地球 Γεια  Earth



Γεια 水循環が駆動する陸上生物圏の変動
杉本 敦子  すぎもと あつこ 

水は生物圏を流れる血液のような存在である。生命の維持に欠くことのできない存在、そして様々な物質を溶かして運ぶ役割も担っている。地球システムの中で、陸上生物圏は大気圏とCO2やメタンを交換して、システムを動かしてきた。水は陸上生物圏におけるこれらの物質の交換を制御している。

 日本の真北、東シベリアには乾燥した気候帯にカラマツが生育するタイガ林が広がり、陸上生物圏の炭素の倉庫として土壌有機物が蓄えられている。降水量は毎年大きく変動し、雨が全く足りない年もある。しかしながらこのような状況でも森林が維持されてきたのは、植物にとって利用可能な水が存在していたからである。永久凍土の水である。降水量の年々の変動に対して、永久凍土は氷として余剰水を蓄え、バッファーの役割をする。従って、植物にとって利用可能な水は、その夏の降水量だけで決まるのではない。カラマツの光合成活性は利用可能な水分に依存し、年々大きな変動を示す。

 適度な水分環境の森林は、CO2の交換に加え大気中のメタンの消滅先として機能する。さらに水分量が多くなり湿地になると、水が酸素の流入を遮り、有機物分解過程は酸化的分解から嫌気的分解に移行し、生物圏の機能はCO2交換型からメタン生成型へと変化する。水深は維管束植物が生育できるかを決め、ヨシなどが生育すると土壌中から水と伴にメタンを吸い上げて大気中に効率よくメタンを放出させてしまう。水質も、水深と伴に湿地の植生を支配する。貧栄養な環境には分解しにくいミズゴケが生育可能で、循環速度を抑制するが、富栄養化が進むと、ヨシやガマなどが繁茂し、物質循環とメタンの放出を加速させる。

 地球温暖化により生物圏の水循環は変化すると考えられる。これにより生物圏の機能はどのように変化するのか、水を軸として生物圏の変動を解明していきたい。




Γεια テレコネクション:大気が繋ぐ各地の天候

渡部 雅浩    わたなべ まさひろ  

中高緯度対流圏の大気は、日々の高低気圧から10年規模のトレンドまで、様々な時間スケールの変動に満ちています。特に、大気長周期変動と一括して呼ばれる2週間から季節程度の時間スケールでは、いくつかの現れやすい循環の型があり、これらは数千キロも離れた地域で同期して生じることから「テレコネクション(遠隔結合)・パターン」と呼称されています。このテレコネクションの力学を理解することが私たちのグループの主な研究目標の一つです。

テレコネクション・パターンの代表的なものに、冬季の大西洋に見られる北大西洋振動(NAO)があります。これは、大西洋のジェット気流が北偏あるいは南偏することに対応する気圧の南北シーソーです。NAOの発見自体は古いのですが、近年の温暖化に伴い正の位相(極側で低気圧、中緯度で高気圧)が多くなっているといった話もあり、NAOは気候変動の分野で再び脚光を浴びるようになっています。

最近の私たちの研究からは、次のような過程を通じてNAOが北東アジアの天候に影響するらしいことが分かってきました。図にはNAOの正位相時の様子を描いてありますが、地中海付近で地上気圧が高いとそこに発散・収束するような流れができます。これが対流圏上層で準停滞性の大気波動を励起するのですが、ちょうど地中海から極東にかけて存在するジェット気流がこの波を捕捉します。そのため、波動に伴う流れの変化はほぼ緯度円に沿って生じ、下層ではこれが大陸からの寒気の吹き出しを弱めるために、北日本を含む北東アジアに暖冬をもたらしやすくします。このような過程の解明は、日本の中長期予報に役立つとともに、最近話題になっている北極振動[1]とNAOの関係についても示唆を与えてくれそうです。