CONCEPTS & OBJECTIVES

当研究室で開発された金クラスター群

関連研究分野:有機化学、錯体化学、高分子化学、超分子化学、コロイド/界面科学
機能性有機分子:ポルフィリン、カリックスアレン
クラスター種:Auクラスター、半導体クラスター、量子ドット

世の中の物質の多くは、異なる化合物(物質)の「複合体」として存在し機能しています。例えば、動物の体は無機物である骨とそれ以外の有機物からできており、それらが互いに相補的な役割を果たして連携しあうことで、高度な機能が実現されています。では、もっと小さい「分子」の世界でも同じことができるのではないでしょうか?この研究はそのような単純な疑問から始まりました。


  •  金属クラスター本研究室では、数十から数千の金属原子を含むクラスター性金属化合物」に注目しています。この化合物群は、通常の分子性化合物より一回り大きい数ナノメートル程度のサイズ領域にあり、量子サイズ効果など単純な金属錯体やバルク金属化合物にはみられない独特な性質を持ち合わせています。こうしたユニークな特性をもつ無機物を基盤として、構造、性質を全く異にする有機物と分子レベルで複合・集積化(ハイブリッド化)すれば、これまでにない未知の機能を引き出せる可能性があります。本研究では、こうした有機/無機クラスター複合系の未知の特性を基礎的見地から探索するとともに、それを利用し環境モニタリングや環境保全触媒などへ展開できる新機能を開拓することを目指しています。

<有機/無機界面で起こる化学事象の制御>

  • 無機クラスターがもつ特異な性質を利用して「機能」を引き出すための手段として「有機物でできた空間環境」を構築し、有機/無機界面でおこる分子事象(Molecular event)を利用した機能の探索を行っていますすなわち、ソフトな有機部位と固い無機ユニットの間に形成される特異な「ナノ空間」でおこる物質間相互作用を利用することで機能を創出します。例えば、ある分子が界面部(=クラスターの表面近傍)に近づいてきた時に、その情報が無機クラスターのほうに伝達されて、特有の分光学的、電気化学的性質に何らかの変化を誘起すれば「機能」につなげることができます。また、捕捉された物質が活性化されて反応することも考えられます。これらはそれぞれ「センシング」「触媒」といった環境科学と密接に関連する機能に直結します。

<有機物によるテーラーメードな「場」の構築>
- 無機クラスターの上で展開される有機化学・超分子化学の世界 -

  • 表面での相互作用だけを無機表面近傍への選択的物質捕捉と それにともなう応答機能発現の模式図利用すると、似たような物質では同じような反応や応答がおこってしまうと予想されます。しかし色々なアウトプットを考えると、ある物質に対する特異性(選択性)がでることが望ましいわけで、そのためには、選択的に表面と相互作用できるような「しかけ」を用意してやればよいことになります。そこで、フレキシブルな設計が可能な有機物をつかって、無機表面の周りに「認識場」「反応場」を目的に応じて設計し、ある特定の物質が相互作用できるような設計を行います(=分子認識)。すなわち、コロイド的な無機クラスターの化学に、有機化学・錯体化学・超分子化学のエッセンスを注入して、両者を融合することで新しい化学を創出していきます。

<生命のメカニズムを学び、生命を超越する>

  •  一見意外に思えるかもしれませんが、本研究の原点は金属タンパク質です。良く知られている通り、金属タンパミオグロビンの構造 (黄色の部分が金属中心)ク質では、活性な金属中心をつつみこむポリアミノ酸(タンパク質)によって機能がコントロールされています。その典型がヘムタンパク群です。このタンパク群に属するものは多数知られていますが、その機能は酸素貯蔵・運搬(ミオグロビン、ヘモグロビン)から酸化触媒(チトクロムP450、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ)、電子伝達(チトクロムc)まで多岐にわたります。しかし、活性中心はいずれも同じ鉄ポルフィリン錯体です。従って、周りの有機物(ポリアミノ酸)との相互作用によって、金属中心の機能が様々に制御されているわけです。もちろん、これと同じことを人工系で実現することは極めて困難ですが、原理的には有機部位の設計次第で内包する金属種(クラスター)の機能を改変できることを示す好例と言えるでしょう。
  •  また、生命は、水素結合、π相互作用、疎水相互作用などの弱い分子間力を巧妙に用いて、機能モジュール(核酸、タンパク質など)間の複合体形成をコントロールし、機能の発現、調節を行っています。本研究では、こうした弱い分子間相互作用に基づく超分子的メカニズム無機の金属クラスター物質に取り入れて、生命を越える人工機能を実現することを目指していきます。

