研究概要

 当研究室では、燃料電池材料、特に電極触媒を中心とした研究を進めています。その中でも、技術 研究組合FC−Cubicと共 同で進めているNEDOプロジェクトでは、電極反応、特にカソードで起こる酸素還元反応(ORR)の機構解明や表面吸着種の影響などの解析であり、様々な 計測法を用いて電極触媒の表面に存在するアイオノマー(高分子電解質)、ガス相、水などが反応に及ぼす影 響を評価しています。一方、従来の電極触媒として用いられてきたPtに代わる電極触媒の開発も進めており、ラッカーゼ(Lac)やシトクロムc酸化酵素 (CcO)など、呼吸鎖を担う生体酵素の反応中心を模倣した多核金属錯体を担持した電極触媒に注力しています。現在進行している研究の一部について以下で 述べます。

 電極触媒層はガス拡散電極として機能するために、多孔質構造を形成していますが、担体であるカーボンブ ラックはイオン伝導性がないの で、そのままでは反応が進行しません。そのため、高分子電解質膜膜と同じような組成のアイオノマーを混練することで、イオン伝導性を付与し、水素極(ア ノード)で水素 酸化反応(HOR)により生成したプロトン(水素イオン)を、電解質膜を介して、空気極(カソード)まで輸送し、電子4個とプロトン4個を用いて酸素を水 にまで還元します(酸素還元反応:ORR)。従来、触媒層内の アイオノマーは分厚い層を形成していると考えられていましたが、最近のETEM観察などにより、非常に薄い2〜3 nmの厚みしかないことがわかってきました。このような極薄膜におけるイオン伝導機構にくわえて、極薄膜内のアイオノマー分子構造に対して関心が寄せられ て います。
 本研究では、界面に存在する分子にのみ敏感な、振動和周波発生(VSFG: Vibrational Sum Frequency Generation)分光法を用いて、典型的なアイオノマーであるナフィオン(Nafion)と電極触媒である白金(Pt)との界面構造を、原子・分子 レベルで明らかにしようとしています。VSFG分光には強い光電場が必要であり、フェムト秒レーザーのような超短パルスレーザーを使用します。


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市販のアイオノマーであるNafionの分子構造の一部です。ペルフルオロアルカン(フッ素化したアルキル鎖)の主鎖と末端にスルホ基を有する側鎖 から成っています。

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VSFG分光計の構成です。フェムト秒再生増幅器Integra-cをベースとして、2台の光パラメトリック発振器で波長可変な可視ピコ秒パルスと 中赤外フェムト秒パルスを生成し、試料表面に同時かつ同位置に照射することで、VSFG信号が発生します。この信号は目に見えない微弱光なので、冷却した 分光用CCDで検出します。

 現在、電極触媒として一般的に使用され ているのは白金族金 属(PGM)合金です。しかし、白金は地殻内の存在量が限られており、高価な 貴金属であるために、燃料電池のグローバルな普及のためには、その代替材料の開発が不可欠です。現在もカーボンアロイやFe配位カーボン材料、Co酸化物 担持触媒の他、様々な材料開発が世界各地で競争的に行われています。
 本研究では、生体内の呼吸鎖に存在する金属酵素であるシトクロムc酸化酵素(CcO)やラッカーゼ(Lac)などの反応中心を模倣した多核金属錯体を電 極触媒として利用することを指向しています。CcOの反応中心には銅(Cu)イオンと鉄(Fe)イオンが、Lacの反応中心にはCuイオンが複数含まれて いま す。現在はLacの反応中心であるCu三核錯体構造に近づくため、A. Gewirthらが開発した複核Cu錯体を参考に、カーボンブラック担体表面に錯体結晶を微細に分散した触媒を合成し、その酸素還元反応(ORR)機構を シンクロトロン放射(SOR)光を用いたX線吸収微細構造分光(XAFS)法により評価しています。今後、より精密な活性構造の解析や、新規の配位子を合 成することで、生体内金属酵素の反応中心構造に近づけてゆきます。

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高エネルギー加速器研究機構(KEK)のフォトンファクトリー(PF) で共同利用実験を行っています。2013-14年度の実験も承認されており、 1年に3回、各96時間の実験を行っています。写真はその場蛍光XAFS測定の様子です。

連絡先

電話  011-706-4526

FAX 011-706-4529

E-mail: iyagi★ees.hokudai.ac.jp
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その他の研究

3. Nafion側鎖モデル電解質の白金単結晶電極における動的挙動の解析

4. 電気化学マイクロ流路における酸素還元反応時間分解表面増強ラマン散乱分光による追跡

新たに始めるかもしれない研究
1. サイズ、距離、形状を制御した白金ナノクラスターアレイにおける酸素還元反応速度論の解析

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Last Updated: 2014.04.08