2016年度沼口賞受賞者および受賞理由

2016年度沼口賞受賞者および受賞理由

【2016年度沼口賞受賞者】
2016年度は3名の学生が沼口賞を受賞しました。

(1)
氏名: Boniface Wainaina Kariuki
Characterizing solar resource potential for photovoltaic applications in Kenya with focus on variability using Meteosat satellite data (Meteosat衛星を用いたケニアにおける太陽光発電ポテンシャル量の変動性の特徴)

論文要旨

【選考理由】
 地球規模の電力需要の増加に応えるため、環境負荷の少ない再生可能エネルギーの利用が世界各地で進んでいる。本研究で対象としたケニアは、赤道近傍に位置していることを考慮すると、太陽光発電が最も有力な選択肢の一つであるが、日射量の時空間変動特性を考慮した発電可能量の評価はこれまで行われていなかった。そこで本研究では、空間的に均質なデータを得ることができる人工衛星観測から推定された19年間の日射量データを用いて、当地域における太陽光発電可能量の時空間的な変動特性を評価した。全天日射量は、季節変化を考慮したとしても、ケニアのほぼ全てのエリアで6kWh/m2/dayを上回ることが分かった。また、全天日射量の方が直達放射量よりも時空間変動が小さいことから、当地域では集光型よりも平板型の太陽光発電システムの方が安定的な電力供給が実現できることが示唆された。次に、人口の多い6都市について、全天日射量の急激な日変動が発生する事例を統計解析した結果、海岸部では雲の発生や通過に伴って日射量の急変動が発生しやすいのに対して、東部や西部では急変動の頻度は相対的に低いことが明らかとなった。
 本研究は、人工衛星から得られる膨大な量の日射量データを最大限に活用することで、地上観測データが乏しい地域においても、太陽光エネルギー賦存量の評価や変動特性を考慮した設備設計を提言することができることを示した。さらに、運用時のリスク要因である発電量の急変動事例の出現頻度が地域や季節によって異なることを明らかにした。このように季節性や日変動性にまで踏み込んで太陽光発電ポテンシャルの評価を行った本研究は、太陽光発電システムの普及を通じたエネルギー問題の解決に貢献する知見を提示するものであり、環境起学専攻の理念と目的にもっとも合致していると言える。以上の理由から、本論文は沼口賞を受賞するのに相応しいと認められた。


(2)
氏名: Rospriandana Naufal
Assessing small hydropower potential in Indonesia: from environmental and economic perspectives
(インドネシアにおける小水力発電の可能性評価: 環境性・経済性の観点から)

論文要旨

【選考理由】
 経済成長著しいインドネシアではエネルギー供給量の増強が急務であると同時にCO2の排出抑制も求められており、両課題を満たす解として再生可能エネルギーの導入拡大が期待されている。特に、小水力発電は安定的に電力を供給できること、また地域経済への波及効果が大きいといった便益を有しており、その導入拡大はエネルギーの分散需給に貢献すると考えられる。
 このような社会的背景を踏まえ、Rospriandana君はインドネシア・チタラム川流域を対象に、まずは水文モデルと地理情報システムを駆使して同流域における小水力発電賦存量を見積もった。小水力発電設備は一度導入すると数十年間は使用し続けるため、事業者が導入に踏み切るかの判断材料として、運用期間全体の採算性が取れるかどうかが鍵となる。この観点から、将来の気候変化に伴う発電量の変化を含めた費用便益分析を行い、同流域における有望地点を抽出した。これらの研究成果の一部は学術誌Hydrological Research Lettersに掲載済みである。
 さらに、Rospriandana君は人口の半数が電力を享受できていない同国の離島を対象に、同様の手法を用いて小水力発電を含む再生可能エネルギーを導入に向けた提言研究を行った。非電化地域の住民が必要最低限のエネルギーを享受することは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも合致するものであり、再生可能エネルギーの導入が単に地球温暖化・海洋酸性化の緩和だけではなく、地域における貧困・人権問題の改善も貢献し得るという、新しい便益を付与するものである。
 以上の理由から、本論文は環境起学専攻の理念と目的に合致し、受賞に相応しいと認められた。


(3)
氏名: 宋 媛媛
河床間隙水湧出が河川河畔生態系に及ぼす影響 (Effects of hyporheic water upwelling on river and riparian ecosystems)

論文要旨

【選考理由】
 生態系の構造や機能とそれらに対する人間活動の影響を把握することは、持続的な自然資源の保全管理の実施において極めて重要である。本研究は、都市化による水質や物理構造への影響が比較的強い札幌市内を流れる豊平川を対象に、地下水と陸域の生態系相互作用の一部を明らかにした。野外調査により得られた水や生物試料に対して化学分析や群集構造定量化を行うことで、湧出間隙水が特異な水質により河川内一次生産を高めること、また、その結果河畔消費者の個体数や河川由来資源への依存度が高まることを示した。水循環の観点からは、低地への降水を由来とし人為由来の窒素添加の影響を受けた地下水が、湧出水の起源であることが示唆された。この成果は、当該河川および河畔環境の保全管理において地下水を含めたより広域の水循環を考慮することの重要性を示した。
 以上の研究は、河床間隙域、河川、河畔域という3つの生態系間の境界を越えた相互作用を示す事例として生態学的に高い新規性が認められる。厳冬期から夏季まで異なる季節での多種試料の採取と安定同位体比分析から昆虫の個体数計測まで多様なアプローチを複合的に用いた重層的な研究計画・成果は高く評価できる。以上の理由から、本論文は環境起学専攻の理念と目的に合致し、受賞に相応しいと認められた。

Graduate School of Environmental Sceince, Hokkaido University