Geia Newsletter No.6 (Jun. 2001)

生態地球圏システム劇変の予測と回避
池田　元美　　いけだ　もとよし　

　大学院地球環境科学研究科と低温科学研究所は､21世紀COEの学際･複合分野で採択された｢生態地球圏システム劇変の予測と回避｣という課題のもと拠点構築を開始した｡生態地球圏システム劇変とは､生態系と非生物地球圏が相互作用をすることによって､環境の自律回復を不可能にするために起こる100年スケールの劇的な変化のことである｡

　二酸化炭素排出による地球温暖化､フロンによるオゾン層破壊､開発による森林破壊、そして環境汚染物質は、それぞれが独立に環境劣化を起こすだけではない｡森林減少による二酸化炭素吸収低下が温暖化を進め、また温暖化によって森林が減るという相互に及ぼす悪影響はその一例である｡

　これら全体をシステムとして理解し､その変化を予測する必要がある｡大西洋の寒冷域では全編汗をめぐる深層水が形成されており､温l暖化のために生成虫が減ると､コンベヤベルトが弱まって全地球規模の気候変化を起こす｡それだけでなく､植物プランクトンの成長を支えている海洋中の栄養塩を海面近くに運べなくなり､二酸化炭素を吸収する力が衰えてしまう｡

　この一例にとどまらず､さまざまな生態系と地球圏の相互作用を対象に､寒冷域と熱帯温群の対比を通じて､現場観測とモデリングの両面から､現象の理解と将来予測を試みる｡劇変の回避についても､自然をコントロールするのではなく､自然生態系と物質循環のサイクルを助けることをめざす｡たとえ変化の速度を緩めるだけでも､人頬社会が変化に対応する余裕を与えるだろう｡教育の大きな使命としては、東･東南･南アジアの若手研究者を地球環境科学専門家に育て､地球環境保全の国際連携を構築していく所存である｡

地球温暖化チーム
南川　雅男　みながわ　まさお

　今や地球温暖化はさけられない状況と判断されつつある｡温暖化が今後どんな規模で､どこに、どのような影響をもたらすか早急に知らなければならない｡この研究班では､大気･海洋･睦圏と生物圏をまたぐ物質輪送と気候変動の相互作用を詳細に調査することによってそれに答えようとしている｡

　一方で､C0 2の純洋隔離や同定法など温暖化を抑制する大規模な対処療法ですでに内外で提案されつつあり、その選択も緊急に迫られている。問題はこれらの実行案が効果的であればあるほど自然界にもたらすまた大きいことである｡研究班では、そうしたリスクをできるだけ予知し､現実的な選択肢を形成するための評価体制を確立することも課題としている｡

　自然の仕組みにできるだけわずかな変更を加えることで効果的な炭素の隔離や国定を促すような実施案は望ましいが、そのためには現場での生物環境や物質循環の仕組みをより詳しく知らなければならない｡また､リスク面にも焦点を当てて冷静に実施方法を検討することも必要である｡人類は陸上から大気や海洋への物質輸送フラックスを予想以上に増幅させてしまったが、それは必ずしも負位ばかりとはいえない｡炭素循環の中にうまく組み込めば､かえって生物生産の駆動輪として炭素固定に役立てられるかもしれない｡野外調査とモデル解析を融合させたこの研究をとおして､人為操作の許容範囲やリスク評価の方式もみいだしていきたい｡

オゾン層破壊影響評価チーム
東　正剛　　ひがし　せいごう　

　以前、海洋における物質循環は、植物プランクトン→動物プランクトン→高次消費者→分解者という食物連鎖に沿うと考えられ、これを古典的ループとよんでいる。しかし、近年、野外機器の発達によりバクテリア量の測定が比較的容易になり、特に外洋域では「微生物ループ」が大きな比重をしめていることが明らかになってきた。海水中の有機物は、主に生物の死骸が粉砕された粒状有機物と、主に生物の代謝二次物質として海水中に放出された溶存有有機物とに分けられ､外洋域では後者の方が圧倒的に多い｡

　溶存有機物は古典的ループでは利用できないが､従属栄亜型の細菌微生物ループへの紫外線Bの影プランクトン(バクテリア)はこれらの溶存有機物を積極的にとり込んで増殖し､その細菌類を微小鞭毛虫が､また微小鞭毛を繊毛虫が捕食しており,この物質やエネルギーの流れを微生物ループとよぷようになった｡

　しかし､バクテリアは紫外線に極端に弱い上に,外洋域では紫外線の透過率がよく,海洋における物JBの生産や循環はオゾン層破壊の影響を強く受ける可能性がある｡紫外線影響評価チ-ムは､陸域における難分解物質の分解速度と､海洋における微生物ループへの紫外線Bの影響を中心に､これから少なくとも数十年続くと予測されているオゾン層の破壊が生態系に及ぼす影響を明らかにしていく。

汚染物質（評価修復）チーム
田中　俊逸　　たなか　しゅんいつ

　我々のグル-プはCOEプログラムの中で､低濃度環境汚染物質の探索と影響評価,その低減化に関する研究を担当する｡近年､非常に低濃度で生殖や免疫など生命の根源に関わる諸過程に深刻な影響を与える汚染物質の存在が指摘されている｡このような新しいタイプの環境汚染物質から人類や生態系を守るためには、図1のように、探索-影響評価-状況調査-低減化(環境修復)のような一連のシステムを稼働させて対処することが必要である｡

　我々のグループでは､内分泌攪乱作用に加え､細胞の分化やアポトーシス、神経や遺伝情報伝達系や免疫系への影轡など新たな観点から未知環境影響物質を探索し、その影響評価を行う｡新たな探索法や影響評価法の開発によって､これまで見過ごされてきた環境汚染物質やその影響を見出すことが期待できる｡また､探索や影響評価とともに､これらの汚染物質の影響を低減化する環境修復技術の開発も行う｡特に、汚染物質を選択的に濃縮する吸着法や吸着剤の開発､化学､電気化学とバイオ技術を組み合わせた除去や分解法の開発による低濃度汚染物質の低減化に取り組む｡図1のシステムはまた温暖化やオゾン層の破壊などのグロ-パルな地球環境問題へも適用できる｡両者は図2のように研究の縦糸と横糸の関係にあり､余力があれば他のグループとの共同研究にも取り組みたい｡

　現時点でのグループの構成は､探索を沖野と磯崎､影響評価を蔵崎と新岡､状況調査を田中と磯崎､環境修復法を坂入､嶋津､奥原､田中が主に担当する｡一連のシステムを十分に稼働させるにはまだ十分とは言えず､グループ以外の方にも協力を御願いしたい｡また、上記のシステムに組み込める研究プロジェクトがあれば提案していただきたい｡

図1

図2