地球 Γεια  Earth



Γεια 大気環境に関わる化学反応過程の理解を目指して
廣川 淳  ひろかわ じゅん 

成層圏に存在するオゾン層は、地上の生命系を有害な太陽紫外線から守るはたらきをしています。しかし、オゾンは強い毒性を持つため、対流圏、とりわけ地表付近では、人体、植物などにとって有害な大気汚染物質です。また、オゾンは温室効果気体でもあるため、地球温暖化にも影響を及ぼします。対流圏におけるオゾンは、窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素など、おもに人間活動により排出される化学種を原料とした光化学反応を通して生成されます。そのため、産業活動の活発化に伴い、対流圏オゾンの濃度は増加傾向にあり、大気環境における大きな問題の1つになっています。私たちは、対流圏オゾンの化学反応過程の理解を目的として野外観測、室内実験研究を行っています。その中でも、対流圏オゾンの生成・消失過程への関与が最近指摘されている、反応性の無機ハロゲン種に焦点を当て、質量分析法を用いた観測、実験研究を行ってきました。その結果、海塩粒子と大気成分との不均一反応により、大気中に臭素分子が生成し、これが光化学的に対流圏オゾンを破壊しうることがわかってきました。このような知見は、対流圏オゾンの地球規模での濃度を予測していく上で重要であり、今後、実験研究を通して、より定量的な情報を得ていく必要があると考えています。

 また、海塩粒子の他にも、大気中にはいろいろな粒子(エアロゾル)が浮遊しており、人体、特に呼吸器系への悪影響や、地球規模での気候変動などの広域な大気環境影響が懸念されています。私たちは、これらエアロゾルの関わる化学反応過程についても、その解明を目指した研究を始めています。中でも、大気成分が化学反応を起こすことによって粒子ができる過程は未解明な部分が多く、粒子生成にとって重要な原料となるアンモニアや揮発性有機化合物(VOC)などの濃度を高感度に、非常に速い時間分解能で測定するための装置開発を行っています。今後、開発している装置を用いて、実験研究や野外観測研究を展開していく予定です。




Γεια 環境修復に役立つ微生物たちー特殊油田の細菌の世界

森川 正章    もりかわ まさあき  

快適な地球生態圏を維持するために微生物のちからを利用しない手はありません。私たちは、環境修復に役立つ可能性のある微生物に関する研究を進めています。例えば、静岡県の陸性油田から分離した原油代謝細菌HD-1株は非常に変わった微生物で原油を分解するばかりではなく、CO2とH2から一部の原油主成分(アルカン)を合成するという興味深い性質を有します。一方,生育上限温度が85℃付近にある高度好熱性原油分解細菌B23株や生育下限温度が-5℃付近にある耐冷性油田細菌SIB1株なども発見しました。B23株は、常温では固まっていて分解が難しい高分子量の原油成分を70℃で分解できます。最近, B23株は細菌(原核生物)であるにもかかわらず、その原油分解機構は酵母など真核生物のものと共通していることが分かりました。これは原始生命が太古の熱い地球環境下で発生したと予想されていることと関係があるのかも知れません。

 ところで私たちは日常、油汚れを落とすために洗剤を使います。人間が合成洗剤を発明するよりもずっと以前から、微生物は界面活性剤(バイオサーファクタント)を生産していました。新種の油田細菌MIS38株は世界最強のバイオサーファクタント生産菌です。バイオサーファクタントは原油などを微生物が分解しやすいように乳化分散するので、タンカーから漏出した重油による海洋汚染除去の促進などに役立つと考えられています。さらに一部の農作物病害菌に対して抗菌活性も示すので、分子構造の改良によって微生物農薬や土壌活性化剤としても利用できるものと期待されます。このように微生物にはとてもヒトがまねのできない数々の特化した能力があります。それが彼等の生存戦略であり生態地球圏システムがどのように劇変しても生き延びて行くことでしょう。




昨年度着任した廣川氏、そして今年5月に加わった森川氏にフレッシュな話題を提供してもらいました。