NEWS LETTER    第7号 (2005年 冬)


 熱帯アジア湖沼生態系の特徴をさぐる
    石川 俊之     いしかわ としゆき


  東南アジア地域では、生物多様性の高い豊かな淡水環境がみられます。淡水域の水産業も盛んで、人々が摂取するタンパク質の相当量は淡水の水産資源に依存しています。この地域はモンスーンの影響を受けるため、明瞭な雨季と乾季があり、河川や湖沼では数メートルという大きな規模の水位変動がみられます。このため、低地の湖沼では、水位変動にともない湖の面積が数倍変化することがあります。このような湖沼では「浸水林」とよばれる水没に耐えられる樹種の林がみられます。雨季に浸水林が水没した湖は、日本の湖からは想像もつかないような景色になります。

  私たちの研究グループでは、熱帯アジア湖沼生態系の特徴を明らかにするために、インドネシア・カリマンタン島の三日月湖群で調査を行っています。これまでの私たちの研究の結果、モエレ沼(札幌)と同じくらいの大きさの三日月湖に30種類を超える魚類が生息していることが明らかになりました。しかし、魚類の餌として有力な甲殻類プランクトンの現存量は非常に少なく、動物プランクトンの生産を支える植物プランクトンの一次生産も低いことがわかりました。それでは、豊かな魚類を支えている有機物はどこから来るのでしょうか。

  私たちは、三日月湖の周りの浸水林に注目しました。驚くことに、浸水林から供給される落ち葉の量は、湖での植物プランクトンによる一次生産を上回るものでした。また、落ち葉を食べるユスリカなどの底生生物が湖岸に多く生息していることも明らかになりました。さらに、魚の消化管から大量のユスリカが見つかりました。また、小型の甲殻類は水没した浸水林の葉上やホテイアオイの根に付着していることがわかりました。どうやら、モンスーン気候が作り出す劇的な水位変動と発達した浸水林によって作り出される熱帯特有の湖岸環境が、湖の生態系の鍵となっているようです。






 透析膜内DNA水溶液によるダイオキシン類の濃縮
  -微量汚染物質の除去と分析技術への応用-

     佐藤 秀哉     さとう しゅうや

  人類社会の拡大そして科学技術の進歩に伴い人為的に産生される化学物質は膨大な量と種類に達し、時に公害のような災禍を引き起こす要因となった。近年には、内分泌撹乱化学物質など環境中の微量有害物質による生体機能への悪影響が報告されるなど、地球環境と生命体との関係において顕在化するリスクに改めて現代社会の懸念は高まりつつある。

  このような中で環境汚染の精確な実態把握と分析、評価、そして環境修復を指向した研究が世界各国で精力的に進められているが直面する課題も少なくはない。一般に対象物質の環境中濃度は非常に低く、さらに種々の包摂物質や夾雑物質と共存することが多いため、精密な分析には煩雑な前処理が要求される。また、自然環境というあまりに巨大な汚染対象を前に、現実に適用しうる浄化技術も確立はされていない。私たちのグループは、アフィニティー作用を介して環境中から微量汚染物質を選択的に回収する材料を開発し、課題解決の一助とすることを期した。

  微量汚染物質に対応するアフィニティーリガンドとして私たちが着目した物質はDNA(デオキシリボ核酸)である。DNAの二重螺旋構造には核酸塩基対が形成する疎水性の高い領域が存在し、環式の疎水性化合物に対するホスト作用を示す。私たちはダイオキシン類など汚染物質のある一群がこの作用によってDNAと相互作用することを見出し、DNAを構成要素とした物質分離システムの構築を試みた。DNAの生分解性や水溶性といった性状は半透性隔壁による封入や固定化などによって安定化可能であり、そうして得られたDNA含有材料は水中の微量なダイオキシン類や種々の内分泌撹乱化学物質、発がん性物質を選択的に吸着する機能を示した。また吸着物質の脱着(濃縮)も容易であり、環境分析の補助手段、環境浄化材料としての有用性が示唆されている。このDNA系物質分離システムについては今後の実用化に期待されたい。


   




  本21世紀COE拠点は14年度開始グループとして中間報告を受けました。計画は順調に進展しているが、劇変回避に関して、具体的方策とその客観評価方法を打ち出すようにという評価でした。このチャレンジングな目標に向かって、あと2年少々の期間で誰にでもわかる成果をあげる所存です。