Geia Newsletter No.14 (Autumn. 2003)

研究科設立10周年をさらなる飛躍のステップに
池田　元美　　いけだ　もとよし　

本研究科は平成５年度に３専攻で設立され、６年度に大気海洋圏環境科学専攻を加えて、現在の体制を整えた。地圏、生態、物質、大気海洋圏の環境科学という地球環境科学の基盤をなす学問分野で世界に伍す研究と、研究を通じた教育による研究者・実務家の輩出にまい進してきたところである。この間、環境を冠する多くの研究科や専攻が設立され、総合科学として地球環境に取り組む試みが進められた。当研究科では、地球環境に関する学問分野を創成するためには、異分野の専門家が一堂に会するだけではなく、別のメカニズムも必要ではないのかという認識に到った。

　形而上学的に止揚する方法もあるかもしれないが、我々は現実を見つめ、自らの足元を固めるところから始める道を選んだ。地球環境の重要課題を解明し、その将来を予測し、さらに課題を解決する一助とすることである。地球温暖化、オゾン層破壊の影響、生態系機能の低下、汚染物質の影響と除去を当面の重要課題と設定し、専攻間の協力体制を組織改革と教育研究プログラムの立ち上げによって実現しようとした。

　研究科改組を提案しながら、２１世紀ＣＯＥに申請する準備期間を経て、１４年度ＣＯＥに採択されたことは、我々の道を具現化する一ステップとなっている。ＣＯＥの成功が次のステップであるのは自明だろう。もうひとつのステップは、本学で構想中の学院・研究院において、フィールドに根をおろした生物生産科学の専門家と協力し、本学の環境科学教育を体系化していく試みである。次の１０年が飛躍の１０年となるように、そしてその成果を２０周年記念行事で披露できるように決意を固めたところである。

大気と海洋の物質循環にいまなにがおこっているのか？
ｰ観測データベースからみた地球温暖化解析結果からｰ
渡辺　豊　　　わたなべ　ゆたか　

　近年、地球温暖化に伴って海洋の循環が弱まってきていることが全地球的規模の化学・物理的データから分かってきました。

　その一例として、日本海と北太平洋の深いところの水温(T)、酸素(O2)、リン酸(PO4)の過去40年間の時系列変化を見てみます（図１）。どの場所でもTが上昇し海洋表層と深層との水の混合が弱化しているのが分かります。また、表層から運ばれるO2が20年周期の変動を伴いながら海洋内部で減る一方、深層で再生するPO4が海洋表層へ上がってこないので、PO４が深層でどんどん増加しています。このことからすでに北太平洋で海洋表層の生物活動の減少が始まっている可能性があることが分かってきました。

　そこで、生物活動の減少を詳しくみるために、生物活動の指標となる西部北太平洋表層のクロロフィル(Chl)とPO4の過去30年間の冬と夏の時系列変化を見てみました。ここではその結果を載せていませんが、期待されたように広い範囲でChlとPO4がともに20年周期の変動を伴いながら減少していることが分かったのです。さらに、PO4の減少率が冬より夏が小さいことから、生物の種のシフトが起こっていることも明らかになりました。また、Chlサイズの変化を見てみると、北太平洋で主要なケイ藻に替わって円石藻が増えていることも明らかになっています。このことはますます二酸化炭素を海洋が吸収できなくなる方向へ向かっていることを示しているのかもしれません。

　しかし、ことはそう単純ではありません。円石藻が増えるとアルベドも増え、雲核となるDMSという物質も増えるので負のフィードバックがかかるのかもしれません。そこで、現在、これらの地球規模の総合的な解析を進めるとともに、素過程も明らかにするために日夜観測にも出かけているところなのです。