半導体ナノクラスターを用いた化学センサー

部物質の刺激によって半導体クラスターの発光を変化させる

  • 導体性クラスターは特異な発光(蛍光)を示すことから、バイオイメージングやLEDへの応用が活発に検討されています。本研究では、発光の起源である無機骨格部分と外部物質(ゲスト)との相互作用に注目し、それに応答した発光変化を利用した高感度センシング系の開発を行っています。さらに、有機合成によって表面上に適切な認識場をデザインすることで、環境ホルモンなど特定のターゲットに対して選択的に応答する系のテーラメード設計にも挑戦しています。
  • (代表的論文)
    • Langmuir, 2011, 27, 1332 (invited paper)
    • Angew. Chem. Int. Ed., 2006, 45, 5191
    • Angew. Chem. Int. Ed., 2004, 43, 5943
  • (総合解説)
    • 有機合成化学協会誌 2008、3月号、239

裸のナノ金属表面~ナノ金細工

位不飽和クラスター」の配位化学〜反応性と応答性


  • 数ナノ程度のクラスター構造を溶液中で維持するためには、表面を密に被覆する保護配位子が必須であり、これまで金属表面でおこる諸現象(相互作用や反応)はよくわかっていません。当研究室では、金属表面を一部だけ露出させた「配位不飽和クラスター」を合成する手法を開発し、その「裸のナノ金属表面」でおこる配位化学に基づいた諸現象について検討を進めています。また、金属数10個程度の単一分子クラスターの幾何構造や金属数を制御する「ナノ金細工」の検討も行っており、スペクトル特性が構造によって著しく依存することを初めて明らかとしました。さらにその配位不飽和サイトを利用したアプローチについても検討しています。
  • (代表的論文)
    • Small, 2010, 6, 1216
    • Angew. Chem. Int. Ed., 2011, 50, 7442
    • Chem. Commun., 2012, 48, 7559
    • Nanoscale, 2012, 4, 4125
    • Inorg. Chem. 2013, 52, 6570
    • J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 16078

金属クラスター/ポルフィリン錯体複合分子触媒

属クラスターをポルフィリンのかごの内部空間にとじこめ

  • Auをはじめとする貴金属のクラスターは、物性のサイズ依存性(量子サイズ効果)や触媒機能が注目を集めています。本研究室では、6コのポルフィリンからできたかご状構造体の内部空間に金属クラスターを閉じ込めることに成功しました。π電子リッチで立体的に規制された空間を利用して選択的な触媒反応を実現することを目指しています
  • (代表的論文)
    • Chem. Commun., 2003, 1282; Chem. Lett., 2006, 476

Auクラスターの「助触媒作用」

  • Au化合物が示すユニークな触媒作用に近年関心が集まっています。当研究室では、ある種のAuクラスターがMnポルフィリン錯体が触媒する酸化反応を著しく促進する「助触媒」として働くことを見いだし、その機構解明を進めるとともにさらに展開を図っています
  • (代表的論文)
    • J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 14401; New. J. Chem., 2008, 32, 2134


有機/金属クラスター超分子集合体

イブリッド超構造と有機/無機ナノ界面での化学事象に基づいた機能開拓

  • クラスター性金属種の無機表面と有機物の間でく微弱な分子間相互作用を利用して、特徴的なモルフォルジーをもつ有機/無機ハイブリッド型の超分子集合体の設計を行っています。これまでに、ヘテロポリ酸(Mo, V, Wの酸化物クラスター)とカリックスアレーンの超分子複合結晶内部に形成されるゼオライト様の細孔構造が、炭化水素類を立体選択的にとりこむことなど、興味深い事実が得られています。結晶系のみならずソフトな超分子系にも展開しており、有機/無機界面での分子事象を利用した応答機能などへの展開を目指しています。
  • (代表的論文)
    • Angew. Chem. Int. Ed., 2004, 43, 2702
    • Chem. Lett., 2007, 246