地球 Γεια  Earth



Γεια 余分な廃棄物を出さないクリーン化学合成
神谷 裕一  かみや ゆういち  


 いわゆるプラスチックに代表される汎用樹脂や合成繊維、合成洗剤、食品添加物、医農薬品など、現代社会を生きている我々は、化学(産業)に大きく依存した生活をおくっている。化学は我々に多くの利益をもたらしてきたが、同時に資源の大量消費を促し、その結果、廃棄物問題を引き起こしてきたことも認めなければならない。だからといって化学製品が無かった時代に戻ることはできないので、少しでも廃棄物を少なくするよう努力してゆくしかない。

 プラスチックは便利だが、使い終わればゴミとして環境中に放出(放置)される。すなわち、製品自身が最終的にゴミとなる例である。この場合、我々ユーザーの眼に直接ゴミとして認識されるため、比較的早くから(もちろん完全ではないが)改善策が産官学で練られてきたように思う。その一方で、我々ユーザーが直接眼にはしないけれども、化学工業では製品とともに膨大な量の廃棄物が排出されている。例えば、代表的な合成繊維の6-ナイロンの原料であるε-カプロラクタムを1kg製造するためには、5 kgもの硫酸アンモニウムをゴミとして副生しなければならない。この様なケースでは、経済性さえ成り立てば、いくら廃棄物を出しても構わないという論理でこれまでは進んできた。しかし、人間活動の量的な拡大に破綻が見えた現在、経済性が成り立てば廃棄物をいくら出しても良いという考え方は、もはや許されなくなっている。

 後者の例のように、化学合成の途中で必ず生成する余分な廃棄物の多くは、反応を促進するために使用される硫酸や塩化アルミニウムなど液体酸の中和塩や、重クロム酸カリウムや過マンガン酸カリウムなど量論的に使用された酸化剤由来のものである。

 固体の中には、その表面が酸として機能する固体酸と呼ばれるものがある。液体酸の代わりに固体酸を触媒にして化学合成を行えば、中和塩など余分な廃棄物を出さなくてすむ。また 固体触媒の力を借り、酸素や空気を酸化剤にして酸化反応を行えば、水のみを副生物とするクリーンな化学合成が行える。私たちは、高性能な固体触媒を一つでも多く開発し、余分な廃棄物を出さないクリーン化学合成を実現したいと考えている。




Γεια 成層圏対流圏大気交換過程の研究と熱帯における大気観測網の確立

藤原正智    ふじわら まさとも  

大型旅客機の巡航高度は10〜11kmです。中高緯度域においては、この高度はちょうど対流圏界面−tropopauseにあたります。熱帯域ではその高度は16〜18km程度へと上がります。対流圏界面を境に、下方は豊富な水蒸気と活発な対流活動に特徴付けられる対流圏、上方は高濃度オゾンに特徴付けられる成層圏となります。両圏の境界では活発な大気交換が生じており、両圏の組成変動に重要な役割を果たします。対流圏大気が成層圏へ輸送されるのは主に熱帯域です。オゾン層の収支に寄与する地表起源物質が成層圏へ流れ込みます。一方、成層圏大気が対流圏へ輸送されるのは主に中高緯度域です。対流圏のオゾンは大気質・大気酸化能の指標物質ですが、その収支に大きな影響を与える過程のひとつが成層圏からの輸送です。

 対流圏界面領域における物質輸送を具体的に担っているのは様々な大気擾乱・波・渦です。中高緯度域においては、移動性高低気圧等の擾乱に伴い対流圏界面が大きくゆがむ「tropopause folding」という現象が古くから知られています。一方、熱帯域においては、背の高い積乱雲の役割が昔から議論されてきましたが、1990年代後半以降、私が行った観測や大気大循環モデルを用いた研究などにより、組織化した積雲群とそこから励起される熱帯特有の大規模な大気波動の重要性が明らかになってきました。

 熱帯の対流圏界面領域の研究がゆっくりとしか進まなかった理由は、そこに位置する国々の事情と、高度約17km、平均気温−85℃という過酷な環境とにありました。私は、熱帯の国々や日本・欧米の人々と協力しながら熱帯大気環境の観測網の確立を目指しています。写真のインドネシアでは10年以上、気球観測を中心に活動してきています。最近では、上記環境で利用可能な測定器の開発にも関わっています。これらの活動を通じて、熱帯大気中の各種過程の研究や長期変動研究に不可欠なデータを取得するとともに、熱帯そして世界の人々と一緒に地球環境問題について考えようとしています。