アリ、働きアリなどである。兵隊アリや働きアリは不妊カーストと言われ、自らは子孫を残すことができないが、どの個体も全てのカーストに分化できる遺伝情報は持っている。しかし、発生の過程で各個体が受ける環境要因により、ある個体は働きアリに、またある個体は女王へと分化していく。社会性昆虫で面白いのは、それぞれの役割を担うカーストが適応的な(ちょうどよい)比率で存在していることである。おそらくはフェロモンなどを介した個体間相互作用が個体発生に影響を与え、最適カースト比が調節されているのだろう。

 社会性昆虫のカーストは、環境に応じて発生過程で表現型を切り替える「表現型多型」の代表的な例である。他にも表現型多型には、チョウの季節多型や、バッタやアブラムシが密度によって翅型を変化させたりする例などが有名である。これらの生物では、「ある環境では表現型Aを発現し、別な環境では表現型Bを発現する」というプログラムがゲノム中に存在するはずである。生物の設計図であるゲノムと、それを取り巻く環境が「表現型」というインターフェイスを介して、いかにして多様な形質を進化させてきたのだろうか。我々の研究から,その答えが見えてくれば幸いである。